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第七十四話 体術

 長らく魔術講師の真似事をしてきたが、これ程魔術の才能に富んだ奴は今までに会ったことがない。

 威力、射程、精度、どれをとっても申し分無い。

 しかし彼は、それだけでは不十分だと言う。

 新しい技術が欲しいようだ。


「オレに体術を教えてください」


 コウが両腕を引いて、奇っ怪な構えで拳を作る。

 初めて見る流派だ。


「もう既に会得しているようだが?」


「あ、これは無視して構いませんよ。なんとなく、こうかなーって感じで、ふざけただけなので」


「なるほど…どうりでおかしな構えなわけだ」


「おかしかったですか!?」


 無自覚な素人の露呈。

 コウらしいと言えばらしい。


「ま、完全初心者の領域では、堂に入っている。気がしなくもない」


「はあ…」


 コウの反応は薄いが、これ以上無いくらいの賛美を送ったつもり。

 いきなり絶賛は無理だもの。

 まして、頭部を正面に晒す豪胆さ。

 昨日寝れた? それとも寝ぼけてるのか?

 と、思わず物議を醸したくなるほど、その構えは洗練されていて、ズレていた。


「形式か、実践か。それいかんでは対武器術も交えて指導するが、どうする?」


「お願いします」


「わかった。では習得した段階で教えよう。技は今から、俺が選定する」


 コウは筋肉質で身体が硬い。

 俺が得意とする流派は合わない。

 となれば、一撃必殺を旨とする剛寄りの技術系体が望ましい。

 それなら関節の可動域を無視して、最速の重撃で相手をノックダウンできる。

 でも、カウンターがメインの流派なんだよな。

 コウが良しとするかどうか。

 

「カウンターメインになるが、それでもいいか?」


「はい! 寧ろそっちがメインです!」


「ややこしいな…」


 何はともあれ、乗り気で結構。

 早速、伝授していく。


「よし、ではまず基本的な構えからだ」


「はい。と…あっ」


 変な声を出すな。

 と思いながらも、俺はコウの身体を操るのに最適な位置に移動した。

 くっつき過ぎず、離れ過ぎずの真横だ。

 そこで俺は彼の手を取り、首を真っ直ぐに固定させた。


「まずは左手を前に出す。次いで背筋を伸ばす。右拳は縦拳の形にして、水平に。左足が前で右足が後ろだ」


「なるほど…拳法っぽいですね」


「みたいなものだな」


 飲み込みが早くて、次に教えようとしたことを忘れてしまった。

 えっと、なんだっけ。

 あ、そうそう。


「そのままでキープ、暫し待て」


 俺はコウの視界に移動して、同様の構えから、ゆっくりと拳を近づけた。


「はい敵の拳が迫ってる。どう捌く?」


「左手で捌きます」


 コウが俺の右拳をぱっと優しく払う。


「正解。そしてすぐに腰を落とし、最後はアッパー気味に縦拳を叩き込む」


「はい!」


 その言葉の直後。

 コウが視界から消えて、腹部に鈍痛を感じた。

 軽く宙に浮いた。

 上出来だ。


「強くなったな、コウ。もはや並では無い」


 やや行き過ぎな筋力鍛錬の果てに得た破壊力は、俺の臓腑に軽微な損傷を与えた。

 すぐに回復するとはいえ、かなり痛い。

 常人の10倍は頑丈な俺の身体に刻まれた、錬氏崩拳(れんしほうけん)の破壊力。

 とくと堪能した。

 

「師匠のお陰です。これでようやく……ククッ」


 怪しげな雰囲気が出てすぐ。

 突然、コウが腹を抱えて笑いだした。

 一体全体どうしたんだ?


「大丈夫か?」


「ヒヒヒっ…て。あっと、すみません。取り乱しました」


 と、何事も無かったかのように、コウが普段通りに戻った。

 少しだけ怖かったな。


「戦慄したぞ」


 率直な感想を述べておいた。


「いやぁ、新しい技を習得出来たのが嬉しくって嬉しくって…つい、物思いに耽ってしまいまして」


 どう見ても、そんなんじゃなかったぞ。

 ま、しかし。

 隠し事は今に始まった事でもないか。


「悪用はするなよ」


「はい! 頑張ります!」


「頑張りますは要らん!」


 また随分と捻くれてるな。

 もしかして、コウも反抗期に突入したのか?

 嘘だろ、おい。

 まさか、このタイミングで。


「こう来たらこう…で、こう。そして、ズドン。いけるかな…」


「組手の相手なら、何時でも引き受けるぞ」


「ほんとですか!?」


「ほんとだとも。嘘ついてどうする」


 コウが今以上の強さを求める理由は、壁にぶち当たっているから。

 壁を見せられているから。

 確かに、あの女が本気を出せば、それなりの脅威にはなるな。

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