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3 とうとうやってきました。



気付けば俺は見たことが無い部屋にいた。

ホテルのロビーを思わせるベージュを基調にした部屋には正面に大きな窓が有り、朱や黄色の鮮やかな山麓の森と、キラキラと光る湖が見える。


以前よりも色までもがハッキリと美しく見えるのはきっと目を使わず脳で直接画像を見ているからだろう。


「どうぞこちらへ。」


声の方を振り向くと制服を着た女性が話しかけてきた。

これから父さんと母さんの身の回りを世話してくれるAIのメイドさんなのだろう。


「はい。ありがとうございます。」と俺が言うと同時に、若い頃の母さんと思われる女性が現れて俺を見てびっくりしたように、「もしかして健司?」と聞いた。


「そう健司だよ。」


「一瞬誰かと思ったわ。」


「メガネ取って髪と目の色 変えたんだよ。」


「いやぁ〜、さっきまでこんなイケメンじゃ無かったから母さんびっくりしちゃったわ。もうこれは詐欺を通り越して犯罪級。」

と母さんは大笑い。


そりゃあそうだろ母さん、大手メーカー、サンダーシャックの美術担当が手がけてくれたからね。


その後父さんが現れた。


「おう、もう揃ってんな! 健司 なんかお前アップグレードしてるし。」


「とっ、父さんも髪! フサフサで若!」


「ハハッ、どうだ父さんもイケメンでびっくりしたか?」


俺が頷くと父さんは嬉しそうに俺と母さんの肩を抱いた。


「健司、今日はここに泊まるんでしょ?」


「いや 母さん 会社に無事到着のメール出さなきゃいけないから俺は行くよ。今度又ゆっくり来ることにする。」


「健司の口から会社に連絡なんて言葉が出る日が来るなんて夢にも思わなかった。

週に一回は必ず連絡してね。ここにはいつでも貴方が住めるようになっているから。」


「わかったよ母さん。」


父さん、母さん 今まで俺を支えてくれてありがとうと思うけれど、

口に出せず… 出た言葉は


「じゃあ行ってきます。」


だった…。


その後、俺はメイドさんに両親を宜しくお願いしますと、頭を下げた。



はやる心を抑えながらリビングにあるゲートと呼ばれる転移装置に入り、サンダーシャックのアストリア王国に在る俺の屋敷に転移する。



転移はあっという間だった。


「シルバー様、初めまして。執事のセバスチャンでございます。」


初老の紳士が話しかけてきた。

眼鏡の奥の瞳は優しく、安心感を与えてくれる。 きっとこの人は怒ることなんて絶対ないんだろう。


「初めましてセバスチャンさん、これからお世話になります。」


それにしても執事の名前はやっぱりセバスチャンだよなぁ〜 覚えやすい。


あらためて回りを見渡す。


ここは玄関だろう。


聞いてはいたが凄い屋敷だ。

それでも騎士の屋敷なので他より簡素なんだとか。。。


床や、壁や、柱は白い大理石で出来ており、天井にはクリスタルの大きなシャンデリアがキラキラと光を放ってている。

エントランス正面のテーブルには真っ白なユリとバラが生けられて、それは良い香りだ。

まるで今にも目の前の螺旋階段からお姫様が俺に会いに降りてきそうだ。そんな佇まいに俺は圧倒される。



「シルバー様 彼女がメイドのアナ、彼がシェフの大谷さん、そして庭師 兼 厩務員のパトリックです。」


メイドのアナさんは赤毛の陽気な笑顔の女性。

シェフが日本人なのはありがたい。大谷さんは見るからに職人って感じの人だ。

そして庭師のパトリックさんは白髪混じりの小柄おじさん。


「皆さん これからお世話になります。どうぞ宜しくお願いします。」

と俺が言うと、皆さんもニコニコと頭を下げてくれた。


「ご主人様 どうぞこちらへ。」


アナさんに勧められるまま居間のソファーに腰掛けると、


「何か召し上がりになります?それとも何かお飲みになります?」


とアナさんが聞くので「アイスコーヒーはありますか?」と頼んでみた。


「はい すぐにお持ちします。」


あるんかい!


すぐにアナさんがカフェで出てきそうなアイスコーヒーとクッキーを持ってきた。


まあバーチャルですからね、味なんて期待出来ませんよね…そう思いながらアイスコーヒーを一口飲んでびっくりした。おーー美味いんですけど。再現力凄いです。

これが脳への情報だけとは俄かには信じ難い。

鼻をぬける炭火ローストの豆の味まで再現されている。


「美味しいです。」


「良かったです気に入って頂けて。」

とアナさんは嬉しそうに微笑んだ。



ふと俺の教育担当の近藤さんの言葉を思い出した。


「松原さん、どうか周りのAIの人達を普通の人間と同様に接して下さいね。

AIの彼らは私達の言動からも多くの事を学習するのです。」


この人達は見かけも普通の人間だし、人間と思わ無い方が難しいよね。

そんな事を考えているとアナが顔を覗き込んできた。


「どうかしましたか?」


「いや なんでもないです。アナさん、出来たら私の部屋を見せて貰えますか?」


「はい。お部屋は用意出来ております。こちらへ」


「寝室はお二階上がって直ぐのお部屋です。ちなみに、その隣が書斎です。」


「ありがとう 書斎は後で行ってみます。」



「寝室はこちらです。どうぞ。」


寝室は明るい部屋だ。白壁は美しい彫刻のモールディングが施されている。大きなベットを中心にして、その他の家具が鏡で出来ているからか、なんだか寒い感じがした。シャンデリアもあって男の部屋というよりは女性的な感じがする。


ついこの間まで埃臭い6畳和室に沢山の不用品と一緒にひき篭もっていた俺は何と感想を言って良いのか分からず無言になってしまう。


「ご主人様のイメージに合わせて設ました。」


「……あっ、 ありがとうございます。」  


俺は寒い女のイメージなのだろうか??



