第2話 憂鬱の理由
今回は、弟目線で話が進みます。
俺の名前は斎藤優太。中学1年生になったばかりだ。
ともにぃに見送られ、今は学校に向かう途中。
(はぁ…。学校行くのだるいなぁ。爆発すれば良いのに。)
学校に近付けば近付くほど、鬱々としてくる。
何故にこんなにも学校に行く事が億劫なのかというと…。
「「キャーーー!!!優太君っ!」」
校門へと差し掛かったところで何処からともなく声が響いた。
(うるさいなぁ…。)深い溜め息をついた後、声のする方へ目線を向ける。
「「キャーーー!!!こっち見た!」」
「え?モブ子…。優太君何かこっち近付いてきてない?」
「は?そんなわけないじゃないの…。」
「ねぇ…。」
「「ひゃいっ!!!」」
物凄く驚いた顔をした女子生徒を冷めた目で見つめる。
「その声…耳障りなんだけど。止めてくれないかな?」
「「!!!」」
そう言うと、彼女達は血相を変えてすごい勢いで走って行った。
(俺の事が恐いなら最初から騒がなければ良いのに。)
***
俺が教室に着くと、クラスの女子の半数位が立ち上がり教室の片隅に集まりだした。
中学生になってから何週間かたつけれど未だにこの環境は慣れない。
小学生までこんなにも女子に避けられる事は無かったんだけどな。
ああ、俺とは別の小学校から来た奴らが騒いでいるのか。
幸いなことに小学生の頃から仲の良かった友達が何人か同じクラスだった為、女子以外から避けられる事は無かった。まあ、始めは好奇な眼差しをむけられたけど…。
「優太おはよー。」
物凄く眠そうな顔をして話しかけてきたのは、中学から出来た友達の神崎 真守だ。
「真守おはよ。眠そうだけどどうした?」
「うぅっ!聞いてくれよ!俺の最推しの雫ちゃんが引退しちゃったんだ!」
「あー…。だから目が腫れて隈が酷いのか。」
真守は普通にしていたらイケメンの部類に入るのだが、重度のアイドルオタクなため、女子から一線引かれている。
「うぅー!雫ちゃんにもう会えなくなるだなんて…。」
「真守。泣くなよ、男前が台無しだぞ。」俺の机に突っ伏しながら泣く真守の頭をわしゃわしゃと撫でくりまわしてやる。
「ちょっ!優太!やめてよー。」
「ははっ。泣いてるお前が悪いんだ。」
笑ってそう言うと、真守がポカーンと口を開けアホ面を向けてきた。
「………るわ。」
「は?なんて?聞こえねぇ、ハキハキ喋れ。」
「俺!優太のファンクラブ作るわ!」
「…は?ふざけてんの?」
何か決心したかのように真剣な顔をしたと思ったら、意味の分からないことを…。
「それを作ったとして誰が俺なんかのファンになるって言うんだよ。」
「はぁ!?全人類だろうが!」机をバシンっと叩きながら逆ギレしてくる真守の圧に軽く引く。
「いや、お前バカだろ。何か知らないけど俺のこと恐がって避けられてるの知ってるだろ?」
「……え?優太もしかして女子達が避けてる理由が恐いからだと思ってるの?」心底呆れたような眼差しを向けられ、ムッとする。
「は?そうだよ今朝だってキャーキャー騒がれて五月蝿かったから注意したら血相変えて逃げていったし。俺は怪獣か何かか?」
「優太…。お前が陰で何て呼ばれてるか知ってるか?」
肩にぽんっと手を置かれ溜め息をついた後、耳打ちされた。
「ドS王子もしくは腹黒王子だって。」
「え…。それって褒めてるの?貶してるの?」
余りにも意外な答えに戸惑う。てっきり物凄い罵詈雑言を並べられると思っていた。
「ん~?褒めてるんじゃないかな?この前「優太くんに罵られたい!」って女子が言ってるの聞いたし。あと、イケメンだーとか可愛いとか?まぁ、嫌われてないし、むしろラブ?」
「まじか…。じゃあ俺が今まで睨みながら注意してたのって逆効果だったのかよ。」
「ははっ。ドMちゃんは大喜びだろうね!まぁ俺は笑った顔の方が好きだけど?」
「きっも。」
「ちょっと!ひどい!」
***
時間は少し過ぎ、今は屋上で昼休憩をしている。まだ寒いからか、俺の他に人はいなく貸し切り状態だ。少し寒いけれど、一人は落ち着く。
