8 ラウルの森の遺跡 その1
どうぞ宜しくお願いします。
俺は装備をして冒険者ゲート近くの柱で皆さんを待っていると、向こうからフル装備のザックさんとブライアンさんがやってきた。
「おはよう御座います。」
「おはようございます。今の気分はどう?」とブライアンさんが言う。
「なんか緊張しますね。」と俺が言うと、
「私も緊張してるよ。 VLSは VRゲームとも違う究極のリアリティーゲームだから恐怖心で足がすくんだりするし、身体強化をしても自分を信じれなければ成果は出せない。だから緊張しない方がおかしいよ。」ブライアンさんはそう言って笑った。
「助っ人とカメラクルーはラウルの森の冒険者ゲートで待ち合わせている。じゃあ行こう。」ザックさんの一声で俺達はゲートからラウルの森に転移した。
ラウルの森のゲートで出迎えたのは4匹のタヌキだった。
その内の一匹がこちらを向いて言った。
「おはよう御座います。近藤と申します。今日は助っ人として来ました。どうぞ宜しくお願いします。」
「あっ、近藤さん 宜しくお願いします。」
近藤さんは 「はい。 宜しく。」と言いながらドアを取り出してゲートの壁に貼り付けた。そしてドアに『ラウルの森の遺跡入り口』と書いてドアを開く。
「えっ? 近藤さんこれはもしかして… あの有名な… 」
「これは『マジカルドア』です。関係者しか使用出来ない非売品ですが、今日は特別に使用の許可を貰っています。 どうぞ入ってください。」
(近藤さんは移動に時間をかけれない。仕事が溜まっているので早くオフィスに帰りたいという大人の事情があるのだ。)
ドアを出ると俺達の目の前には大きなピラミッドの神殿が現れた。
「メキシコのチチェンイッツァの遺跡みたいだ。」とブライアンが言う。
もしかしたらサンダーシャックはそこからパックった…インスピレーションを貰ったのかもしれない。
目の前には壮大な森と神殿、そして真っ青な空が広がっていた。
感慨に浸っている俺をよそに、早速カメラクルー達は皆んなの顔に小さなトランスミッターを付けていく。
これをつける事によってセルフィー機能も有るゲーム内では、何処の位置からでも撮影が出来るそうだ。
ビデオクルー達はピラミッドの外に自身のアバターを置いてカメラ操作をする。
「さあ行くぞ!」
ザックさんがの掛け声で武装した4人(武装したタヌキ含む)が神殿を登る。
かなり急な階段を登りきると周りは見渡す限り森。
「風が気持ちいいな。」
ザックさんは遠くまで続く森を見ながら大きく伸びをする。
「本当に良い風ですね。」
しかし神殿はというと、大部分を破壊され、中に通じる入り口がぽっかり口を開けている。
「では中へ入りましょうか?」とブライアンさんが言うと。
「シルバー、お前から入ってくれ。」
「はい。ザックさん」先頭を行くのが俺の役目だ。
俺はHPが高いので敵からの攻撃を受けても直ぐには死な無い。
慎重に階段を降りる。
天井や壁にいくつも空いている灯り取りの穴のおかげで、神殿の中は薄暗くとも周りが見える。
踊り場に出るとそこは行き止まりだった。
よく周りを調査すると一箇所だけ壁のブロックが『押してー!』と言わんばかりに突き出ている。
これは絶対に押しちゃいけないやつだよね?
皆んなもそう思ったのか、皆周囲を探す。
ザックさんが壁の穴から鍵を見つけた。
「鍵があったぞ。」
それと時を同じくしてブライアンさんがブロックを押し込んだ。
「えっーーー?」
『ドンーーーーーーー』と
大きな音と砂煙を舞い上げて後ろの通路が壁で塞がれた。
それと同時に横の壁が開いた。
俺は皆んなの顔を確認してから、ゆっくりと開いた壁の中へ入る。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
部屋の奥の暗がりから荒い息遣いが聞こえる。そして大きな固まりがこちらの方へ動き出した。
大きな淀んだ緑色の身体に立髪、捲れ上がった鼻、口からはゆだれが垂れている。
「オークだ。オークが3体いる。」
しかも普通の状態では無い。
かなり飢えているのだろう。
高級和牛ステーキでも見るかのように俺を見てゆだれを垂らしている。
2メートル以上は有る巨漢のオークだ。
俺は《ブリンカー》を発動する。これを発動することによって奴らの視線を俺に集中させるのだ。
3体のうち右側のオークは手にブロックを持っている。
「右側から行きます。」
オークが一斉に俺めがけて襲って来た。
俺は右側へ スライディングして右側にるオークの中心を剣で貫く。
その時、俺を捕まえようとした左のオークは身体のバランスを崩して前のめりに転倒した。
俺は右足の勢いで起き上がり、再度右側の屈んでいるオークの首に一打、これでかなりのHPを消耗しているはずだ。
中間のオークは俺に怒りの目を向けながら俺に掴みかかるが、既に後方から刺客のブライアンさんが右から左に、そして左から右に背中を斬り、最後のコンボが決まって首にすっぽり一打。
左側最後の一体に目をやるとザックさんが既に豚の丸焼きを作っていた。
その後ザックさんは他の2体の丸焼きも作って、難無くオークを全滅させた。
近藤さんが小さな魔石を拾って袋に入れて、
「殆どダメージはありませんが、いちょう《回復魔法》の詠唱かけておきますね。皆さんよく頑張りました。」
とヒーリングのキラキラした光をかけてくれた。
「近藤さんは天使だ。」とブライアンさんが言う。
うんうん。確かにタヌキの近藤さんは天使の様に可愛らしい。
「ここからどうするかなぁ。」
周りを見回してみる。
開いた壁の床のブロックが外れている事に気が付いた。
それは丁度、オークが持っていたブロックの大きさだ。
俺はブロックを持って、そこにはめ込もうと思うが万が一の事もあるので一旦とどまった。
「申し訳ないですが、俺以外は一旦踊り場の方へ行って下さい。このブロックをここに はめてこの部屋に変化が有るか確認します。もしこの壁が閉まったら、最初のブロックを押して壁を再度開いて下さい。」
そして俺以外は踊り場に出た。
ブロックを床にはめ込むと目の前の壁は閉まり、代わりに別の壁が開いた。
その後皆んなは壁を開けて戻ってきたが、新たに開いた壁は開いたままだった。
俺達は新しく開いた壁から部屋をを出て、階段を降りる。
階段の先には広間が有りそこには幾つもの赤く光る目がこちらの様子を伺っていた。
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