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第二十六話 作戦会議

 この国はエルワス上級大臣率いるセレスティア教団が実権の大半を握っている。

 セレスティア教団は第一王女を支持する教皇派とエルワス上級大臣を支持する大司教派に分かれており、お互い顔を合わせる度にいがみ合う仲だという。

 聞き込みをしたところ、王女を支持する者たちは決まってエルワスのことを親の七光りだと言っていた。

 エルワスの父はセレスティア神聖国の発展に多大な功績を残した人物として知られていて、莫大な富と権力を一代で築き上げたらしい。

 当初与えられた叙爵に満足せず、その後も領地開拓に多額の出資をしたり、強固な国づくりの一端として同盟国を増やしたいと直接女王に進言したことで、専属外交官に任命されるなどして上層部の信頼を勝ち取り、男爵から子爵へ。最終的に侯爵まで驀進した。

 破竹の勢いで爵位を上げていく元叙爵家に目をつけたエークイラ伯爵家は、当時まだ少年だったエルワスに擦り寄るようにして接触を図り、彼を通じて侯爵家に従属を申し出た。

 立場を弁えた主従関係を昔から維持しているそうだが、所詮、親の七光りであるエルワスは国政に無頓着で、裏稼業に精を出してばかり。

 国策を考えるにしても、エークイラ伯爵に頼りきりだという。

 よって、エークイラ伯爵は大臣とほぼ同等の権限があると考えていい。

 エルワスは、殆ど操り人形だからな。

 

 そして、セラを連行しようとしたあの男。

 ラングステン。

 あの男は、セラの剣術の師匠にして、命の恩人だという。

 かつて、セラとリラは両親に売られ、ある盗賊団に買われた。

 それはもう悪名高い盗賊団だ。

 死屍累々をものともしない、狂人とも言える連中ばかりが日を跨ぐ毒壺。そこに買われた。

 二人は賢く、すぐに状況を理解して上手いこと取り入ったそうだ。

 盗賊団は、それはもう大喜びで歓迎する。

 姉妹共に美人で言うことを聞くお利口さんなど、彼らからすれば性の捌け口にうってつけであり、もとより、それが目的だったのだ。

 初日に、二人は奪われそうになる。

 衣服をビリビリに破られ、叩きつけられ、殴られ、もう何もかもを諦めた刹那、団長の首が宙を舞う。

 その場にいた団員達は一呼吸の間に細切れになり、二人は滝のように返り血を浴びた。

 実行犯はラングステン。

 後に、セラが師事する男である。


 ラングステンは二人をセレスティア神聖国へと連れ帰ると、すぐさま二人の両親を二人の目の前で滅多刺しにした。

 特に、父親の方は入念に苦しめ、一昼夜、生かさず殺さずで切り刻んでいたそう。

 悲鳴と断末魔が絶え間なく響き渡る地下牢の奥底で、セラとリラは、酷く怯えて泣いていた。

 やがて声が聞こえなくなると、純白の正装が真紅に染まりきったラングステンが姿を現す。

「もう大丈夫だ」と、セラとリラに優しく言い聞かせた後、二人をセレスティア教団管轄の修道院に匿うように入れた。

 

 この一件はラングステンの独断で行われたものであり、あまりにも血なまぐさい内容であったため、上層部は良い顔をしなかった。

 結局、母国の守護神とまで謳われていたラングステンの名声は地に落ち、爵位を剥奪された。

 当の本人は気にしていないらしく、むしろ気が楽になったと言っていたそうだ。

 二人が成人するまで面倒を見続けて、今でも我が子のように可愛がっていると教団内では評判だ。

 特にセラは可愛がられていたらしく、弟子入りもすんなりと受け入れられ、剣士としても女性としても格段に成長したとリラが言っていた。

 ある日を境に、ラングステンは冷たくなるまでは笑顔の絶えない子だったらしい。


 これが、ここ一週間で得た情報の内訳。

 現在リラはエルワスの庇護下にあり、教団での立ち位置も上から数えた方が早い。

 一方セラは、一兵士として国に雇われているだけで後ろ盾が何も無い。

 王女は、あくまでも雇い主。

 守ってやる義理などないと最終的には切り捨てられる。

 女系王室の通例だ。


 此度の社交界はエークイラ伯爵が主催する大規模な夜会であり、国中から貴族たちが集められる。

 当然のこと王女も招待されるだろう。

 ラングステンはわからない。

 俺はまだ、あいつのことをよく知らない。

 正直どっちでもいい。


 エルワスは同じ貴族の中でも、屈指の好色家と聞く。

 くれぐれも、こいつにだけはセラを近づけさせないようにしよう。

 

「それで? 話って何さ」


 扉を開けて入ってきたカグヤは不思議と暗い表情を浮かべていた。

 

「社交界当日、お前に頼みたいことがある」


「いいよ、言って」

 

「会場の外に居る人間に片っ端から挨拶をしろ。そして、相手が[大司教]と名乗ったなら即叩き斬れ」

 

