30 花火大会 1
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パン、パン
久しぶりの2日連休の朝、俺は家の近くの神社で手を合わせている。
信心深いからという訳では無い。
俺は早朝から姉さんに叩き起こされ、
掃除の邪魔だからと買い物リストを渡されて、家から追い出されたのだ。
しかし近所のスーパーは9時からだったので、近くの神社に来たと言う訳だ。
以前からここに神社がある事は知っていたが、来るのは初めてだ。
清々しい。
参拝を済ませて階段を降りながら、俺は近藤さんの事を考えていた。
VLSで再開してから、ずっと俺の側にいた女性。
俺にとって彼女は自然体で、側に居るだけで気持ちが温かくなる存在だ。
ただVLSで生活していた俺にはどうする事もできなかったのだが…
だが今俺は現実社会に住んでいる。
健司は大きく息をして、現実社会に戻ってきた事、そして生きている事に感謝した。
「オッシャーーーー!」
俺が急に大声を出したので、
境内を掃除していたお爺さんがビックリした顔で俺を見る。
おっと、マズイ。
「すみません。」
ここは現実社会。
ついシルバーに慣れすぎてオーバーリアクションが癖になってしまった。
健司はペコペコと頭をお爺さんへと下げながら逃げるように階段を降りた。
その後開店したスーパーに寄って、ビールやお茶、つまみになりそうなものを買って帰る。
「ただいま。」
姉さんは携帯を耳にあてながら俺を見て、もう一方の手で携帯を指差した。
あ〜電話中か。
「あっ兄さん、本当に運が良くてね。パーティールームがキャンセルが入って今日使える事になったのよ。だから健司の部屋じゃ無くて最上階だからね。 うん、受付に言ってあるから。 じゃあ後でね。」
俺が仮住まいをしているタワマンにはジムやプールなどの共有施設が有るのだが、その中に展望のパーティールームが有る。ここは予約をして使用するシステムだ。今日は別の人が予約をしていたが、急にキャンセルになったそうで、俺達が使える事になったのだ。
「健司 洋くんも今日は部活後にここに直行するって。」
兄さんの一人息子の洋一は高校では野球部で、部活が忙しくなかなか会えないが今日は来てくれるらしい。
「洋くんには随分と会って無いな、大きくなっただろうな。」
「雪菜より1学年上だからね〜。 あっ健司、それ上に持ってちゃって。」
「了解。」
買ってきた飲み物を持って最上階のパーティールームへ行く。
エレベーターを降りて正面のガラスドアの向こうがパーティールームだ。
俺はここに来るのは今日初めて。
両開きのガラスドアを開けて中に入る。
右側にはオープンキッチンが有り、大きな黒い石のアイランドカウンターが有る。
中央には10人掛けのダイニングセット、 そして左側にはグレーの大きなソファーセットとテーブルがテレビの前に置かれている。
都会的で高級感漂う空間だ。
正面には大きなベランダが有って、テーブルや椅子も有るので、ここで花火を見るのが良いだろう。
俺はそう思いながらビールやジュースを冷蔵庫に入れた。
ザックさんも今日は都内と言ってたので、来ないとは思うがお誘いのテキストは送ってみた。
「健司、先に浴衣着てくれる? もう少しで雪菜達も来るから、着付けしなくちゃいけないし。」
「はい。」
俺は姉さんに浴衣を着付けて貰ってから邪魔にならない様にパーティールームでテレビでも見る事にした。
「おーっ、健司くん、久しぶり!」
姉さんの旦那の晃司さんがやってきた。
「義兄さんご無沙汰しています。何か飲みます?」
「帰りミキが車運転してくれるからビールにしようかな?」
「これで良いですか?」
「おっ、ありがとう。」
俺も義兄さんと同じビールを開けて飲む。
んーーーっよく冷えてて 美味い!
「健司くん、一緒に写真撮らしてもらって良いかな?」
「はい。勿論。」
「会社でシルバーは俺の身内だと言っても誰も信じてくれないんだよ。」
俺達はビールを持って写真を撮った。
「そう言えば義兄は松平商事でしたよね?」
松平商事は日本では有名な商社だ。
「そうだよ。」
「松平商事でVLSのインプラントしてる人います?」
「ん〜、日本では聞かないけど、そう言えば米国駐在の同期がインプラントしたって言ってたな。」
「兄さん、もし問題ない様でしたら、その人紹介してもらえませんか? 新しい会社の事で話を聞いて貰えたら嬉しいです。」
「いいよ。メールしておく。」
「ありがとうございます。」
松平商事とのコネクションはとても助かる。
「おーー久しぶり!」
兄さんがやってきた。 松原健一、松原家の長男で俺の兄さんだ。
「こんにちは!」
「兄さん久しぶり。はい、ビール。あれ 幸子姉さんは?」
「お前の部屋でミキの料理の手伝いするって。洋一は部活終わってから直接来るよ。」
その後、料理を持って姉さん、義姉さんの幸子さん、雪菜ちゃんと雪菜ちゃんの友達達が来た。
「キャーーーーシルバーだー!」と喜んでくれる雪菜ちゃんの友達を見ながら、若い子は元気だなぁ〜などと思っていると、姉さんの友達もやってきた。
「キャーーーー、キャーーーー シールーバー ♡ 」と若い子を押し退けて凄い元気だ。
すっかりサンダーシャックのファンイベントの様になっていると、近藤さんと佐々木さんがケーキとワインを持ってやってきた。
現実社会の近藤さんはスラリとした美人なので浴衣がとても似合う。
「松原さんここでも凄い人気ですね。」
などと姉さんと話している。
すると浴衣姿のザックさんがやってきた。
「キャーーーーザックーーーーーー キャーーーー!!」
今まで俺の周りにいた自称俺のファン達は一斉にザックさんの方になだれ込んで行ってしまった。
「ザックさん後よろしく!」
やれやれと思い、俺は近藤さんと佐々木さんに挨拶に行く。
「近藤さん、佐々木さん 来てくださってありがとうございます。二人共凄く浴衣姿似合ってます。」
「ありがとう。松原さんも浴衣似合ってますよ。」と佐々木さんが言ってくれる。
「うん 凄く似合う!」と近藤さんも褒めてくれた。
「写真撮りましょうか?」と俺は自分の携帯を出す。
近藤さんは黒髪を後ろで束ねてあげているので、細くて白いうなじが やけに色っぽい。
2人を撮っていると佐々木さんが「あっじゃあ近藤さんと松原さんも」と言うので写真を撮って貰う。
勿論佐々木さんとも撮って貰った。
近藤さんはうっすら石鹸のにおいがしてドキドキしてしまった。
タヌキの近藤さんには慣れたのだが実物の近藤さんを見ると、どうも気持が落ち着かない。ビジュアルの影響力は絶大だ。
少しすると洋くんもやってきた。
「あ〜洋一、これ着替えだから、健司くんのところでシャワー浴びさせて貰って。」
と、義姉が着替えと俺の部屋の鍵を持って洋くんを連れて行った。
「洋くん 健司に似てない?」
と 姉さんが言うと、兄さんが
「よく言われるらしいよ。奴もまんざらでも無いみたいだよ。」
と笑っている。
そう言う兄さんに、似ていると俺も言われていたし。
少しして、こざっぱりした洋くんも戻ってきた。
よっぽど お腹が空いていたのか唐揚げとポテサラに直行。
義理の姉さんから「ガツガツするんじゃないよ!」と頭を小突かれていた。
本当に現実社会に戻ってこれるインプラントにしてよかった。
そして、ここに父さんや母さんも居てくれたらと思った。
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