番外編~俺の推しが可愛すぎるので今日から本気で押してきます~
今回は、優太の友達の真守くんのお話です。
俺の名前は神崎 真守中学2年生だ。
今日は、俺のクラスに転校生が来るらしい。可愛い女の子だと良いなぁ…。そんな事を考えていると教室の扉が開き、先生が入ってきた。
「お前ら早く席に着けー。転校生紹介するから。」
先生の言葉と共に教室中がざわざわし始める。
「ねぇねぇ!優太!どんな子かなぁ!」後ろの席の友達にハイテンションで話しかける。
「静かにしろ、テンション高すぎなんだよ。」
「だって転校生だよ!?マンガとかアニメだとめっちゃ可愛い子が転校してきて運命の出会いを果たし、そこから二人の間に恋が芽生えちゃったり!?」
「バーカ。そんな事現実で起こるわけないだろ…。」
「えー。優ちゃん、ノリ悪いぞっ♥️」そう言いながらデコピンしてやると、物凄く引いた顔で此方を見てきた。
(なんだかんだ、俺の話ちゃんと聞いてくれる所やさしいよねぇ~。)
ふふっと微笑んでいると、教室の扉が再び開く音が聞こえ、そちらに視線を向けた。
…………………え?ちょっ、は?ど、どどどどうして!?
一瞬頭が真っ白になり、心臓がどっくんと大きく跳ねるのを感じる。指先が震え、瞳から勝手に涙が零れ落ちる。
だって…。俺の目の前にいるのは………。
「し、雫…ちゃん…?」ポツリと漏れでた声は、周りの雑音で掻き消された…筈なのだが、俺の勘違いだと思いたいのだが、何故か、ものすごーく此方を睨んでいるのは………気のせいでしょうか?
「よし!じゃあ、宮本…。自己紹介してくれるか?」
サラサラな黒髪と涼しげで冷たさを感じさせる瞳。小さくて柔らかそうな唇…。あれは…あの御方は!ロングヘアからショートヘアに変わっているけれど、間違いなく俺が推しているアイドルグループ"シュガーメモリーズ"の雫ちゃんだ!!!昨年急にグループを卒業してしまってから消息不明でもう見ることが出来ない幻の人気アイドルが俺のクラスに転校してくるだなんて!今世の運使い果たしたかもな…俺。
(顔も可愛いしダンスと歌も飛び抜けて上手かったんだよなぁ~。声も少しハスキーですっごーく可愛いかったし~。はぁ…、しゅき♥️)
「宮本 光輝だ…。宜しく。」
(わぁ~!可愛い顔に似合わず物凄く爽やかなイケメンボイス……って!声が全然違う!?し、しかもよく見たら学ラン着てるし!?)
「宮本、もう自己紹介終わって良いのか?趣味とか特技とか…」
「結構です。」
「お、おお。分かった。それじゃあ、みんな仲良くしてやれよー。宮本の席は、あそこの空いてる席、神崎の隣な。神崎、宮本に学校の事教えてやれよ。」
「え!?お、俺ですか!?」未だにこの状況を整理しきれていないのにも関わらず、急に話しかけられ動揺する。
「お前以外誰がいるんだよ学級委員長だろ?」
「あはは~、忘れてた~……。」
「ったく。しっかりしろよ~?じゃあ、宜しくな?おっと、もう時間が無いから今日の朝の会これで終わり!後は頼んだぞ!学級委員長!」
そう言うと先生は、颯爽と何処かへ走って行ってしまった。
(いや…。絶対面倒くさいから俺に押し付けただろ…。あのクソ担任…。)
再び雫ちゃんへと視線を戻すと、鋭い目付きではなく、元のクールな表情に戻っていた。
「えーっと…宮本…君?こっちおいで?」なるべく自然体でいようと、ニッコリ笑いながら手招きする。
何を考えているのか分からない程無表情で近付いてくる。学ランを着ているから男なのだろうが、顔が雫ちゃんだからなのか、緊張でぶっ倒れそうになる。そう、これは握手会当日、列にならび、後少しで推しと握手が出来る!……というシチュエーションと全く同じ感覚だ。
身体中から汗が吹き出し、心拍数が上昇する。あー…。これは参ったなぁ…。
「…!!おい!真守!大丈夫か!?しっかりしろ!」
