28 スキャンダル (詩織目線)
読んで頂ければ幸いです。
詩織は銀座のデパートに来ていた。
お気に入りの海外コスメのリップに新色が出たので試しに来たのだ。
その中で気に入った2本と、ついでに化粧水と日焼け止めを購入して帰ろうと思った時に、近くの女の子達がヒソヒソと話している声が聞こえた。
「ねえ、あそこに居るのはシルバーじゃない?」
「本当にそっくり、でも髪は黒だし短いよ。」
「ん〜、でも似てるよね。」
女の子達の視線の先を見ると健司がいた。
健司は外見に気を遣っているのかヘアスタイルや服の趣味も格段に良くなっていた。
以前は無頓着でデパートで男性化粧品を買う様な人では無かった。
でも今はしがないサラリーマンでは無く、有名人のシルバーなのだ。
健司は詩織に振られて鬱になって会社を退職したと聞いている。
それほど私の事を好きだったのだろう。
出来ればもう一度、健司とやり直したい。
詩織は田崎には殆愛想が尽きていた。
思わず詩織は健司の名前を読んだ。
「健司」
健司は驚いた様に私を見た。
「あっ 詩織?」
詩織は優しく微笑もうと思った時に、玲奈がいる事に気が付いた。
ああ、もとはといえばこの女、玲奈のせいだ。
もしこの女が田崎の自慢をしなければ、私は健司と結婚していただろう。
詩織にとって玲奈の自慢話は悪魔の囁きに他ならなかった。
その女が健司の側にいる事など詩織には許せる訳は無い。
玲奈への憎しみと怒りが膨れ上がり、もう どうにもする事が出来なかった。
バッシッ
「この泥棒猫! 貴方が私が田崎に行くように仕向けたのね!」
健司は私のものだ。
健司に近づくな!
もう一度手を上げた時、健司が玲奈をかばう様に抱きしめた。
健司! 何で玲奈をかばうの!
何で玲奈に騙されていると分からないの?
「何よバカ!」
健司が私以外の女を目の前で抱きしめるのが信じられなかった。
ふと我にかえると野次馬が集まって来ている。
詩織は逃げる様にその場を立ち去った。
◆ ◆ ◆
それからというもの詩織は悶々とした気持ちで日々を過ごしていた。
詩織が料理教室へ行くために支度をしていると、
珍しく夫の田崎よりテキストがきた。
『明日発売の週刊誌に『シルバー、大手ホテル経営者夫人とのドロドロの三角関係』との記事が出るそうだ。週刊誌ではお前の名前は出ないが写真が掲載される。』
詩織は余りの事に足がガクガクと震え出した。
健司は有名人だ、シルバーだと気付く人は沢山いたに違いなかった。
あゝ、なんて馬鹿な事をしちゃったんだろう。
後悔先に立たず。
あっという間に私が元田崎リゾートホテル経営者夫人だと特定され、マスコミからの追跡が始まった。
私だけが悪者として扱われて、何処で調べたのか実家にまで記者がやってきた。
ご近所への体裁もあるので、とても呑気に外出など出来ない。
一般人の為に本名が書かれないのが不幸中の幸いだったが、私を知る人は皆私だと気付くだろう。
悪い事は続くもので、田崎の弁護士から手紙が届いた。
田崎が弁護士を通して離婚の申し立てをして来たのだ。
私が家から出て行き実家で暮らしている事や、モラハラの危険がある事が離婚の理由だそうだ。
詩織は田崎の方がもっとモラハラなのに何を言っているのだと思う。
田崎は今後一切、私が使用したクレジットカードは支払いをしない。二人の銀行口座は一時凍結。 そして現在私が所有しているブランド品や車は解決金の代わりに私に所有権を渡す。などと馬鹿みたいな記載まである。
そして田崎への直接の連絡や接触の禁止も書いてあった。
私も弁護士を立てなくては。
詩織の実家は一般的な家庭だ、詩織の両親には詩織の生活レベルを保持出来る財力など無い。
だが少なくとも田崎は田崎ホテルの社長、そして両親の邸宅を売った金も有るはずだ。
一銭でも多く、田崎からお金を巻き上げてやる。
読んで頂きありがとうございます。