一息つくと、兄ちゃんが作ってくれた弁当を食べ始めた。毎日朝早く起きて俺の為に弁当を作ってくれているのだ。
弁当以外にも俺の世話は、昔から兄ちゃんがしてくれていた。最初は、仕事で忙しい両親と会える時間が少なくて寂しく思う日もあったが、兄ちゃんが一緒に居てくれていたから寂しい気持ちも小さくなった。
何時も、友達よりも俺を優先して早く帰ってきてくれる事に、始めは申し訳なく思っていた。
何度も友達を優先しても良いよ、一人でも大丈夫だからと言おうとしていたのだが、兄ちゃんを俺だけが独占出来る時間が無くなってしまうのではないかという思いが邪魔をして開きかけた口をつぐむ。
俺が未熟なうちは、俺の事だけを見てくれるかもしれない。それならずっと可愛い弟を演じていよう。兄ちゃんが俺以外の人に取られるのは嫌だから。
俺が兄ちゃんのことを恋愛感情として好きだと気づいたのは、小学5年生の時だ。
その日は、友達の家で何人か集まって映画を観る約束だった。
しかし、実際は映画ではなくAVだったのだ。
なんでも、友達の兄ちゃんが隠していた物をこっそり持ってきたらしい。
初めてみる物に、最初は胸が高鳴るのを感じた。
しかし、最後まで観ても全く興奮しなかったのだ。女の人が息を切らし、喘ぎ乱れる姿を見ても全く反応が無かった。周りの友達は皆興奮しているのに…。もしかしたら俺は何かの病気なのかと心配し、その日の帰り道は頭の中が真っ黒になったような感覚だった。
家に帰ると、俺の何時もとは違う様子に気付いた兄ちゃんが心配して「優太…?大丈夫か?熱でもあるんじゃないか?」と、俺のオデコに顔を近付け、互いのそれが触れ合った瞬間、今だかつて無いほど心臓が激しく脈打つのを感じた。
咄嗟に兄ちゃんを押し退け、自室に駆け込む。
「ははっ…、嘘だろ……?」思わず乾いた声が喉を掠める。
自分の下肢へと熱が集中していく。その日俺は、初めて兄ちゃんのことを想いながら自分の欲望を吐き出したのだ。
自分の気持ちに気付くと、どうしようもない虚無感に苛まれた。
"兄弟"という事実がどうしようもないほどの重い枷になり、日に日に黒い靄に蝕まれていく気がした。
そんな日々が続いた時、兄ちゃんが初めて家に彼女を連れてきたんだ。
幸せそうな二人を見て、俺には見せたことのない顔を彼女に向けている兄ちゃんを見て、自分の中の何かが静かに崩れていく。
自分では、いくら頑張っても家族としてでしか愛されることは無いのだ。彼女を見つめるあの目で俺を見てくれたなら…。
俺の想いが伝わったのかと思うほど、数ヵ月で二人は離れてしまった。
余りにも呆気なく終わった関係に、喪失感に似たものが込み上げてくる。
あんなにも幸せそうで、好き合っていたのに。どうして一瞬で終わらせる事が出来るのだろう。
別れた理由も些細なことらしい。
"恋人"という関係は、永遠に続くものでは無いのか。それならば、血の繋がりという深い繋がりを持つ俺の方がずっと一緒に傍に居られるのではないかと。
それからは、自分の中の好きという感情に蓋をして、良い弟でいようと決心した。
***
(はぁ…、それにしても今朝のともにぃヤバかったな…。)
食べ終えた弁当を片付け、今朝の事を思い出す。
もうちょっと一緒に居たかったから少し腕を引っ張ったら、まさか押し倒されるとは思わなかった。余りにも突然の事で一瞬思考が停止した程だ。
朝食を食べていた時だって、俺の口元に付いていた米を取り、優しく微笑まれた時なんか思わず「えっっろ、犯してぇ……。」と口から漏れでて焦った。幸い聞き取れていなかったようで上手く誤魔化せた。
少し気を抜くと感情が溢れだしてきてしまう。これからはもっと気を引き締めていこう。俺の想いに気付かれないように。
(まぁ、ちょっと抱きついたりする位は許されるよね?弟の特権は有意義に使わないと…。)
最後まで読んでくださりありがとうございます!
まだまだ続く予定なのでよろしくお願いします!