薄れ行く意識の中、俺を心配する優太の声と少しだけ驚きと心配が混ざったような複雑な表情をした宮本君を目にした瞬間意識を手放した。
***
「はぁ……。ったく、どういう事か説明しろよ。ただ調子悪くて倒れた訳じゃねぇだろ?」
現在目を覚ました俺は、保健室のベッドで横になり、優太から事情聴取を受けている。
どういう事かと聞かれても、推しているアイドルの子に物凄く似ていた為、興奮と緊張で気絶してしまいました。と、バカ正直に答えるわけにもいかず、答えを渋っていると、ガラガラガラと保健室の扉が開く音が聞こえ、誰かが入ってくる気配がした。カーテンによって誰かは分からなかったが、おそらく保健室の先生だろうと考えていた時、シャーッとカーテンが勢い良く開き、現れた人物に驚愕する。
「し、雫ちゃん!?あ!……。」咄嗟に口を出た言葉に思わず両手で口を塞ぐ。しかし、ハッキリと発音していた自覚があったため、気まずさと申し訳無さで顔を上げる事が出来ないでいた。
はぁ…。と、頭上から溜め息が落ちてくる。
「何か良く分かんねぇけど…、どうせ宮本が関係してるんだろ?だったら二人でちゃんと話し合えよ。」そう言うと優太は、保健室から出ていき、俺と宮本君の二人きりになってしまった。
暫くの間、沈黙が流れる。余りの気まずさに、今すぐお家に帰りたい!と半泣きになっていると、ボソッと頭上から声が聞こえた気がして咄嗟に顔を上げる。
いきなり俺が顔をあげたからか宮本君は、少しだけたじろぎながら言葉を紡いだ。
「僕が驚かせたみたいで…ごめん…。」(え!?一人称"僕"とか可愛すぎだろ!何か新たな扉開いちゃうかも!)
「い、いや!俺が勝手に気絶しただけで、宮本君は何も悪くないから!こっちこそ驚かせてごめんね!」
宮本君は小さく頷くと、少しだけ表情が柔らかくなったような気がした。
「あのー…それで…。聞きたいことがありまして…。」真実を明らかにするため、恐る恐る問い掛ける。 物凄く怪訝そうな表情をしているけれど、これを聞かねば一生後悔すると思った。
「もしかして…、シュガメモの雫ちゃん…だったりしますか?」
聞いた瞬間、宮本君の眉間にぐっと皺がより、表情が暗くなる。
「…仮に、そうだとしたら…どうするつもりだ…。」何かを堪えるように静かにそう返す姿に、思わず胸が高鳴る。
「否定しないってことは…本当に雫ちゃんなの?」少しだけ宮本君が震えているのが分かる。やっぱり隠してたんだよね?俺が暴いちゃったから動揺してるのかもしれない。どうしたもんかと頭を抱えていると、キッとこちらに視線を向け涙目で睨みながら静かに言葉を紡ぐ。
「そうだよ…。男でガッカリしただろ?皆に言いふらしたければ言いふらせばい「ファンです!!!しかもガチガチのガチ恋勢です!ずーっと好きでした!」宮本君の声を遮り、雫ちゃんがグループを卒業してから積もりに積もった積年の想いをぶちまけた。
俺の急すぎる告白に目を白黒させ驚く宮本君の両手を力強く握りしめ、想いを届ける。
「雫ちゃんがデビューした時からずっと追いかけてました。初めて雫ちゃんをテレビで見た時、余りにも可愛くて一目惚れ?…かな。それだけじゃなくて、ダンスも歌も上手くて…ステージでパフォーマンスしている姿がイキイキしてて眩しい位に格好良くて…ライブ後も、絶対に疲れてるだろうに、出待ちしてるファンの子達に笑顔で接してる所とか見てると、対応がマジで神だし。君の事は、テレビとライブの中でしか見てないし、本当の素顔は俺には分からない…。けど!……だけど!君無しじゃ生きていけない程好きです!」
今まで握手会でも、ここまでスラスラと言葉を伝えることは出来なかったのに…。伝えることが出来た達成感と充足感で満たされる。
俺の長々とした告白が終わった後、宮本君が顔をあげてくれない。
(もしかしたら男から告白されて気持ち悪かったのか!?ど、どうすれば……!?)
