第7話 苦しいほどに愛してる
部屋のベッドに横たわり、深呼吸する。
傍にある掛け布団を手繰り寄せ、先ほどまで居た兄ちゃんの温もりを感じた。
未だに心臓は速く脈打ち、何度も兄ちゃんの表情や指先の動きを思い返しては、気持ちを昂らせる。
兄ちゃんの目の前で、兄ちゃんの手で、兄ちゃんを想いながら、自分の欲望を吐き出した。
おそらく兄ちゃんは、初めての精通に戸惑い苦しむ弟を助ける為に、俺の我が儘を聞いてくれたんだと思う。まぁ、あの超鈍感で弟思いな兄ちゃんだからそれ以外あり得ないんだが…。
俺は、そんな優しい兄ちゃんの気持ちを利用して、自分の儘ならない想いを一方的に兄ちゃんへとぶつけた。
ただ、顔を真っ赤に染め、恥ずかしそうにする兄ちゃんの姿を目にして、愛しさが溢れ、触れたいと思った。
あの真っ赤に染まる頬に触れたらどんな反応をするんだろう。炊事中に抱き締めたら怒られるかな?でも、それはそれで怒ったところも可愛いんだろうなぁ…とか。
考え出したら気持ちより体が先に動いていた。
何時もの俺だったら子犬みたいに尻尾をふって愛嬌たっぷり抱きつく。兄ちゃんに、俺の本当の気持ちが伝わらないよう細心の注意をはらって"可愛い弟"を演じる。
しかし、今まで出来ていたことが出来なかった。一度意識して触れたら駄目だった。もっと触れたい。もっと愛したい。互いにドロドロになるまで融け合いたい。
俺の醜い歪んだ感情で兄ちゃんを困らせた。何度も嘘を重ね自分の気持ちを偽り兄ちゃんに、そして俺自身にも嘘をつき続けた。
初めての精通なんて、兄ちゃんの事を想いながら小学5年生の時に済ませたし、自慰の仕方なんかとっくの昔から知っている。
それでも、兄ちゃんに触れてもらえるかもしれないという希望が捨てきれず、半ば強引に行動に移した。
兄ちゃんは、苦しそうに懇願する弟を無視する事は出来ないだろうと、容易に想像できた。
案の定、俺の我が儘を受け入れてくれた。
兄ちゃんに触れてもらえた喜びと、相手の意思関係無く触らせた罪悪感が交ざり、自分を心底嫌いになる。結局俺は、自分勝手で我が儘などうしようもない程の馬鹿だ。
こんなことをしても、兄ちゃんは俺の事を好きになんてなってくれないし、自分が苦しくなるだけだ。
それを分かっていても、兄ちゃんを想う気持ちを無かったことになんか出来ない程に、愛してしまっているんだ。どうしようもなく、醜く、腐りきった心でもこの気持ちは朽ちることなんてない。
それほどまでに兄ちゃんを愛している。
1人静かな部屋で天井を仰ぎ見る。だんだんと視界が霞み、涙が零れ出た。必死に止めようと拭うのだが、一度堰を切ったそれは、止まることはなく流れ落ちた。
今泣いたら駄目だ。本当に泣きたいのは兄ちゃんの方だろう。弟の滾ったモノを扱かされ、そのうえ欲望を吐き出されたんだ。さぞかし不快に思ったことに違いない。
今さら後悔しても既に遅いのに、何度も心の中で"ごめんなさい"と呟く。
我が儘な弟ででごめんなさい。好きになってしまってごめんなさい。
声を潜め、ただひたすら涙が枯れるまで泣き続けた。
涙と共に気持ちも一緒に流れて何処かに消えてしまえば良いのに。
その日は泣きつかれたのか、いつの間にか寝ていて昼ご飯も晩御飯も食べ損ねていた。
さすがにお腹が空くのを感じ、キッチンへと向かう。
既に時間も遅く、兄ちゃんはもう自室へ戻ったようだ。その事に少し安堵した。今会ったとしても自分を偽る事は出来ないだろうし、涙で浮腫んだ目元を見られたくなかった。
ダイニングテーブルの上には、俺の大好きなオムライスがラップをかけられ置いてあった。そのすぐ横にメモ用紙が置かれていることに気付く。
『優太。部屋まで声をかけに行ったけど、ぐっすり寝ていたから起こさなかった。すまん。飯は作っといたから自分の好きな時に食べろよ。何か悩んでることあったら何時でも相談にのるから遠慮すんな。』
兄ちゃんの優しさに、枯れたはずの涙が再び込み上げてきた。
それを誤魔化すようにオムライスを口に頬張る。
その日食べたオムライスは、何時もより少しだけ、塩辛く感じた。
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