第5話 弟が可愛すぎて心配です。
読んでくださりありがとうございます!
時を遡ることバレンタインの数日前…
現在、実弟(中学1年生)と一緒に風呂に入る俺(24歳)。
「ともにぃ!背中洗ってあげる!」
優太は、そう言うと風呂の椅子をバシバシ叩き、座るように催促する。
「ああ…。ありがとう。」
「えへへっ。痒いところありますか~?」
「うーん…?特に無いかな…?」
「じゃあ、次は頭洗うね~!」
「ああ…。」
(……いや!「ああ…。」じゃないだろ!俺!!冷静になれ!)
内心自分にツッコミしてみたものの、何故、中学生の弟と、未だ一緒に風呂へ入るのか分かっていないのだ。
まだまだ弟が小さいとはいえ、流石に二人で入れるほど俺の家の風呂は大きくない。昔から一緒に風呂に入るのが習慣になっていたから今まで気にしたこと無かったけれど、やっぱりこれって変だよなぁ?
普通、このくらいの年齢の子供って親とかに対して少し冷たかったり嫌悪感?みたいなものを感じたりするんじゃないか?
俺だって父さんと風呂に入ったのなんて小学校低学年までだった気がするし…。そんな事を考えていると、背中にツーっと何かが這うような感覚に襲われ思わず「はっぁうぅ!」と、なんとも情けない声を上げてしまった。
「ふふっ…。」ばっと後ろを振り返ると、優太が悪戯に笑んでいた。
「おい!思わず変な声出ちゃったじゃないか!くすぐったいから止めてくれ!」未だにクスクスと笑っている弟の頬っぺたをぷにっと摘まんでやる。
「ろもにひぃ~いひゃいひょ~。」
「ははっ。じゃあ、兄ちゃんをからかうのは止めろよ?」
手を離してやると、頬っぺたを摩って摘まんだ反対の頬っぺたをぷくーっと膨らませている。まるでハムスターみたいだと思い、思わずぷにぷにと頬っぺたをツンツンしてしまう。
「もうっ!ともにぃも!僕をからかわないで!」
「ははっ。分かった分かった!」
(はぁ~…。俺の弟可愛いなぁ~。…………ってそうじゃないだろ俺!)
余りの可愛さに一瞬思考がお花畑になっていたけれど、今はそんなほのぼのしている時ではない。
このままだと、優太が一人立ち出来なくなってしまうかもしれない!
まぁ、俺としては、ずっと家に居てくれても構わないが、優太は違う。
あっという間に中学生から高校生、すぐに大学生になってしまうんだ。そのうち彼女なんかも連れてくることだろう。
そんな弟が、この年齢で兄ちゃんと風呂に入るなんて…。もし、高校生になっても一緒に風呂に入っていたとしたら…。絶対にそれだけは止めさせよう。うん。想像しただけで風呂がパニックだ。
そして俺は決心した…。弟を兄ちゃん離れさせる事を…!!
