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第4話 バレンタインとか地獄…いや、やっぱ最高。

現実の今年のバレンタインは日曜日で学校お休みじゃん…。

今日は年に一度のバレンタインデーだ。先生達がチョコレート禁止令を出していたため、安心して学校に登校したのだが、案の定下駄箱からチョコレートの箱があふれでていた。


内心、靴入れる所に食べ物入れるなよと思いつつ、チョコレートを1つずつ回収していく。

同じクラスの友達の真守が、あれから直ぐに俺のファンクラブを作り、色々とファンクラブ内のルールを決めてくれたらしく、俺の方に被害が来ることは無かったし、無駄に騒がれる事もなくなった。しかし、こういうイベント事の時のことはきちんと決めていなかったらしい。

(次からは、まとめて真守に回収させよう…。)


「優太おっはよー!うっわぁ~!すっごい沢山チョコもらったねぇ!」

「真守おはよ…。食べ物を下駄箱に入れるのはやめて欲しいけどな…。」


チョコレートの回収を真守に手伝ってもらい、教室へ向かう。


案の定机の上にも山ほどチョコレートと手紙が乗っていて思わず溜め息が零れる。


ガラガラガラ


運悪く、片付ける前に先生が教室に入ってきてしまい「おい、斎藤。先生がチョコ没収する前に片付けとけよー…。モテモテで羨ましいな~。」と冷やかされ物凄く複雑な心境だ。


その日1日どこに行くにもチョコレートやら告白やらで休む暇もなく、はっきり言ってしんどかった。


甘いものは好きだが、限度がある。

(こんなに沢山食べきれる気がしないな…。)


そんなこんなで慌ただしく1日を終え帰路に着く。


***


「ともにぃ!ただいま!」

リビングの扉を開けた瞬間、甘い匂いが鼻腔を擽る。

「おう!優太お帰り!」

キッチンから、エプロン姿の兄ちゃんがひょこっと顔を覗かせる。


「何かすっごい甘い匂いがする!何の匂い!?」

興味津々にそう問い掛けると、兄ちゃんはニヤリと笑みを浮かべ後ろ手に持っていたものを目の前に出した。


「うわぁ~!チョコレートケーキだ!…え!?もしかして…ともにぃが作ったの…?」

「ははっ。今日バレンタインだろ?優太チョコレートケーキ好きだったよな~……と思ってさ。作っちゃった。」

へへっと少し照れ臭そうにそう言う兄ちゃんと、エプロン姿効果により、俺の頭の中で新妻ともにぃとの新婚生活が繰り広げられていた。


(俺がチョコレートケーキ好きだったから作っちゃったとか何それ?可愛いかよ…。)



「ともにぃ!ありがとっ!大好きっ!」ぎゅーっと兄ちゃんに抱きつくと、「ちょっ!ケーキ持ってるから!ふふっ…。危ないだろ?」と優しく宥められながら、優しく頭を撫でられる。それだけで、すぅっと今日の疲れが無かったかのように消えていった気がした。



「よし!晩飯にするから、早く風呂入っておいで!」

「……え?」

「兄ちゃん今から晩飯の準備しないとだから…。」

「…じゃあ、僕も手伝う!」

「優太学校から帰ってきて疲れてるだろ?手伝わなくて良いよ。」

「……何で?ともにぃ…僕の事、嫌いになった?」

「…そんなんじゃないから。」

兄ちゃんの何時もより少し素っ気ない様子に、どうしようもない程の不安が駆け巡る。


「じ、じゃあ手伝っても良いでしょ?ご飯食べてからでもお風呂は入れるし!」

「そうだな……!!いや、やっぱり兄ちゃん1人で十分だから風呂に入ってこい!」兄ちゃんは、急かすようにして俺を風呂場へ向かわせようと、背中を押してくる。


「ともにぃ!!」大きく声を上げると、背中から少しだけ兄ちゃんがビクッとしたのが伝わる。


「…………ろ。」ポツリと、小さな声であまり聞こえなかったが、兄ちゃんが何かを口にした。

「ともにぃ…もう一回言って?」くるんっと後ろに振り返り、兄ちゃんの両手を握る。兄ちゃんは、少しだけ戸惑う様子をさせた後、何かを決心したように口を開く。


「もう…優太も中学生になったんだし、一人の方が良いと思って……。」

「……え?」

「っ~!!!だから!もうお前中学生なんだから一人で風呂入れるだろ!」そう言うと、キッチンの方に逃げようとする兄ちゃんを後ろから抱きつき制止させる。


「何でそんな事言うの?今までずっと一緒にお風呂入ってたのに…。やっぱり僕の事嫌いになったんだ…。」目から涙が零れ落ちそうになるのを我慢し、抱き締めている腕に力を込める。