「……気持ち悪くないのか?」
「え!?俺の事!?」
「違う!男で女の子の振りしてアイドルやってた僕の事が気持ち悪くないのかと聞いているんだ!」
宮本君の瞳から涙がポツポツと零れ落ちる。不謹慎なのだけれど、綺麗だと思わずにいられなかった。
ポケットからハンカチを取り出し、宮本君の涙をそっと拭う。
「君が男だったと知っても俺の気持ちは変わらないよ?だって…名前とか性別なんて関係無く…、俺は…君自身の事を応援していたんだから。まぁ、君が最初から男としてデビューしてても、一目惚れしてそうだけどね!」
そう言いながら笑って見せると、ぷっと宮本君が吹き出して笑い始めた。
「ちょっ、ちょっと!宮本君何で笑うんだよ!俺めっちゃ真剣ですけど!」
「あははっ!だ、だって…。普通だったら"何だよ男かよ"って言うところを…、お前は…、ふふっ…。」
泣き笑いした後、優しく微笑まれた。今までテレビやライブで見てきた笑顔ではなく、これが本当の素の笑顔なんだと思うと、グッと来るものがある。
暫く互いに笑った後、宮本君は今までの事を話してくれた。
約3年前、シュガーメモリーズのオーディションが開催される時、宮本君のお姉さんがノリでエントリーシートを送ってしまったらしい。オーディション主催者のアイドル事務所側が性別を見るのを忘れていたのが原因で、あれよあれよという間に合格してしまい、デビューまでに至ったという事らしい。
「家族も皆喜んでるし、事務所の人達が「こんな素晴らしい逸材!今すぐデビューさせましょう!」とか言い出しちゃって、話が大きくなって本当の事を言える雰囲気じゃ無かったんだよ…。」
宮本君は、はぁ…と溜め息をつきながら頭を抱える。
「まぁ、僕の声変わりのせいで直ぐに卒業する事になっちゃったけど…。」そう言う宮本君の横顔は、少しだけ寂しそうに見えた。
「1つ気になったんだけどさ、何でこんな田舎の学校に転校してきたの?」
「……前の学校でいろいろあってね。」
この質問は地雷だったのか、物凄く辛そうな顔をして俯かせる。
咄嗟に宮本君の肩を抱き寄せると、びくんっと彼の肩が一瞬跳ねるのを感じた。
「ちょっ、何するんだ!は、放せ!」必死にもがき、俺の腕の中から脱出しようとするが、俺の身長と体格が大きい為、全く意味をなしていない。
「どんな事があっても俺は君の味方だからね?」耳元で優しく囁くと、観念したかの様に、ピタリと動きを止めた。
いきなり動かなくなった宮本君が心配になり、恐る恐る顔を覗き込むと、林檎のように顔と耳まで真っ赤にした彼がいた。
「宮本君…?大丈夫?顔真っ赤だけど…。」俺の心配する声に正気を取り戻したのか、すかさず俺から距離を取る。
「お、お前が急に耳元で喋るせいだ…。」耳を隠し、顔を真っ赤にして涙目で此方を睨み付ける姿は、物凄く愛らしく思える。
「耳弱いのかっわいい~!」
「お、おちょくるのも大概にしろ!」
「そう言いながら、ぽこぽこと俺の肩を叩く所も可愛いね!」
「うぐぐぅ~…。ふんっ。もう平気そうだから教室に先に行ってるぞ!お前もちんたらしてないで直ぐに戻ってこい!。」
そう言い残し、バタバタと小走りで保健室を出ていってしまった。
「はぁ~………。可愛いかよ…。」
もう一生会えないと思っていた推しに会えた事よりも、宮本光輝が可愛すぎて辛い。そのうちキュン死にするかもしれないと、幸せを噛み締めた。
真守くん…。会えて良かったねぇ!(涙)