第三話 刀
カグヤの母、ミコに手紙を書いた。
警戒されないように、まずは自己紹介から始めた。
名はアビル、姓はスターマインだと噛み砕いて記し、天才(嘘)魔術師であることを強調。
数週間もの間、娘さんの家出に手を貸していたと謝罪。
カグヤとどう過ごしているとか、決して拉致監禁などはしていないと釈明した上で、連絡を取り合えないかと文通のお誘いをした。
カグヤに手紙を持たせ、一時帰宅してもらった。
そして数日が経ち、返事が返って来た。
『あげます家の子。可愛がってあげてください』
との事。
愛玩動物か何かだろうか?
書き殴ぐられたような酷くお粗末な字、精神的に堪えているであれば無理も無い。
でも、あげるってお前。
可愛がってとかお前。
自分の娘だろう、手放すのが惜しいとかないのか。
放任主義だとしても、顔も知らぬ男に娘を押し付ける母親など理解に苦しむ。
「……」
俺の横で手紙をじっと見つめるカグヤ。
いつになく真剣な表情だ。
「泣きたいのなら胸を貸すぞ」
「んや全然。むしろ嬉しい」
カグヤはクルクルと回り、踊り始めた。
鼻歌を歌いながら舞い上がっている。
この状況でどうして喜べるのか。
捨てられたんだぞ。少しは悲しむものだろうに。
「ねーねー、これ欲しい」
ぴたりと動きを止めたカグヤの手には、俺の杖があった。
ただの杖では無い。鞘に収めている時は杖、抜くと剣になる代物だ。
杖の名は[天罰の女神]。剣の名は[亜空界剣・終夜]
これを得物に俺は戦い抜いてきた。
今の俺なら無くても困らないが、愛着があるのであげたくない。
彼女は鞘から抜いた状態の物を強請っている。
つまり剣が欲しいのだ。
「パパが使ってたんだ。少し形が違うんだけど…こう、片側だけ危ないやつ」
違った。刀だった。
幼少期より憧れた父の背中を見て育ったのであれば、尚更その道に進みたいと思うもの。
なら、その背中を押してやらねば。
「街へ出てみるか。金に糸目は付けないから好きなのを選べ」
「いいの!?」
感極まるカグヤの手から杖が滑り落ちた。
しかも拾わないんだ、こいつ。
「丸腰ではいざという時に困るだろう。このご時世、誰に狙われるか分からないのだからな…」
正直なところ、街へ繰り出すリスクは高い。
数年前に起きた抵抗運動は、守るべき市民達にも甚大な被害を及ぼした。
参加した勇気ある若人達は勿論、止めなかった大人達も皆、腐敗した王国軍によって粛清を課せられた。
家族は斬られ、家屋は焼かれ、友は吊るされ、人権剥奪。無関係の人達にもその手は伸びた。
そう、無関係の人達にもだ。
彼らからすればたまったもんじゃない。
勝手に暴走して勝手に自滅した連中のせいで、自分らまで危険に晒されたという認識が根付くのは当たり前。
誰もが望んでいた事だが、失敗したのでは意味が無い。
一斉非難を浴びたカグヤの父。抵抗運動の首魁。
娘のカグヤに罪は無いが、それを市民はどう思っているのか。どう見ているのか。
考えたくは無い。
「アビルってさ、変わった目してるよね」
ひんやりした手で頬を触られた。
興味深そうに見てくる。
「これはな、魔術を反射させたり行使したりできる優れものだ」
「そうなんだ…綺麗…」
「あぶなっ」
指で突こうとしてきたので避けた。
欲しい物は力ずくで奪おうという意志を感じる。
どぎまぎして椅子から転げ落ちてしまった。
「じ…準備は出来たか? 早く行こうじゃないか」
「反応めちゃかわ!」
「…? よくわからん」
考えていても埒が明かないので、身支度を済ませ出発。二人で山を下る。
緑が少ない峡谷を小一時間歩き、辺境を抜けた。
王国の城壁が見えてきた。
国を囲む砂漠色の煉瓦の壁は、遠目で見なければ収まらない程高く積み上げられて、黒い鋼鉄製の門は砲撃に耐えうるほど強固。
馬車の出入りが頻繁なので基本空いており、商人や恰幅の良い貴族らが入っていく。
