9 ラウルの森の神殿 その2
ブックマークをして下さった方、評価をして下さった方、ありがとうございます!
階段を降りると、その先には広間になっていて、幾つもの赤く光る目がこちらを伺って威嚇している。
『グゥーーーーーーーーーー 』
俺は《範囲魔法》血鎌でダメージを与えながら敵の注意が全て俺に来るように仕掛ける。
けたたましい鳴き声が響き渡ると同時に何匹もの見たことが無い生き物が襲って来た。
大きな口に鋭い牙、鋭く長い爪を持つ二足歩行のモンスター。
吠えながら歯を剥き出した様はまるで狂犬のようだ。
それが同時に何匹もピラニアのように襲ってくるのだ。
この数と戦うのかと思うと気持ちが折れそうになる… 。
「チュッパカブラか!」
そう言いながらザックさんは《ライトニングサンダー》の光化魔法放つ。
放った光の攻撃が目潰しとなり、けたたましい鳴き声と噛みつこうとする歯が一瞬停止した。
俺は体勢を立て直して、剣と盾に《ファイヤーシールド》の強化魔法をかける。
そして大きく一呼吸した後、燃える剣で切り付けて、焼いた鉄のように熱い盾でチュッパカブラを除ける。
捕まって押し倒されたら最後だ。
切られても狂ったように襲いかかってくるので、シールドで相手の攻撃を軽減しつつ、俺は小気味良くコンボを打ちながら剣を捌いていく。
ようやく、ブライアンさんが戦っている姿が目に入って来た。
再度ザックさんの《ライトニングサンダー》、その隙に目に前の3体の首をはねる。
残すところ5匹。
ザックさんが2匹をファイヤブレードで、他の2匹をブライアンさんが、そして最後の1匹を俺が仕留めた。
多分50匹以上はいただろう。
さっきまでのけたたましい騒音は消え、今は静寂の中にいる。
俺達は落ちてる魔石拾い集める。
「あの襲いかかってくる時の歯と吠え方はトラウマになるレベルですよね。」
と俺が言うと、
ブライアンさんが
「もう二度とやりたく無いよ。」
近藤さんも「本当ですよね。あまり攻撃に加わって無い私でも、精神的にかなり参りました。」
「未だ終わって無いんだよ。僕達がここに来たのは大型の魔物討伐だからこれからが本番。」
とザックさんが言う。
その通りだ。
俺達が依頼されたのはオークやチュッパカブラの討伐では無い。
大型の魔物の討伐。
ただもう吠えたり、噛み付いたりするモンスターだけは御免だ。
近藤さんが治癒魔法を皆んなにかけながら、
「大丈夫。次もパパパっとやっつけちゃいましょう。」
と励ましてくれた。
タヌキの近藤さんは本当に天使だわ。癒される。
「そろそろ行こう。」ザックさんが言う。
俺達は気を取り直して広間前方の大きな階段を降りる。
階段の踊り場から下の方が微かに明るい。
今のうちに俺は再度 剣と盾に《ファイヤーシールド》のバフの付与をする。
階段を降りると、そこは更に大きな広間で奥の方は光が差し込んでいる。
そして広間の中央には狼のような3つの頭とコウモリの様な羽を持つ巨大な魔物が、待っていたぞと言うようにこちらを見ていた。
魔王ケルベロス(キングケルベロス)
その悍ましい姿をした化け物の口から垂れた唾液が落ちた場所から妖気のように触手が生える。
俺は《範囲魔法》血鎌で触手を刈りながら敵の注意を集める《ブリンカー》の効力を強化する。
そして先ず《ファイヤブラスト》を3つの頭に向けて打った。
報復は直ぐに来た。俺が放った《ファイヤブラスト》の火力を馬鹿にするかの如く炎が俺を襲う。《ターボシールド》で防御し、また直ぐに攻撃にまわる。
唸りながら3頭は俺に食いつこうと牙を剥く。
それをかわしながら奴の足に何度も打ち込んでいると、奴は火を吹こうと顔を持ち上げた。