***
「…………っと、まぁこんな感じなんだけどさ、どう思う?」
「いや!どう思うって言われてもだなぁ……。」
俺は今、高校の頃から仲の良い佐伯 正孝に相談にのってもらうため、自宅へと呼んだのだった。
正孝は、昔から真面目で面倒見が良く、同い年なのだけれど兄のように慕っていた。正孝には俺らよりも7つ歳の離れた弟が居るため、何か良いアドバイスをもらえる気がした。
「いきなり家に来いって言うから来てみれば…本当に昔から変わってないというか…ブレないというか…。」
「ん?何が?」
心底分からないという様な表情をされ、俺も頭に?を浮かべる。
「はぁ…。まぁいいよ。それより、弟が?どうやったら兄離れしてくれるか…だったか?」
「そうそう!このままだと、一生一緒に風呂入るのが容易に想像できるからな!ははっ!」
「いや笑い事じゃねぇだろーが…。」物凄く深い溜め息をつかれた。
「俺思ったんだけどさー。友久が弟離れ出来てないっていうか…。構いすぎなんじゃないか?俺んちなんて結構放任主義って感じだったし。」
「うーん…。でもなぁ…。今まで親の代わりに優太を育ててきたから、今さら構わなくなったら優太が悲しむだろうしなぁ…。あいつが悲しむとこなんか見たくねぇーし…。出来ることならずっと笑顔でいて欲しい。」
「別にいきなり構わなくなるんじゃなくて、徐々にで良いんだよ。取り敢えず、何でも一人でやるようにさせろよ。中学生になってまで家族と一緒に風呂入ってるの普通じゃねぇーから。」
"普通じゃない"と、自分でも感じていたが、改めて言われると心にトゲが刺さったように少しだけ息苦しさを感じた。
***
「それじゃ、そろそろ帰るわ。」
「おうっ!今日は相談のってくれてありがとな。」
「ああ。俺で良ければ何時でも相談のるから、あんまり考えすぎんなよ?」そう言うと正孝は、俺の頭をガシガシと雑に撫でる。
昔から弟が居る手前、兄ちゃんの俺がしっかりしなきゃと自分に言い聞かせ、誰かに甘えたいという気持ちを押し殺していた。
そんな時、正孝と出会った。正孝だけが俺の気持ちに気づいてくれて、今みたいに、頭を撫でてくれた。少し照れ臭かったけれど、物凄く安心した。
それからは、俺が悩んだり落ち込んだりしたとき、こうして慰めてくれている。実質心の中では、"兄ちゃん"と慕うくらいには、正孝を家族のように想っている。
「ふふっ。孝ちゃん何時もありがとな?」そう言うと、正孝はジーっと俺の顔を凝視し動きを止めた。
「孝ちゃん?どうした?」
「…ん?いや、何でもないよ。」と、優しく微笑み、頭を撫でていた手のひらが、ゆっくりと下へ下り、頬までたどり着こうとした時。
ガチャっと玄関の開く音が聞こえ、そちらに視線を移すと、目を大きく見開き、驚いた様子の弟がいた。
「あ!優太お帰り。」
「…ともにぃ、その人誰?」
「え?ああ、高校の頃からの友達で…。」
「佐伯正孝だ。友久の弟だよな?よろしくな。」そう言うと正孝は、優太の肩にぽんっと手を置き目線を合わせた。
「じゃ、帰るわ。またな、友久。」
「あ、本当にありがとな!孝ちゃん!」
お互いに手を振り、見送り玄関扉を閉めると、俺の直ぐ後ろで優太が静かに黙って立っていた。
「ともにぃ…さっきの人と何してたの?」何時も笑顔な優太の表情から何を考えているのか分からないほど無表情に変わり動揺する。
「え?一緒に話してただけだけど…。」
「じゃあ、何でともにぃに触ってたの?」
「触ってた…?ああ、頭撫でられてたことか?あんなのただのスキンシップで……。って、優太どうした?」
優太は、今にも泣きそうに肩を震わせていた。
「ゆ、優太?どうした?兄ちゃん何かお前が嫌がることしたか?」
普段は常に笑顔で元気一杯な優太だけれど、知らないうちに色々我慢させていたのかもしれない。良い子過ぎるところも、俺に心配かけさせないように無理しているのかも。
そう考えていると、ぎゅっと優太が抱きついてきた。
「どうした?」頭を優しく撫でてやると、「ともにぃは、僕のなのに……。」と、小さく呟いた。
優太の顔を覗き込むと、むすっと不貞腐れた顔をしていた。
「もしかして…、兄ちゃんがとられると思ったのか…?」
そう聞くと、優太は、恥ずかしそうに小さく頷き顔を俯かせた。
(うっっっっっっっっわ!何これ!?すっげぇ可愛い!兄ちゃん離れさせるつもりなのにすっげぇ嬉しいんだけど。)
優太の、俺に対する好意に嬉しさと同じくらい心配が増え、やっぱり兄ちゃん離れさせないとと、再び心に決めたバレンタイン前日だった。
よくよく考えたら、バレンタインデーって3学期だから、時間が一気に過ぎてることに気付き、呆然としてしまった。(優太の夏休みと冬休み編かきたかった……。優太もうすぐ2年生になっちゃうじゃん…。)