門番の兵士は俺の目を見た途端震え上がり、頭を下げ、手の平を上に向けて「どうぞ」と静かに呟いた。
入国審査を受けずにすんなり入れた。
この目は古代龍族特有の物で、かの有名な世界最強の剣士もこの目を持っている。
顔が割れているので見間違われることは無いが、どちらかといえば俺の方が有名なので困る。
現に、待ちゆく人の視線は俺に集中した。
「あれが天撃の…と、娘…?」
「爺さんや。あの方からすれば、わしゃまだ少女じゃ」
失礼な。貴様はババァだ。
あとジジイ、俺は未婚だ。などと言えたらいいのに。
「500年も生きてるってのに、若過ぎじゃね?」
「可愛い子連れてるのね」
好き勝手言ってくれる老若男女。
でも悪い気はしない。
俺への評価は別として、カグヤを見た人達の反応が思いのほか悪くない。
暖かい視線を向ける者達が多くて安心した。
「――・――・・・――」
見回り憲兵の声は、か細くて聞き取れなかった。
俺ではなく、カグヤを指さして話をしていた。
企んでいる様子とはまた違い、何かを確認するような視線を彼女に向けていた。
俺が睨みを利かすと慌てて散開。公務に戻る。
「ひ…人多いなー。怖くなってきたよ」
カグヤは緊張の面持ちで後ろを歩く。
「だな。俺も久しぶりな気がする」
理由がわからない以上、長居はしない方がいい。手短に事を済ませよう。
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向かったのはメイルイ王国の南に位置する街、アルロ。
商業都市として栄えており、このあたりでは一番の人口を誇る。
比例するように店の数も多く、レストランに酒場、雑貨屋や鍛冶屋、宿屋に冒険者協会などなど。挙げればキリが無い。
多種多様な種族が行き交っていて、全体的に活気がある。
お客の取り合いは日常茶飯事だ。
しかしあれだな。
前に訪れた時より、ずっと人が多い。
カグヤは挙動不審になり、俺の背中にピッタリと引っ付いてる。だが心配ご無用。
ここには他人に興味が無い連中しかおらず、人目を気にする必要が無い。
一見すれば俺達は観光客か親子。
手を繋いで歩けば尚のこと。
それに、ここの中心街には行きつけの鍛冶屋がある。
俺の杖と剣を制作した超一流の女鍛冶師が常駐し、その女は骨董品を業物に昇華させてしまう、ある種、神がかり的な力を持つ。
職人の探究心は時の流れで薄れない、とは彼女の弁。
粋事だ。
――ふと立ち止まり、気配を消した少女を待つ。
振り返ってみると、カグヤがある店に入って行くのを見た。
おんぼろの家屋を改造した建物に。
あれは骨董品屋だ。
前は無かった気がする。
近くで見ると、外装は小綺麗に掃除されていて、内装も悪くない。
店の中には、無表情で佇むカグヤの姿が。
「どうしたカグヤ。なんぞ欲しい物でもあったか?」
カグヤの手には美しい配色の壺があった。
突起は無くツルツルだ。
「この壺欲しい。凄いよこれ、買うだけで幸せが訪れるんだって」
「……棚に戻すんだ」
「やだ。これさえあれば、私とママは幸せになれるんだ」
カグヤの手に力が入る。
壺から手を離してくれない。
背中を向けられて、表情を窺い知ることはできない。
ああでも何となくわかる。
その小さな背中から、溢れ零れる感情は。
怒りだ。
理不尽に対する怒りだ。
何も知らぬ第三者が指摘していいものか…。
いや、いっそ叩き切るつもりで助言をしよう。
届かなくてもいい。
所詮、老害の戯言だ。
「ひとつ教えておこう。甘い言葉には必ず裏がある。思惑が何にせよ、連中にとって都合のいい未来になるよう歯車が動く。そう仕向ける。運命を変えようとする聖者、もしくは希望を抱く弱者ばかりを選び、一度手に取れば二度と起き上がれなくなる猛毒を刺す。狡いとは思わんか?正直者が馬鹿を見るなど。そんな腐者がごまんといる世界の傍らで、お前は強者として生を受けた。であれば…もっと賢いやり方があるだろ」
