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第二十三話 リラ

 セラへの返答を濁したまま数日が経った。

 神殿での不埒な行いのせいか翌日からセラが体調を崩したので、しばらくの間姉のリラが俺の監視、及び警護を担当する。

 彼女がまあ…すごい。

 話はセラと交代した日の翌日からになる。


 その日。

 朝起きたら二人分の朝食が用意されていて、ベッド脇の椅子には俺が普段着用している服装一式が綺麗に畳まれていた。

 朝食も着替えも、準備したのは俺ではなくリラ。

 彼女は、俺が明日何を着るか何を身に付けるかを勘で探り、前日から揃えていたそう。

 朝食は舌がとろけるような絶品で、魚介類をベースとした神聖国ならではの郷土料理。

 素材、火加減、味付け、どれも申し分無し。

 言い出しにくかったのだが、どうしてもおかわりがしたくて、つい「おかわり」と口ずさんでしまった。

 それを聞いた彼女は飛び跳ねるように喜んで、快く承諾してくれた。

 と思いきや、もう既に用意していた。

 あと3皿はいけると踏んでいたが、きっちり3皿用意されていた。

 

 朝食を終えて、俺は地理地形を知るために街へ出た。

 散策を開始してすぐ、リラが地図を渡してきた。

 腰に巻いた小さな鞄から周辺地図を手際良くサッと取り出して、ここにはこれがあるとか、現在地はここで、こう行けば王都西口だとか、その他諸々説明してくれた。

 喉が渇けば飲み物を買いに行ってくれたり、小腹がすいたら出店の場所を教えてくれた。

 気配り上手をとうに超えており、着眼点を絞らず物事を広く見ている。

 しまいには「そろそろ靴紐解けそうです」と言われた。

 優秀過ぎて、このまま雇いたいと思ってしまう。

 もし彼女を妻として迎え入れたのなら間違いなく骨抜きにされてしまうだろう。

 ダメ人間になりかねない。

 そうさせてしまうポテンシャルを彼女は持っているのだ。


 さて、余談はここまでにしよう。

 現在俺とリラは入国管理局特別取扱室という所にいる。

 国にとって重要な貿易路が記された書物から、指名手配犯を初めとする危険人物や一部の要注意人物の身辺を洗った記録がここに集約されており、神聖国でもごく一部の人間しか立ち入ることのできない別名、禁書庫と呼ばれる場所だ。

 リラがエルワス上級大臣に話をつけてくれたお陰で簡単に入ることが出来たが、リラは交換条件を持ち出されたらしく頭を悩ませているようだった。

 ついさっきまでは心ここに在らずといった感じだったな。


 ちなみに、外交上必要不可欠な位の高い客郷に関する情報もここにある。

 当然のように俺のもあった。

 一際大きい印章が押されており、指名手配犯兼交渉予定人物と書かれている。

 何を交渉するつもりなのかは定かではないが、荒事以外なら任せてもらおう。

 

「にしても広いな…」


「たしかに広いです。天井高いです」


 リラは無心な顔で笑う。

 目眩がするほど高い天井を見上げ続けていれば、誰だって気が狂いそうになる。

 俺も、もうしんどくなってきた。

 何千何万という単位から一人の女性を探し当てるなど正気の沙汰では無い。


「お探しの女性はこの方です?」


 リラが似顔絵付きの紙を見せてきた。

 黒く長い髪をした女性だ。

 たぶんこれは違うと思う。

 ミコは純血統の妖魔族。

 これは狼人族と人間のハーフだ。


「違うな。彼女はもう少し若いと思うし、なにより美人だ。たぶん」


「自信なさそうです」


「断片的な情報しかないからな、これ以上は手詰まりだ」


「諦めるです?」


「いや、もう少しだけ探してみよう。手伝ってくれるか?」


「もちろんですマスター」


「その呼び方はセラだけにしてくれ…」


「ご心配無く、ちょっとからかってみただけです」


 リラは信じられないほどぶっきらぼうに話した。

 子供っぽい言動とは裏腹に、書類一枚一枚を確認する時間が恐ろしく早い。

 これが才色兼備というやつか。

 勘弁してくれ。


 はあ…いい歳して嫉妬とは、俺も落ちたものだ。

 200年程前なら笑って見過ごしてたはずなのに、今は顔が強ばってしまう。


「その才能が、妹にもあれば良かったな」


 ふと零れ落ちた言葉に、リラは不自然にも動きを止めた。


「どういう意味です…?」


 リラは露骨に嫌悪感を示している。

 

「セラが言っていたのだ、お前は昔から優秀で若くしてエルワスから引き抜かれたと」


「…別に優秀なんかじゃないです。ただやるべき事を必死でこなしてきただけです」


「それがお前の才能なのだろう。現にほら、隠匿したい書類を右手で折り畳んで座板と隅木の間に挟んだ」


「これは、ちが――」


「相手は選ぶべきだな」

 

 俺は、リラがこっそりと椅子下に忍ばせた書類を剥ぎ取るように奪い取った。

 都合三枚の比較的新しい情報記事だ。

 リラは眉をひそめて、不快感を露わにする。


「リラは…貴方のことが少し嫌いです」


「そうか。それは少し残念だ」


「………」


 リラは、すっかり無言になってしまった。

 脱力するように、テーブルに突っ伏している。

 今のうちに情報を抜きとろう。


「ふむ…これは」


 三枚とも拝見してみたが、どれも大した情報は載っていなかった。

 しかし、一枚だけ目を引く記事があった。

 女性の全体絵が載る記事だ。

 その記事には毛先一本一本まで動かせそうな、強かな髪をした女性が白黒で描かれていた。

 これは模写であり、目撃証言がある。

 目撃者によると、彼女は古風な装束を身に纏い、膝まで届く程の長い銀色の髪を持つ美しい女性だったという。

 そんな彼女がとある国で大量虐殺を行ったため、危険性を示唆した筆者が記録を残すことにしたそう。

 だが、事の詳細については伏せられており、意図的に改ざんしたであろう塗り潰し修正が何箇所も見受けられた。

 

・時期、不明。

・目撃者、故人。

・筆者、死亡。

・目撃場所(ここは黒く塗り潰されていた)

・名前、不明。

・性別、女性。

・能力、不明。

・得物、無し。

・種族、妖魔族。

 

 妖魔族。

 カグヤと、そしてミコと同じ種族だ。

 筆者は、どうして種族を判別できたのだろうか。

 目撃証言を頼りに追うなど、相当な労力を注ぎ込んだな、この筆者は。

 目撃者は故人で筆者は死亡。

 筆者の口を封じたは間違いなくこの妖魔族の女だ。


「終わりましたです?」

 

 リラが偉そうに肘をつきジトっとした視線を送ってきた。


「手がかり無し…か」

 

「時間返せです。どう責任とるです」


「うーむ…」


「セラにしたことを言うです」


「…は?」


「セラ言ってたです。マスターがあの日から冷たいって。なんなんです? もしかしてアレです? だとしたら怒るです」


「アレが何なのかは、まったくもって存じ上げないが、少なくともお前がいる内は大丈夫そうだな」


「妹守るです。姉の務めです」


 ふふんっと、リラは誇らしげに鼻を鳴らした。

 陰ながら家族を助ける縁の下の力持ちと言ったところか。

 妹思いのいいお姉ちゃんだ。


「任せたぞ」


「はいです。任せろなのです」


 俺は取り出した書物と書類を棚に仕舞った。

 今日はここまでにしよう。

 少し早い気もするが何事も無理は禁物だ。

 順々に、着実に進めていこう。

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