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悲願のバレット  作者: むつき。
【一章】少女に残されたモノ
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【6話】黄色の宝石

「お嬢ちゃん、こういう事するの初めてだよねぇ? 大丈夫、すぐに気持ちよくなれるからね」


 スーツの男は、瑠樺の耳元で囁く。

 その言葉の意味を理解した瑠樺は必死に唸って拒絶するが、その思いも無念にスーツの男は瑠樺の首を味わうように舌でじっくりと舐めた。


 ――やめて、お願い――!


 身震いしてしまう程の気持ち悪さと、拒絶のあまりに込み上げる吐き気。

 祈るような気持ちで、瑠樺は心の中でひたすら助けを求める。


 果たして、こんなところに助けが来るのだろうか。

 家族もいない今、自分の事を気にかけてくれる人なんて――


 考えるほどに、瑠樺は希望を失っていく。


 ――なんで、なんで私ばっかりこんな目に。


 絶望に染まっていく瑠樺の瞳から零れる大粒の涙。

 瑠樺の脳裏には、いくつもの記憶と思いがよぎっていた。


 学校でのいじめに、最愛の家族の死。

 挙句の果てに、今度はこの人たちに遊ばれてから殺されるのだろう。


 ――なら、いっそのことこのまま死んでしまえば。


 瞼の裏に焼き付いた家族の笑顔が、恋しくて仕方がなくて。

 瑠樺が暴れるのを辞めた途端、スーツの男は瑠樺の細い腕を掴み、注射器の針を差し込もうとする。


 小さな涙の雫が、きらりと僅かな明かりを反射させて瑠樺の頬から落ちた。その瞬間のことだった――


「くはッ――!」


 倉庫内に響いた突然の発砲音。瑠樺はその音に反応して、顔を上げた。


 視界に映ったのは、倉庫の奥――出入口付近にいた一人の男が頭から血を流して地面に膝をつく姿。

 倒れる男の背後から現れたのは、一人の青年の姿。


「チッ、せっかくのお愉しみの時間だってのに……」


「侵入者だ、殺せ!」


 スーツの男が顎で指すと、倉庫内にいる全員の男が拳銃を持って発砲する。

 一瞬で銃声音と血の嵐となる倉庫内で、瑠樺は倉庫内に突如現れた“侵入者”に釘付けになっていた。


(あの人は、一体……?)


 薄暗い為はっきりと姿は見えないが、確かに倉庫内で駆け巡る一人の青年。

 その青年は、男たちの攻撃を軽々と避けながら両手に持つハンドガンで一人一人銃殺していく。


 壁を蹴って大きく飛び跳ね、宙を舞う際に体が逆さになっても外すことのない銃弾。

 片っ端から頭を狙って確実に息の根を止める的確な動きに、瑠樺は自分の状況も感情も忘れて片時も目を離さない。


 ――警察の人? でも、だとしたら人を殺したりなんてしないよね……


 瑠樺の脳裏に、様々な思考が走る。

 彼は一体何者なのか。


 美しさまである華麗な動きをする青年から、瑠樺は目が離せなかった。

 青年は一通り発砲すると、物陰に隠れてそこからスタングレネードを放り投げる。


 瑠樺が反射的に目を閉じたその時、激しい耳鳴りと瞼越しの光に襲われた。

 恐る恐る目を開けた時には皆の動きが鈍っており、青年はその隙を逃さずに着々と撃ち抜いていく。


「クソッ、なんであいつがここにいるんだ! こうなったら、この女だけでも先に――!」


 突然、スーツの男が叫ぶような声で話したと思うと、注射器を足元に捨ててコートの裏から銀に光るナイフを取り出した。


 ――殺されるッ――!?


 身動きの取れない瑠樺に向かってスーツの男がナイフを振り下ろそうとした瞬間、一発の銃弾が男の頭を貫く――

 結果、振り下ろそうとした腕は途中で力が抜け、ナイフは無機質な音を立てて地面へ落ちた。


 スーツの男は瑠樺の足元で倒れ、ピクリとも動かない様子から死んだのだろう。

 頭から流れる血が水溜まりとしてどんどん広がっていく。


 人が死ぬ様子を目の当たりにした瑠樺は、息を荒げながら目の前で倒れるスーツの男を見つめる。


 そして鳴り続けていた銃声が止んだ途端、瑠樺は混乱と恐怖で全身を震わしながらゆっくりと顔を上げた。


 薄暗い倉庫の中、立ち込める煙の奥からゆっくりと現れたのは侵入者と呼ばれた青年。

 黒いジャケットを揺らして颯爽で歩くその姿は、数人と銃撃戦を交わしたにも関わらず傷どころか返り血のひとつも無い。



 衝撃のあまり何一つ言葉が浮かばない瑠樺の方へ、一直線に青年は近づく。

 立ち込める砂埃の中、少しづつ露わになっていく青年の姿。


 赤い髪を揺らす青年の顔をはっきり捉えると、瑠樺は恐怖と興奮で瞳を大きく見開いた。


 やがて青年は瑠樺の前で立ち止まると、瑠樺の口に張り付いたガムテープをゆっくり剥がす。

 そして、右手に持つハンドガンの銃口を瑠樺の額に向けると、青年は宝石の様な奥深い黄色の瞳で瑠樺の目を見つめる。


「文月瑠樺。君の両親を殺した犯人が知りたいか――?」


 あまりに突然の事に、瑠樺はその瞳を見続けることしかできなかった――

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