2頭は俺を狙い、1頭は俺に《回復魔法》の詠唱を唱えている近藤さんに向いている。
だが近藤さんは全く気付いていない。
「近藤さん前!」
近藤さんは前を向いて1頭が目の前で憎々しげに自分に向けて大きく口を開けているのを見て近藤さんが《シールドオブプロテクション》の詠唱をしようとすると触手に捕まった。
俺は走って近藤さんの近くまで行き、触手を切って《ターボシールド》で炎を吹き飛ばす。
「範囲攻撃だ。」ブライアンさんが叫ぶ。
範囲攻撃の前兆で攻撃を受ける場所がオレンジ色に地面が光る。
今、近藤さんがこれを受けたら即死だ。
俺はタヌキの近藤さんを抱えて走る。
スライディングしてオレンジに光る枠の外へ脱出した直後、
『ゴッ、ゴッ、ーーーーゴォーーーーーーーー 』
地面が音を立てて捲れ上がって爆風が巻き起こった。
その後俺は近藤さんを安全な場所に置いて直ぐに奴らの足元に戻り攻撃を再開する。
今度は尾で俺を叩こうと、尾を上げて地面に叩きつけてきた。
巻き上がる粉塵の中、それをかわしながら奴の尾に炎の剣を突き刺す。
「グォーー」っと唸り声をあげて、今度は振り向いて俺に火を放った。
「おっと」
俺は難なくそれをかわしながら反撃する。
身体が奴の動きを覚えてきたのだ。
円形の範囲攻撃の前兆が現れた後、俺は魔王ケルベロスの身体に駆け上り、真ん中の頭の首から、左側の頭の目に剣を突き立てた。
狂ったように唸り声をあげる魔王ケルベロス。
「グォーーーーーーーーー! 」
それと同時に範囲攻撃が発動し、
『ゴォーーーーーー 」
と爆風が起こった。
未だ粉塵が舞う中、俺は地面に降りて、のたうち回っているケルベロスの別の目にも剣を刺した。
俺の頭上にマーカーが付く。
このマーカーを付けられた者には魔王ケルベロスの制裁が下される。
俺は味方から離れて《ホーリープロテクション》を発動してダメージの無効化を計る。
それからすぐに俺を取り囲むように爆発が起こった。
周りを取り囲む真っ黒なドームの中から、ブライアンさんが後ろ側から刀で魔王ケルベロスの腹部を切り付けながら正面のこちら側に走って来るのが見えた。
サムライブライアンさんマジかっこいい!
魔王ケルベロスのHPがもう少しで無くなる。
ザックさんが最後のとどめの一打を放つ。
真っ青な炎が魔王ケルベロスを焼きながら浄化させてゆく。
全てを焼き尽くして、
そしてそこに残ったのは小さなクリスタルの宝箱だった。
俺はふと思い出した。
「あっザックさんもしかしてあの鍵、この宝箱のでは?」
ザックさんが鍵を使って宝箱を開けると、真っ赤な魔石が入っていた。
箱の中の魔石は一旦宙に浮いて、そしてザックさんの中に消えていった。
「魔石がザックさんを選んだんですね。」
と近藤さんが言う。
俺は あらためて周りを見回す。
すると光る物が落ちていた。
よく見ると短剣だった。
俺と近藤さんはサンダーシャックの従業員なので、短剣をブライアンさんに渡す。
ブライアンさんは困った顔をするが、ブライアン以外全員顔を縦にブンブンと振るので、ブライアンさんは肩をすくめて短剣を受け取った。
あらためて周りを見渡す。
ここはピラミッドの地下に有る神殿のようだ。
広間の奥には池が有り、池の上から光りが差し込んでいる。
ブライアンさんは池から外を覗き込んで
「この聖なる泉 から魔王ケルベロスは外へ出入りしていたんだろう。」
と言う。
俺達が神殿の外に出ると、ビデオクルーは興奮している様子だった。
きっと良い画像が撮れたのだろう。
「だいぶ日が傾いているなぁ〜。」
と俺が言うと、小声で近藤さんがぼやく。
「あ〜 今日もまた残業コースだわ…。」
そう言ってマジカルドアを取り出した。
お読み頂きまして誠にありがとう御座います。