はぁ…。と深い溜め息が聞こえ、俺の腕を優しく剥がした兄ちゃんが、俺の肩に手を置き向かい合う。何時もより真剣な眼差しに捕らえられ、息を飲む。


「優太…?兄ちゃん考えたんだけどさ…?」

「なに…?」


「えーっと…。普通、お前くらいの年頃の子って親とかと一緒に風呂とか入るの嫌じゃないか?」


罰が悪そうにそう言う兄ちゃんの言っていることは、恐らく…というか、確実に間違っていないだろう。まぁ、それが俺じゃ無かったらの話だが…。


「ううん!僕、ともにぃとお風呂入るの好きだよ!……でも、ともにぃが僕のことが"嫌い"で…、一緒に入るのが"面倒くさい"なら、僕…我慢するね…。ごめんなさい。」眉をハの字に曲げ、瞳を潤ませると、兄ちゃんが物凄く焦り出した。


「い、いや!優太の事嫌いな訳無いじゃないか!一緒に入るのも面倒くさいなんて思ってないし!」


「じゃあ、何で急に一人で入れって言ったの?」

静かに問い掛けると、兄ちゃんは、ぎゅっと口を結んだ後、少しだけ困ったように理由を打ち明けた。


「そんなの……おかしいって。普通じゃないって…言われたんだ。」そう言う兄ちゃんの表情は、少しだけ雲って見えた。


「誰に言われたの?」

「友達に相談したんだ…。優太が、余りにも良い子過ぎて反抗期が来ないから心配になって…。反抗期が来ないとあんまり良くないって聞いたことあったから…。友達の家も弟がいたから参考になるかもって…。」


理由を知り、思わず溜め息を吐くと、ビクッと兄ちゃんの肩が揺れた。

「ともにぃ…?普通ってなに…?」

「…え?」

「普通って誰が決めてるの?」

「……。」


「普通じゃないといけない理由は?普通なら幸せになれるの?」

次々投げ掛けられる問いに息を詰まらせ言葉がでない兄ちゃんに、少しの苛立ちを覚える。


「ともにぃはさ、僕に普通を求めてるけど。両親が家に帰ってこない時点で普通じゃないよ。兄ちゃんが弟なんかのために…やりたい事も出来ない、そんなの普通じゃないよ…。僕の存在自体普通じゃな「もう良いからっ!」僕の言葉を遮り、痛いくらい頭と肩を包み込むように抱き寄せられる。兄ちゃんの体が少しだけ震えているのが分かり、僕も優しく兄ちゃんの背に腕をまわす。


「普通って人それぞれだと思うんだ。それを他人の物差しで図るなんて出来ないし、それに口を出すのもおかしいと思う。」

「…っ。」

「僕、母さんが育休期間を終えて仕事に復帰して両親共に仕事で忙しくなって…最初はすっごく寂しかった…。でも、僕にはともにぃがいたから…。ともにぃが僕の事を大切にしてくれてるって分かってたから、今まで幸せだったよ?」


腰に回していた腕に力を込め抱き締める。耳元で兄ちゃんが鼻を啜る音が聞こえた。

「兄ちゃん…?」と、声をかけると"ありがとう"と少しだけ震えた涙声で耳元で小さく呟くのが聞こえた。


「へへっ。僕の方こそありがとうだよ…ともにぃ。今まで僕の事守ってくれてありがとう。…好き。大好き!世界一大好きだよ?」

「うっ!うぅ~っ!優だぁ~!!グスッエグッ…兄ちゃんも優太の事ダイズギだからなぁ!!!」

「えへへっ…。知ってる…。」


暫く、その場で泣き崩れる兄ちゃんの肩を優しく抱き、落ち着くまで頭を撫でた。

今はまだ、おそらく、これからも兄ちゃんが俺の事を家族として好きだと言うことは変わらないんだろう。でも、俺が兄ちゃんを離さない限り、兄ちゃんは俺の傍にずっといてくれるんじゃないかと、そう思った。そうだとしたら、俺はずっと幸せなのに。






最後まで読んでくださりありがとうございました!

まだまだ続きますので、二人の事見守ってくださると嬉しいです。


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