そっと壺を奪おうとしたが、びくともしない。
驚いた。
少女の力では無い。
「強いけどさ。頭もそんな悪くないと思うけどさ。わかんなよ…」
「なら俺を見ていろ。それとわかるその日まで、俺以外の万物に目を奪われるな」
そんなやり取りのあと、カグヤはしばらく考えた。
考えて考えて、結局首を傾げてわからずじまい。でも、壺を棚に戻してくれた。
店主は一部始終を見ていたが何も言わなかった。
ただ、睨んではいたと思う。
…いい度胸だ。
次会う時は、牢にぶち込まれる覚悟をしておけ。
俺とカグヤは店を出た。
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ある一角を抜けた先に古い家屋があった。
開放した窓から発せられる眩い熱。
ここだ。
鍛冶屋に着いた。
するといきなり、巨大な火の玉が俺達目掛けて飛んできた。
けたたましい音を立て、地面を焼いて突き進む。
避けようにもカグヤが尻もちを付いてしまった。
仕方ない。
「『制限解除』」
俺は水色に透ける龍の鱗を纏った。
これは鎧。受けた魔力を霧散させる鎧だ。
迎え撃つつもりであったが、火の玉は身に迫る直前でかき消された。
術者が俺の反撃の意思を読み取ったため、技を解いたと推測できる。
中ならツカツカと歩く音が聞こえた。
「チェ…せっかくあたしが作った武器を見定めてやろうと思ったのに」
出てきたのは、馬のしっぽのように長い髪を結った、耳の長い金髪のエルフ。
背は俺に迫るほど高く、引き締まった身体をしている。
最低限の装束。涼しそうな格好だ。
この女は鍛冶屋の職長であり、俺の武器を制作した世界最高峰の鍛冶師。名をテティスという。
ドワーフの仕事を根こそぎ掻っ攫う事で有名。
夜の男、誰もが振り返る美貌を持ちながらも未だに男が見つからないらしい。
「杖を翳すまでも無い。第一、焼夷弾など俺に効かん」
「知ってる。だから撃ったんだけど」
悪びれる様子は無いか。
付き合いこそ短いが、面倒くさい性格をしているのはわかる。
彼女には試し癖があるのだ。
依頼者の実力に合わせた武器を作るために、自身の技をぶつけて力量を測る。
一定の水準に満たないと依頼を拒否する。
な?面倒だろ。
ちなみにタメだ。俺と同じ齢502を迎えた長寿のエルフ。
なので、彼女に年齢を尋ねるのは御法度となっている。
「ところで、そこに居るのは娘さんか何か?」
テティスは地べたに座るカグヤを見ていた。
頬を緩めてゆっくり近づいていく。
「お姉さんだれ?」
「キャー! お姉さんだって !この子めっちゃいい子じゃん!」
「……?」
腕を組んで考え始めるカグヤを担ぎ上げたテティス。
お姉さん呼びが余程嬉しかったらしい。
「カグヤ。そいつは――!」
頬を掠めた鋭い刃。
投げたのは言わずもがな。
「…次は無いから」
闘志を剥き出しにされ、釘を刺された。
女性に対して失礼であったな。失敬失敬。
「冗談はさておき、あんたがここに来たってことは、何かしら依頼があるんでしょ」
軽くため息をつくテティス。
「そうだ。彼女に合う刀を所望する」
「この子のかぁ…うん! あるある! 付いてきて」
テティスに手招きされ、工場の中へ案内された。
中には数名のドワーフと二人の人間が居た。
みんな彼女の弟子である。
鉄を型に流し込む者や鉄を打つ者など、キチンと役割分担が決まっているようだ。
汗を垂らしながら火花を散らし、水に浸して削り取る。
世界中から集められた貴金属を鍛冶師が精錬する様は、見ていて惚れ惚れする。
灼熱の中、黙々と仕事をこなす弟子らに目もくれず、テティスは棚をゴソゴソと漁り始めた。
「たしかこの辺に…うーん何処だったっけ…」
「おい、貴様が作るのではないのか」
「あたしが作ったものではあるよ、あるんだけど……あったァ!」
あったようだ。
埃はかぶってないが、随分と奥にしまっていたものだ。