 大司教とは名ばかりの、卑劣な魔術師だからだ。


 修道院直轄のセレスティア教団大司教セヴィン。

 彼はエルワスの懐刀であり、エークイラ伯爵家とも強い繋がりを持つ。

 セラに呪印を埋め込み生い先の自由を奪うことで間接的にリラを従属にできると考えた彼は、入念に計画を練った上で地盤を固め、私利私欲のために暗躍し続けてきた。

 姉想い妹想いの姉妹を利用して、一気に教皇へのし上がろうとした。

 二人を傀儡化した上でエークイラ伯爵に献上すれば莫大な報酬が手に入る。

 地位も名誉も、女も、金品さえも思いのまま。

 優秀なリラは何処へ売ろうと高値がつくし、セラは引っ込み思案で身寄りもなく、美貌は一級品。

 利用するのに、これほど都合のいい女達はいない。

 

 この真相へたどり着くまでに所要した時間は皆無。

 なぜなら禁書庫に保管されていた情報の中に、真っ黒な裏取引が記録されていたからだ。

[龍族蒼滴種人身売買記録]という、セラとリラに該当する種族を売った記録が。

 大胆というか間抜けというか、どちらにせよ業腹だ。

 

 それに、魔術師の称号を巧みに利用して女子供を攫っているとの情報も耳に入った。

 近郊の酒場で人知れず上流階級への不満を零していた男達に根掘り葉掘り聞いた。

 交換条件として支払い代金全持ちを提示されたが、それでは口止めには足らないと思い、翌日の支払いも持ったところ全て教えてくれた。

 セヴィンには人の心が無い、と。

 まるで示し合わせたかのように言ったのだ。


「そこまで言うなら、きっと悪い人なんだよね」

 

「ああ、お前を狙っていた連中とは比較にならん」


「神様を祀ってるのにね」


「まったくだ」


 さて、どうしてくれよう。

 相手は、ほぼ国家だ。

 派手に動けば勘づかれるし、かといって何もせずに時間を浪費するわけには…。

 自然に解決する可能性は万に一つもないからな。


「殺しちゃっていい感じ?」


「いい。この際どんな手口でも構わん。八つ裂きにしろ」


「おー怖っ」


 カグヤが俺の横にピッタリとくっついた。

 上目遣いで顔を覗き込まれる。


「どうやって退治すればいいかな? 対策とかある?」


「魔術師は技の発動に時間がかかる。だから杖をこちらに向けてから放つまでの間、奴らは無駄話に徹するはずだ。対敵を確殺するためなら、時に讃えたり褒めたりもしてくる。惑わされるなよ」


「わかった。でも惑わされるかも」


「無事任務を終えたら、俺が飽きるほど褒めてやるから」


「うん…」


 カグヤがベッドに移動して寝転んだ。

 無表情をつくり、天井を眺めつつゆっくりと瞳を閉じた。

 自分だけの作戦ルートを構築しているのだろう。


「俺はセラと同じ場所にいるが、常に索敵を張り巡らせておく。何か異常があればすぐに駆けつけるさ」


「ときたま若くなるね、話し方が」


 カグヤの冷ややかな横顔に少しだけドキリとした。

 それこそ、本当にたまに垣間見える冷たい顔なのに。


「え…あー、まあ…お前の前だとな」


「あ、戻った」


「そんなことはどうでも良い。問題は後始末だ」


 どう撤収するか、現場に残された骸を何処へ隠すか。

 目撃されたらどうするか。

 例を挙げるとすれば、ざっとこんなもんか。


「セレスティアって人はさ、消し飛ばしたんだよね。何もかも」


 俺の思考を遮るようにカグヤが言った。


「彼女は自身に秘められた能力をまるで理解していなかったそうだが、先代魔術王は彼女のその能力を万物の分解と結論付けたらしい。おとぎ話の範疇をでないがな」


「私にも使えたりするかな?」


「どうだろうか…お前は天才だからな。できそうな気がしなくもない」


「アビルは使えるの?」


「原理を知らんからなんとも言えん」


 魔術五大属性から派生した雷属性に、万物を消し飛ばす力は無い。

 俺が修得した技の中にも無い。

 せいぜい大地を焼き払う程度。

 到底比べられない。


「じゃあ後始末はよろ。その間、私はシャワーを浴びてきます」


「わかった。着替えはコウに頼んでおこう」


「よっしゃ! ベッドの上で全裸待機だ」


「思春期男子には刺激が強過ぎる。絶対にやめろ」


 悪戯っ子が覚醒しているな。

 カグヤらしいと言えばらしいが、もう少し羞恥を学んで欲しいものだ。

 この先、誰に何目的で狙われるかもわからないわけだし。

 

「セラお姉ちゃん、助けられるといいね」


 優しい口調で一言、そう言われた。


「そのための作戦会議だ。期待してるぞ、カグヤ」


「任せて! 私は天才だから!」


 やる気に満ち溢れたカグヤの声に元気をもらった。

 背筋に感じた五指の温もりに勇気をもらった。

 汚名を刻む覚悟は、とうに出来ている。

 こうも必死になれるのは、支えてくれる人間が傍にいるからだろう。

 尚更、恥となる戦いは出来ないな。

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