間話 少しづつ近づいて
コウは魔女の霊峰一角に土地を所有している。
家も建てている。
自宅兼アジトである。
メルフィアを引き取ってから数日、様々なことがあった。
まずは余所者であるメルフィアとの関係をリンファに話した。
門下生達が騒然とする中、リンファは至って普通に接した。
「おっほぉ」と変なリアクションで二人を歓迎した。
滞在を認められたのだ。
しかし、しかしだ。
コウは、霊峰に長期滞在するつもりは無い。
それはメルフィアとて同じこと。
ぶっちゃけ、こんなド田舎で一生を終えるなど、考えただけでおぞましい。
ま、コウ個人は彼女とイチャつけるなら何処でもいいと考えていた。
アビル達と辞別して以降、コウは不安を紛らわすように、毎晩メルフィアを抱いた。
メルフィアも乗り気だった。
というのも、メルフィアから誘った。
卑怯な身体で、狡い声で、無様に愛を叫んだ。
コウの心中を底まで満たして、溢れ零れた感情を啜る。
それが楽しくて堪らない。
悪趣味な娯楽である。
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追っては無い。
しかし、いずれ必ず来る。
地獄果てまで追ってくる。
二人は考えた。
「目的は後付けで構わない。だから取り敢えず、都会に居を移しましょう。可能ならアルストロメリアと対立してる国が望ましい。当面の生活費はオレが出します」
「それは助かりますが、仕事はどうします? 職が無ければ、食いつなぐにも限界がありますよ」
「その辺は追々。魔術師団に入団するのも手です」
「見通しが甘い気もしますけど…承知しましたわ」
歳下に任せっきりの自分を恥じるように、メルフィアが視線を落とす。
そんな彼女を、コウは穏和な瞳で見守った。
「不安ですか?」
「ええ…とても。追われる身になり、そこで知り得た恐怖は、どんな希望をも呑み込んでしまいそうで…」
彼が死んだら、自分も後を追う。
そのつもりで計画を練る。
「まずは自信をつける必要がありそうですね」
「そのようですわ」
冒険はもう少し先でいいか。
と、二人の意見が一致した。
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基礎鍛錬に約一ヶ月もの時を費やした。
平たく言えば体力作りだが、二人に欠けていた重要な土台である。
毎日決まった時間に起きて、ただひたすらに山を走る。
汗をかき、泥にまみれても撃ち合う。
昼になると、メルフィアが汗びっしょりになる。
彼女は人一倍汗をかきやすい体質で、場合によってはシャワーを浴びたり、身体を拭く。
汗をかいているのに、とびきりいい匂い。
コウが木陰でソワソワとし始める時間帯。
「何してるんですの?」
「どうぇっ…! どどど…どうしてここに!」
「そろそろ再開のお時間かと思いましたが……ああ、なるほど。とんだお猿さんですね…」
茂みでこっそり。
それを終えたら、黄閃堂に向かう。
リンファの師事を仰ぐのだ。
「今日もよろしくお願いします!」
「うむ! 良い挨拶じゃの。舐め腐りおってからに…」
リンファの目は誤魔化せない。
今日は特に厳しい修行を課せられた。
「もっと足を動かさんかい、このホルスタイン女!」
「オーッホッホッホッ! 魔術師は固定砲台ですの! 遠方から城に風穴を作り、剣士を従えて進軍する魔の支配者。それが魔術師ですのよ!」
「んなこと出来るのは、あの馬鹿弟子のみじゃ! ボケッ!」
リンファの峰打ちが炸裂。
メルフィアは右足を掠め取られた。
「ギャッ…!」
メルフィアがすっ転んだ。
幸い軽く首筋を痛めた程度で、立ち上がる気力は残っていた。
でも髪はボッサボサだ。
「ふむ……まあ、高慢な態度に見合う動きではあったな。ヌシよ。次は弓術を習わぬか?」
「弓術…? 剣術ではなくて?」
「乳デカに剣は触れんじゃろ。それにひきかえ、弓術なら魔術と勝手が変わらん。修得難易度は桁外れに高いがの」
「遠距離攻撃なら、魔術で事足りてますわよ」
「言っとくが設置型は無しじゃぞ。ヌシは、100キロも遠く離れた地点に、魔術を正確に落とせるか?」
「……弓なら届くと?」
「アビル・スターマインなら、過去に何度かやったの。あやつめ、あーしの想い人が敵だったと知るや否や、国ごと消し飛ばさなんだ。やり過ぎじゃ」
「あー...まあ、あの方ならやるでしょう。なにせ、神殺しの英雄譚を作った方ですから」
「剣帝をぶった斬った日にゃ、あーしも肩身が狭くなったわい」
「け…剣帝も殺したんですの!?」
メルフィアがリンファの話に食い付いた。
実は彼女、剣帝の大ファン。
かつて世界最強の剣士と謳われた剣帝の武勇伝は国内外に広く知れ渡っており、彼女は特に毒された熱狂的ファン。
性格は、硬派で冷徹無比。
気紛れで拾い集めた孤児を門下に置く変わり者。
散歩がてら、国ごと神を両断した破綻者。
紙芝居屋が子供達に読み聞かせすると、親から野次が飛ぶ嫌われ者だ。
そんな彼を、彼女は崇拝していた。
「一対一の尋常な戦いじゃったわ。終始剣帝が優勢で、アビルはギリギリ薄氷の勝利を収めた。満身創痍であーしを持ち帰ったぞい」
「持ち帰ったって…」
「うむ。そりゃあもう……えぐいくらいに喰われたの」
リンファは少しだけ恥じらいを見せた。
自分をかけた戦いだったとは、口が裂けても言えない。
「おーおー、コウも中々やるの」
リンファがコウとケインの模擬戦に目をやった。
つられてメルフィアを視線を移す。
「つぇあぁ…!」
コウの身体を覆うベール。
五法陣天津。
片っ端から、正確無比に魔弾を放つ。
まるでお手本のような、面白みの欠けらも無い猛攻。
しかし、ケインはそう感じなかった。
「魔術回路が瞬間強化されてる。なるほど…だからこんな高出力に耐えられるのか」
冷静な分析を混じえ、魔弾を斬り裂く。
残像すら残さぬスピードで、人間の動体視力を上回る速度で撹乱を行う。
速さは強さ。
彼は、それを顕著に現している。
「綻びを見せましたね」
コウが右手をぐっと握った。
その瞬間、ケインの足が動かなくなった。
二人の足元に魔術刻印が浮かび上がる。
「自分と相手の身体をリンクさせる魔術…か。参った。降参だよ」
ケインがやれやれと剣を落とした。
コウ、本日が初めての初白星である。
「危なかったぁ…」
くらついたコウをメルフィアが支えた。
「わたくしが教えた歩法をもう身に付けるとは、恐れ入りました」
「でもまだ未完の域を出ません。メルフィアさんには遠く及びませんよ」
「当たり前ですわ。一朝一夕でわたくしに並んだと思わないで頂きたい」
「近づけはしたかな…?」
「まあ…ちょっとは。ほんのちょっと」
「……」
「……」
会話が途切れ、悶々とし始める二人。
そんな二人の物語は、これからも続く。