「これこれ、大切に取って置いたんだよ」
カグヤに差し出されたのは、唾の無い黒く長い刀。
それを見た時、ゾッとした。
恐ろしく禍々しい魔力を感じ取ったからだ。
久しぶりだ、これほどの緊張は。
「これくれるの!?」
「うん! あげるあげる! 好きに使ってよ」
「やったー!」
カグヤは大喜びで本身を抜いた。
美しい深紅の刀身が現れた。
譲渡された時、一瞬、ほんの一緒だけ光った気がする。
彼女はそれを頭上に掲げ、大きく振りかぶった。
俺はすかさず剣を抜き、カグヤの太刀を止めた。
嫌な予感がしたから。
重厚な一撃に、手首から肩にかけて衝撃が走り抜けた。
痛みの位置からして右腕の尺骨はイッたかもしれない。
俺の耐久力でこれだ、常人ならまず転げ回るだろう。
「抜刀するに、おあつらえの場所は無いか? この娘は多少乱暴なのでな」
テティスは微笑ましそうに眺めていたが、伝う汗は動揺を隠せていない。
よって、反応が鈍い。
「あっ…あー、あるよ。あるけど少し歩くよ」
「構わん。ここを消し飛ばされるよりはマシだろう」
「それもそうだね。うん…カグヤちゃんはそういう子か…」
テティスは含みのある言い方をしつつ、聖母にも似たおっとり加減。
昔、彼女が言っていた。
鉄を打ち続ければ見えてくるもの、それは俺が立ち入ることの出来ない領域にあると。
正義を体現する白刃と、不義を一貫する黒刃。
対極に位置する二本は元々一本の鉄だったと。
担い手次第でどちらにも傾く刀を作るのが、あたしの夢だと語っていた。
カグヤが刀を持った際、薄く光ったのはカグヤ自身の心を刀が写し取り、変化したためであり、元の刀身は違うものである。
そんなわけで、テティスはカグヤの本性を見抜いた。
俺が知りたいことをテティスは知った。
全て見たのだ、鉄塊を通じて。
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鍛冶場職人の卓越した洞察力に驚嘆の意を示しつつ、アルロ中枢に存在する、ある広場に案内された。
少し歩くと言っていた割には、十数分程で着いた。
風の音が聞こえるほど閑静な所だ。
柵で囲まれた広い敷地に、大小無数のカカシと泥岩がある。
切創があったり打撃痕があったり。かなり使い込まれた痕がある。
地面に突き刺さる、風化した剣もあった。
鍛錬場だろうか。
にしては人が少ないように思えるが…。
「ここは?」
「お試し場だよ。ここら一帯あたしが所有してるから、どうぞお好きなように。ま、何かあれば保護者のあんたが止めるでしょう、ぐらいの気持ちでいる」
「保護者…か」
「不満そうだね。さっきまでカグヤちゃんのことニヤニヤしながら見てたくせに。あ…もしかしてそっち?」
思わず顔を触ってしまった。
笑ってたのか俺…。
「戯け、何歳離れていると思っている」
「アッハハ! だよねー」
屈託なく笑うテティスのせいで、思考が乱された。
人を馬鹿にできる立場か。
なんて思いつつ、カグヤの方を見た。
彼女はムッとしていた。
原因不明の怒気を放っている。
「……」
無言で近寄ってくる。
殴られるのだろうか。
「どうした? 俺はカカシじゃないぞ」
「カカシだよ?」
くっくっく、と笑うカグヤ。
憎らしくも愛らしい、悪い笑みを浮かべてスキップをし始めた。
その時――突如繰り出された神速の居合。
左目の能力を最大まで引き出し、ギリギリで反応した。
剣を抜くまでは出来なかった。
鞘で受け止めるので精一杯で、あと1回多く瞬きをしていたら首を撥ねられていた。
速さは優に乱級剣士を超えよう。
膂力すら通常時の俺を遥かに上回っている。
「さすがアビル! やっぱり強いねー!」
「ま…まぁな!」
距離を取り、体勢を整えた。
カグヤはゆっくりと歩を進める。
前傾姿勢になり、握った。
ならこちらも…。
「なっ!?」
正面と思いきや、右斜め後ろからの強襲。