「こちらがクロゼットです。」


中を見ると凄い数の服がかかっている。

どれもゲーム内のコスチュームのようだが、スーツやタキシードも有った。

でもスエットやジーンズなどの普通の服は無い。。。


またまた担当の近藤さんの言葉を思い出した。

「いや〜、シルバーナイトのアートディレクターはシルバーナイトに思い入れが凄いんですよ〜。もう恋しちゃってます。衣装いっぱい考えているようですよ。」


。。。出来ればスエットも考えて欲しかった。


アートディレクターさん! 

中身は1週間平気で同じスエットで朝から晩まで過ごせる屑です。 


スエットやジーンズだけで無く、クロゼットにアーマーとかが無い。 持ち歩き以外の服がここに有るのだろう。


チェストも有った。開けてみると異次元ポケットのようで、アーマーや、武器などの装備品が収納されていた。

と言う事はアイテム整理もここでも出来る。


沢山の衣装やアイテムを前に固まっている俺を見たアナさんの目がキラキラと輝く。


「お着替えになりますか?」


「後で着替えたいので寝間着と下着を用意して貰えますか?」


「はい。 では浴室にご用意しておきます。」

と書斎と反対側のドアを指さした。


「アナさん これから私は書斎で少し仕事をするので、それが終わったら風呂に入ります。」


「はい。かしこまりました。」

アナはそう言い部屋を出た。


俺は書斎のドアを開けると、寝室とは違い落ち着いたハードウッドの家具で揃えられていた。

面会用のソファーは柔らかい革製で手触りがとても良い。


俺はデスクに行き椅子に腰掛けて担当の近藤さんに到着のメールを打った。

実を言うと空中に映し出されるキーボードなので、デスクは不要なのだけれど。。。


ーーーー

近藤さん


王都の自宅に無事到着しました。


明日の予定が決まりましたらお知らせ下さい。

特に無かったら冒険者ギルドへ行ってみます。


松原


ーーーー


メールを出してから冒険者ギルドの場所をマップ機能で確認する。


ちょっと遠いなぁ〜、やっぱり馬? 乗った事ないけど…。


すると近藤さんからチャットがきた。


「松原さん お疲れ様です。申し訳無いですが明日ご一緒して頂きたいレストランが有ります。

松原さんに味の確認をお願いしたいのです。

私もVRで行きますが、店の雰囲気は分かっても味は分からないので…。

招待状を出しておきますので3時に転移ゲートで城まで来て下さい。私はプリンセスのアバターを使うので、松原さんもドレスアップして来てくださいね。

レストラン情報は後程メールで送付します。」


「近藤さん、承知しました。 

明日の3時に伺います。

ところで、俺って乗馬できます?」


「松原さん 乗馬大丈夫です。

手綱に触った時に馬の思考をジャックする事になるのでご心配無く。

それから今夜 そこメンテなので早めに寝て下さい。」


「分かりました。ありがとうございます。」


テキストを終えてホッとしながら俺は書斎の本棚に目をやると、

以前に自分が読んだ本が沢山有る事に気が付いた。

全てアルホーンオンライン書店で購入した電子書籍…


もしかしてこれって個人情報流出してるんじゃ無いの? 

今更思い悩んでもしょうがない。


デスクの引き出しを見ると屋敷の図面や、貴族階級用の家具や使用人などの課金アイテムカタログが有った。ページを開いて見てみると、夫人カスタム作成リンクなども有り、俺はまずい物を見てしまった気分になってカタログをデスクの引き出しに戻した。

ここではAIを自分の好みに作って夫人にする事も、ハーレムを作る事も可能なのだ。



あー風呂でも入ってさっぱりしてから寝よ。

浴室に行くとそれは温泉浴場風の風呂だった。


お湯はこんこんと流れ、洗い場とシャワーが有る。

俺が風呂に浸かるとお湯がザバーと溢れて流れる。

そしてバルコニーへ続く大きな窓はボタンで開閉する。

それが俺だけのためなんて、現実世界ではあり得ない贅沢だ。


 「良い湯だ〜。」


やっぱり日本のゲームソフトメーカーが製作したVLSだけのことはある。

海外のメーカーならこうはいかないだろう。


だいいちVLSは風呂に入る必要も無いから。


「ご主人様、湯かげんは いかがでしょう?」

アナさんの声がした。


「ひえ〜  あっ 大丈夫です。」


こっ、これはもしかして お背中流しましょうか的な事なのかーー!


ドキドキ………


しかし、いくら待っても誰も入って来なかった。


気をとり直して風呂から上がるとタオルと普通のボクサー型のパンツとパジャマが有った。


「おーーー普通のパンツとパジャマ! 細かいところまでの気配りありがとうー!」


今夜はぐっすり寝れそうだ。






読んで頂き誠に有難うございます。


どうぞ良い1日をお過ごし下さいませ。


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