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第五十二話 負けないために

 数日前、王都に配備されていた全ての武器庫が焼かれた。

 敵襲が無かった時間帯を考えて、裏切り者の犯行であると確定。

 現在アバドンが血なまこになり捜索している。

 内通者は殆ど捕らえたと報告を受けているが、それが原因で残された連中の行動が活発化している。

 歓楽街では派手な爆破騒動が起きて一悶着。

 長らく国の財政再建を支えてきた冒険者協会も、新規入会の取りやめを決定した。

 依頼件数は爆発的に増えているそうだが、どれもこれも国内での話なので、魔物討伐といった高難易度な依頼は後回し。

 景観保持に従事せざるを得ない状況で、息抜きもできない。

 中堅者達の士気も下がっているそう。


 これにより、新たな武器防具の買い替えを渋る動きが垣間見え、鍛冶屋の仕事は激減。

 商業都市に多大な影響が出たことは言うまでもない。

 

「へー。最近妙に依頼が少ないなーと思ったら、そういうことか…」


 テティスが運営する鍛冶屋は、かろうじて店を開けていた。

 多数の弟子を抱えている手前、少しでも多く売り上げを出さなければ、彼らの家族が食いっぱぐれてしまうからだ。

 最近は自身の貯金を切り崩して給金を与えていたらしい。


「行き先は不透明だ。あれだけ無作為に砲弾を浴びせてきた連中がここ二ヶ月まるで動きを見せない上に、財政治安の退廃。安易に頑張れとは言えない」


「言ってくれる方が、元気は出るけどね」


「今はな。後になって胸ぐらを掴まれても困る」


 俺とて、まさか二ヶ月の冷戦状態に入るとは思わなかった。

 奴らが使用していた転移魔法陣は既に効力を失っており、近隣に存在する集落は軒並み滅ぼされていた。

 連中が今どこにいるのか、何を企んでいるのか。

 皆目見当がつかない。


「殴ったりなんかしないよ。ほんとだよ」


「間違いなく焼夷弾は飛んでくるな…」


 テティスは手を動かしながら会話を成立させている。

 仕事に集中して欲しいのだが、俺も返答しているのでお相子。

 今日はテティスに武器製造を依頼した。

 武器庫が焼かれたからな。

 大抵の武器は使い物にならなくなり、火薬や燃料を必要とする火器は煤が詰まって廃棄処分。

 鎧は繋ぎ目が革製なのでギリギリ使用可能だが、こちらもやはり煤の処理に手間取っている。

 一度黒焦げになった以上本来の性能は発揮できないだろうが、無いよりはマシという考えで兵士達も納得している。

 

「少し座ってたら? 立ちっぱなしは辛いでしょ。てことで……ほいっ」


 テティスが傷だらけの切り株を用意してくれた。

 貴重な薪割り台を椅子替わりにしていいのか。

 寛大な心に感謝。


「すまないな」


「いいっていいって。あんたは上客なんだから、どかっとふんぞり返っていればいいの。それに、金の成る木には水を与えないと…」


 テティスは冗談交じりで言っているが半分本気だと思う。

 正直にものを言う、彼女の良いところ。

 テティスは昔からそうだ。

 損得勘定を最念頭に置いて依頼を受ける。

 お人好しとは真逆に排他的で柔軟な思考を持ち、非常に合理的で堅実な理念を持っている。

 彼女のように、長齢に達する純血エルフならば尚更その考え方が凝り固まるというもの。

 

「今失礼なこと考えてたでしょ?」


「滅相もない」


 表情に出やすいこの性格。

 何とかせねばな…。


---


「起きて。ねぇ起きて」


 身体を強く揺さぶられたような感覚に陥った。

 首の付け根が痛い。

 どうやら、俺は寝落ちしていたようだ。


「……ん?」


 あれ、テティスじゃない。

 カグヤだ。


「よくこんなところで寝れるね。積荷は終わったから早いとこ帰ろ」


「お…おう」


「眠たそうだね。お疲れさん」


 カグヤがぐいっと俺の腕を引っ張り、立ち上がらせた。

 頼もしくなったな。


「仲良しでいいねー」


 テティスが細目でお見送り。

 おばあちゃんか。

 

「まあな」


 俺はテティスの工房を出て、積荷の中を確認。

 よし。

 依頼していた武器は全て納められている。

 魔道具は先に運んでくれたみたいだ。


「世話になったな」


「なんのなんの。また宜しくね」


 テティスが積荷の紐をキツく縛った。

 珍しく真面目そうな顔で。


「あ、そうそう。言い忘れてたことがあった」


 なんだろうか。

 テティスがじりじりと距離を詰めてくる。

 荷台に太股がぶつかった。


「あんたが負けた時、この国の敗北が決定する。もしそうなれば、旧国家に力を貸していた連中は皆死ぬ。負けんなよ?」


 俺はテティスに胸ぐらを掴まれた。

 彼女なりの激励なのかもしれない。


「俺を誰だと思ってる。ただが一魔術師如きに不覚は取らん」


「そうやって舐めてかかると痛い目を見るよ。相手は、あの破壊王だからね」


「そいつ、俺よりも有名らしいな」


「うん。とんでもない荒くれ者だからね。知らない人はいないよ」


 テティスにバシンと背中を強く叩かれた。

 もう行けってか。

 彼女の鬱屈そうな顔を見るに、あまり長話をしたくないように思える。


「長居して悪かった。そろそろ行く」


「うん。また来てねー」


 テティスは工房に戻って行った。

 俺は荷台を押しながら王都に向かう。

 カグヤはキョロキョロと落ち着きなく俺に引っ付いている。

 

「どうしたのだ…」


 ただただ鬱陶しい。

 あと危ない。


「シーッ! 追っかけられてるの! ヤバい奴に!」


 カグヤは息を殺しながら話す。

 終始意味がわからず困惑していると、街の往来に一際目立つ鎧を身に着けた男がいた。

 白銀の鎧に、そこそこイケてる顔が合成された騎士が。


「カグヤ様ァー! 何処にいらっしゃるのですかァー!?」


 コレクトが叫んでいた。

 傍から見て不審者だ。

 カグヤはこいつから逃げてきたんだな。

 お疲れさま。

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