25 田崎リゾートホテル倒産後
いつもイイネありがとうございます。嬉しいです。
田崎の両親宅を出て実家へ戻って以来、田崎とは連絡をとっていない。
こんなに私が迷惑を被っているのに、連絡も無いなんて...。
夫は常識に欠けるところが有るから、こんな事になるのだ。
詩織は朝からイライラしながら階段を降りて行くと、聞き覚えの有る声がしたので、声の方を見た。
居間のテレビに写っている女性は、以前 『奥様』と言って私に擦り寄ってきたホテルの従業員だ。
「当日は、仕事中にロービーへ集合する様にと連絡が有りました。そこで急にホテルが倒産したので全員解雇と言われ、ホテルを出るようにと指示を受けました。 給料の支払いについてはメールするとの事でしたが。。。。サービス残業もしてたんです。私は田崎社長夫人より休日でも自宅の手伝いをするよう強要されました。」
画像は変わり、
「いや〜、社長の運転手でしたが夫人の買い物や、会食のお迎えにも呼ばれていましたよ。高級品が大好きな方でした。」
余計な事を言いおって、このクソ親父ーーーーー!
詩織は心の中で叫んだ。
この運転手には、お土産などもあげて親切にしていたので、余計に腹が立つ。
全身がカーッと熱くなり血が煮えたぐるようだ。
私に気付いた母が慌ててテレビを消す。
「あっ、詩織いたのね。。。おはよう! コーヒーでも飲む?」
母はおどおどしながらこちらを見た。
「あーーーーーっ、どいつもこいつも何なのよーーーー!」
詩織はそう言うと、音をたてながらドンドンと階段を駆け上がっていった。
もう何かに当たらないと気が済まない。
関係の無い私までが批判の対象になっている事に憤りを感じる。
田崎リゾートホテルの倒産が新聞で報じられ、その後、元従業員達が騒ぎ立てた為にテレビのニュースでも連日取り上げられる様になった。
倒産を従業員にギリギリまで知らせず、倒産を社員へ知らせたのも弁護士で、田崎本人からは何の謝罪も無かった事、本人は田崎ホテルに戻るが、他は全員解雇した事、などが原因で世間からの批判を受けている。
私も全く知らなかった!
いわば私も被害者の一人なのに。
その火の粉が私にも降りかかっているのだ。たまったものではない。
つい最近まで毎日連絡を取り合っていた友人達からも全く連絡も来なくなった。
足の踏み場も無い程に部屋を埋め尽くすブランド品の山の中で、詩織は怒りに震えていた。
--------- その頃田崎は ----------
田崎は父と一緒に母の主治医から今後の母の治療方法について話を聞いていた。
母の手術で他の臓器への転移が確認されたのだ。
これ以上の手術は難しいために痛みをコントロールして生活の質を上げる治療を主治医に勧められている。
「今の状態ですと普通に生活するのは難しいでしょう。しかしVLSで当病院の施設へ入って頂ければ肉体は当病院で治療をしている間でも、ご本人はVLS内で快適に生活頂けます。」
「少し考えさせて下さい。」
父がそう言って担当の医師に頭をさげる。
「誠、私はもう少し母さんと話してから帰宅するからお前は先に帰っている様に。」
「分かりました。」
また屋敷前で報道陣に囲まれると思うと憂鬱だが、俺は父を残して先に帰宅する事にした。
翌朝、コーヒーを飲んでいると父もやってきてコーヒーをカップに注ぐ。
「誠、ちょっと書斎へ来てくれないか? 話がある。」
カップを持ちながら父の後をついて書斎へ行くと、
父は父の片腕である秘書の鈴木さんと、専務の高山さんの退職願いを机の上に置いた。
田崎リゾートホテルは田崎ホテルの子会社だったので、
今回の件で田崎ホテル側の盾となり対応をしてくれたのが秘書の鈴木さんと役員の高山さんだった。
「考え直してほしいと説得したが、気持ちは変わらなかった。」
父は残念そうに話す。
少しの沈黙の後、父は俺の目を見る。
「以前から引退を考えていたが、これを期に私も社長職を退き、お前に社長職を譲りたいのだがどうだろうか?」
突然の父の引退宣言に俺は驚いた。
今回の田崎リゾートホテルの件で、俺はてっきり父の下で他の常務達から、こき使われる未来を想像していたからだ。
目のタンコブの高山専務と秘書の鈴木さんもいないと思うと気持ちが軽くなった。
「父さんまかせて下さい!」
「そうか。 私も景子と一緒にVLSで暮らそうと思う。 景子には苦労ばかりかけた。最後は一緒に楽しく暮らしたい。」
「分かりました。お父さんは母さんとゆっくり過ごして下さい。」
「出来れば次の役員会議で皆に引退を伝えたいと思う。」
………………
田崎の父、田崎隆は田崎ホテル社長を引退。
自宅を売却してサンダーシャック社のVLS内、プルメリアアイランドの豪邸を購入した。
美しいと評判のプルメリアアイランドのサンセット。
隆は自宅のインフィニティープールでひと泳ぎして、パラソルの下でトロピカルカクテルを飲んでいる景子の側に行く。
VSL内の景子は美しい若い頃の姿でビキニにシースルーの上着を着ている。
「VLSに入って良かった。あなたも来てくれて嬉しいわ。」
そう言って私の肩に頭を乗せる。
「そうだね。」
私はそう言い景子の腰に腕をまわして彼女の額にくちづけた。
真っ青だった空がバイオレッド・オレンジに変わり夕焼けが海に溶け込んでゆく。
ここは二人だけのサンセットビーチ。
隆はこの幸せが続く事を祈らずにはいられなかった。
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