第四十四話 昇段試験
妖魔は魔を引き寄せるとコウに警告された。
確信に足る裏付けは無いそうだが、極力カグヤから目を離さないように言い付けられた。
オルテシアの弟に関する情報収集も並行して行いたいと話すと、コウは、それは自分に任せてくれと言った。
頼もしい限りだが、依頼されたのは俺なんだよな。
でもって、カグヤを狙う一党の数は月日を追うごとに増えている。
いくらなんでもおかしい。
ここまで来ると、手配書が出回っている可能性もあるぞ。
一時期俺も似たような時期があったからわかる。
革命軍を離反して向こう一年は安眠妨害を受け続けた。
ま、振り返ってみるとあれは俺が悪い。
独断行動ばかりしていたからな。
でもそれは、俺が人間というカテゴリーから逸脱していたからに他ならない。
カグヤはまだ未熟で子供だ。
彼女の人生はこれからなんだ。
そんな彼女を付け狙う理由はなんだ?
軍事的利用なら理解が及ぶが…。
まあ、そんなことさせないがな。
「ヌシとカグヤの関係が、ちとわからん。カグヤ本人もわからないと言うとった。ヌシならわかるじゃろ。なんなのじゃ?」
修行の合間に、リンファが尋ねてきた。
「保護者」
「本当にぃ?」
「あのな…歳の差を考えてみろ。何十倍生きてると思ってるんだ」
「そうじゃの。有り得んわな!」
リンファが小馬鹿にしてきた。
決めつけるように断言されては何も言い返せない。
カグヤに聞かれたら困るから言い返せない。
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それから暫くしてカグヤの奥義伝授の儀が執り行われた。
黄閃堂前に、練剣に昇段予定の門下生が集められた。
オルテシア、ケイン、カグヤ。
この三名だ。
俺とコウゴウは外野から固唾を飲んで見守っていた。
「うむ。あの少年は昇格するであろうな」
コウゴウの見立てによると、ケインのみ昇格できるらしい。
「カグヤは無理そうか?」
「うーむ…微妙である。無間繚乱は剣速にものを言わせて斬り刻む殺法であるからな。それに加え、剣速は単純な腕力で解決できるものではなく、風速から抵抗圧を計算した上で傾きを変えねばならんゆえ、指先の精密性が求められる。二人には厳しいであろう」
コウゴウの分析は的を射ている。
現在、黄閃堂で最も長く門下生として在籍しているのはケイン。
劣等生と言えど、長兄さながらの知識がある。
それに、獣族は入り組んだ森林程度ならなんの障害もなく駆け抜け、気候変化にも敏感。
微細な葉風から敵の位置を知ることも出来る。
天下一品の敏捷性に、柔軟な思考と四肢末端の多様さ。
無間繚乱を修得するのに申し分無い素養を持っている。
「でも、カグヤだって負けてないだろ…」
思わず口に出てしまった。
コウゴウに苦笑いされたが、事実だし致し方ない。
「合否はリンファ次第である。小生らは生暖かい目で見守ろうではないか」
「それを言うなら、暖かい目だろ…」
かくして、三人の昇段試験が始まった。
緊迫したこの状況で一人づつ奥義を案山子に向けて放ち、リンファが技の完成度を精査する。
目標は瞬間50連撃。
さて、人智を超えた力を真っ先に掴めるのは誰か。
見ものだな。
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まず最初に試験を受けるのはケイン。
幾数十の案山子の前で悠然と長剣を構えた。
そして、
「傑醒流奥義、無間繚乱!」
と、叫んで剣を振った。
矢継ぎ早に辺りを覆い尽くす斬撃の暴風。
凄まじい速さと精度だ。
「うむ、見事。合格じゃ」
リンファが採点用紙に丸をつけた。
「やったー!」
ケインは黄閃堂の敷地内を走り回りながら大喜び。
ようやく練剣に昇格できたのだ。
誉高いことだ。
「次、オルテシア。前へ」
「はい…」
オルテシアが自信なさげに前へ出た。
彼女もまた同様にフランベルジュを深く構えた。
そして技を放つ。
「りゃあああッ…!」
精度に難ありの斬撃の嵐。
標的が定まらず風刃が俺の首筋を通り抜けた。
危ないな。
「そこまで!」
リンファが強制終了させた。
「頑張ったようじゃの。次はもっと落ち着いて振るように」
「…はい」
オルテシアは重い足取りで木陰に入った。
どことなく辛そうだ。
今は話しかけない方が良さそう。
「最後はカグヤ。前へ」
「はーい」
間の抜けた返事だな。
大丈夫か?
「アビル」
ふと、カグヤが俺を見た。
「なんだ?」
「合格できたらご褒美ちょうだい」
「おねだりか。良いだろう」
「やったー!」
だから一発で合格してくれよ。
期待を押し付けるようで悪いが、伸ばせるものは若いうちに伸ばしておいた方がいい。
たとえそれが殺法だろうと、この世界で生きていくためには必要なものだ。
「――ウォオオオン…」
突然、獣の声が聞こえた。
ああそうか。
霧の獣が見物しに来たのか。
カグヤを物珍しそうに眺めているな。
「傑醒流奥義…」
カグヤが赤い雷を影穂ノ御方に纏わせた。
時間をおいてパパンと鳴り響く発砲音は、樹木に伝う雷が水分を焼いているから。
カグヤは、辺り一面を照らし尽くす真紅の宝石を抜刀した。
「無間繚乱!」
カグヤが叫んだ。
この俺をして二振りにしか見えない斬撃が案山子を木っ端微塵に切り裂いた。
同時に、前方の森に稲妻が走り、雑木林を焼いていく。
あっという間に山火事だ。
リンファは感動した様子で紙に丸をつけた。
「合格じゃ! でもやり過ぎじゃよ!?」
リンファは慌てて消火活動の指示を門下生達に出した。
カグヤは俺の付き人なわけだし、俺が消化するのが筋だろう。
「消火なら任せろ。恵みの雫」
俺は局地的に大粒の雨をふらせた。
直ぐには消し止められなかったが、被害は最小限にとどまった。
時間にして10分強はかかっただろう。
「あっははっ! くすぐったい! うわっははっ!」
カグヤもとい雑木林を焼いた張本人は笑っていた。
霧の獣に、もみくちゃにされるくらい舐められていた。
不思議な獣だ。
全身が真っ白で、額に赤い太陽の紋章が刻まれている。
あと大きい。
俺の背丈の倍はくだらないだろう。
以前は姿形が半透明だったのに、今は現界している。
謎だ。
「おめでとう!カグヤちゃん!」
ケインがカグヤを労っていた。
門下生達からも惜しみない拍手を送られていた。
「えっへへ…恥ずかしい」
だらしない笑顔だ。
カグヤはどうして感極まると変な声を出すのだろうか。
ま、可愛いからいいけど。
「…わたしだけ落ちた」
オルテシアが俺のそばに寄ってきた。
むつけた様子は無く、自分の未熟さを理解しているようだった。
「そう気を落とすな。今日試験を受けた3名の内、お前が一番の剣速を誇っていた。あとは微調整するだけだ。頑張れ」
「…ありがとう」
どうもオルテシアは距離が近い。
もたれかかってくるのは構わないが、カグヤの前だし遠慮して欲しいものだ。
「アビルー! お約束のご褒美ちょうだいね!」
カグヤが興奮気味に手を振ってきた。
道着はボロボロで全身余す所なく掠り傷なのに、何故か笑っている。
いつにも増して色っぽく見えた。
俗物的で好きだ。その顔。