剣戟は荒いものの、一太刀一太刀が重い。
腕ごと弾き落とされそうだ。
「でもこの程度か…もういいや。殺っちゃうよ?」
背筋の凍る言葉を聞いた。
どこからとも無く聞こえた。
<カグヤの姿が見当たらない>
辺りは静寂に包まれた。
テティスはお菓子を食べ始め、すっかり観客気分。
流血沙汰が許されるのか、ここは。
…まぁいい。
そっちがその気なら、こちらもその気になろう。
子供の児戯に本気を出すのは考えものだがな。
俺は剣を前に突き出し、魔力を流し込んだ。
同時に、柵の内側に防御結界を張った。
全力で振るおうものなら、王国の半分は削るだろうから。
なので威力と範囲は抑えつつ、衝撃だけ強く与えるように調節し、殲滅力を格段に落とす。
「熱いよー! 出してよー!」
「たしかに熱いわ…ちょっとは考えてよ」
非難轟々だ。
メラメラと青い炎が立ち上り、結界の中は高温となっているのだから当然だ。
死にもしなければ火傷もしないが、熱いものは熱い。
「なあカグヤ」
「んー、なぁに?」
「お前が先に技を放て。俺はそれを迎え撃つ」
「なんで技があるって知ってるの?」
「父の背中を見て育ったのであろう? なら、技の一つや二つぐらい盗んだだろ」
「……アビルのそういうところキラーイ」
「見せてくれ、刀と剣の違いを」
笑顔を作ったつもりだが、強ばっていただろう。
才あるものへの嫉妬…なのかもしれない。
だから俺はムキになっているのか。
そう自覚していても、認めたくない自分がいる。
でも、カグヤの事をもっとよく知りたい。
変だな。矛盾してる。
カグヤは地面を蹴り抜き、飛んだ。先程と同じ居合の構えだ。
俺は剣先を彼女に向けた。
「これはね! こう振るの!」
カグヤが繰り出したのは、瞬間八連撃の赤い刃線。
いつか見た花によく似たものだった。
あれの花言葉は儚いもの気がする。
…打ち砕いて見せよう。真正面から、それを。
二割では無理だ、精々三割は必要だ。
魔力量を少しあげ、俺は蒼炎の熱線を放った。
「第三階梯――開。飛天万象聖剣」
大気を焼き切らんばかりの灼熱の渦。
赤と青の塗り潰し合い。
当然の如く青の勝ち……とはならない。
八連撃では無かった。幾重にもそれを重ね、何十連撃にもして熱線をかき消している。
カグヤの持つポテンシャルの高さと、刀の力が合わさり、より強力な剣戟となっている。
ああ…負けそうなのに悪い気はしない。
燦然とした彼女の姿に目を奪われて…。
「よけろ! アビル!」
テティスの叫び声に体が反応。体勢を傾けた。
ドサっと何かが落ちる音がした。
右腕を斬り落とされたようだ。
剣を握り締めたままの右腕が落ちていた。
傷口が熱い、痛い。
が、問題ない。この程度すぐに直せる。
「ご、ごめーん! て…うでえぇえええ!?」
慌てふためくカグヤ。
お前が斬り落としたんだからな?
「気にするな。それより負けてしまった。悔しい」
「ぷッ…! そんな真顔で言わないでよ」
今日はやけに笑われるな。
恨み言をいうつもりはないが、まあなんだ、うん。
テティスが声を上げてくれなければ胴体が分離していたし、感謝しなければ。
「ちなみになんだが、この刀、名はなんという」
「これは妖刀・影穂ノ御形っていう鈍ら刀さ」
鈍ら刀。
では、劣刀に俺は斬られたのか。
「言わんとしてることはわかるよ。でもね、これは所有者を選ぶんだ。だから鈍ら。誰でも使えるわけじゃないからね」
「なるほど…タメになった」
カグヤが振るえば最上の業物になる…ということか。
なんとも運がいい。
ふと、カグヤがひょっこりと顔を出した。
「ねーねー、二人はこれなの?」
カグヤの指の動きは最悪だった。
誰が教えたのだ。
純粋無垢そうな雰囲気を自ら滅茶苦茶にしてる。
テティスと目が合い、少しだけ考えた。
考えた後。
「誰がこんな老人と」
「繋がるもんですか」
「言わんでいい...」
奇しくも同じ気持ちだった。