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18. ファンイベント

読んで頂けると嬉しいです。


厚切りのトーストに塩の入ったバターを塗ってかぶりつく。

このパンはいつも、もっちもちで美味い。

サラダに、ふわふわのオムレツ、そしてオレンジジュース。


ここに来てからちゃんと朝食を食べるようになった。


テレビを見ながら、ゆっくりとコーヒーを飲んでいるとセバスチャンがやってきた。


「シルバー様もう9時です! 10時から南西フィールドでファンサービスイベントです。騎士の礼服を用意していますので、そろそろ着替えて下さい。」


「おっ、もうそんな時間ですか。セバスチャンさん、このコーヒー飲んだらすぐ用意します。」


「はい。お願いします。」


今日のサンダーシャックの仕事はイベント業務で、俗に言うところのキャラグリ(キャラクターグリーティング)。ファンと写真を撮ったり、握手したりするのが仕事だ。


セバスチャンが用意してくれた肩章付きの黒の上着を着て、ベルトを締めて、マントを付け, 黒の革手袋、黒のロングブーツを履いて腰に剣を刺す。


女性受けが良いマント付きの騎士服で来るようにとのサンダーシャックからのお達しだ。俺はこの衣装にも、もうすっかり慣れて、違和感無く着れるようになっていた。


「シルバー様、とてもお似合いです。」

セバスチャンは満足気に俺を見る。

「いってらっしゃいませ。どうぞお気をつけて。」


「行ってきます!」


いつもの様に馬を走らせる。本当に気持ちの良い朝だ。

今日も良い日になりそうだ!




10時前に俺は冒険者ギルドに到着出来た。


「陽炎さんやゴードンさんお久しぶりです。」


「あらシルバー元気にしてた〜。」


「はい、これから仕事なんで、南西フィールドへ行ってきます。また後で!」


ここのところネットクイックの仕事が多かったので、久しぶりのギルドなのだが、2人共相変わらず忙しそうだ。


それでも陽炎さんもゴードンさんも手をあげて挨拶してくれた。


今回、南西フィールドのイベントはフリーイベント(ゲリライベント)で時間と場所は公表していなかった。


最初は良かった…。


俺に気付いた人達と写真を撮ったり、会話をしたり。和気あいあいとイベントを楽しんでいた。


たが、あっという間に情報が広まり、南西フィールドは凄い数の冒険者が集まってカオスと化した。


「キャーーーーシルバー様!」

「ちょっと あんた 退きなさいよ。」

「何言ってんのよ あんたが退きなさいよ!」


「危ないので、押さないで下さい。 あっ 服脱がさないで……あああ 危ない!」


特に女性冒険者の中には抱きついて離れないファンがいて、ファン同士で口論となったりと、もうどうしようもない状態だ。


狂気化した群衆はダンジョンの魔物より、手に負えない。 


あまりのカオスっぷりに騎士型の警備員が動員されて、用意されたマジカルドアで俺は次のイベント会場の控え室へ転移した。


オンラインイベントなので本当の意味での怪我人は出ないが、サンダーシャックは急遽、ポーションの無料配布を行った。


イベント会場に到着すると近藤さんがいた。

「大変でしたね。お疲れ様でした。」


俺はタヌキの近藤さんの言葉を聞いて心底安心した。

さっきまでのカオスから一転、近藤さんの言葉が俺の身体に染み渡る。


まさに砂漠にオアシス。 泥中の蓮。


「どうなる事かと思いましたが、無事脱出出来て良かったです。」

はだけた服を直しながら俺が答えると、


「今も南西フィールドへのアクセス数が凄いみたいですよ、それにしても凄い人気ですね。これからは王国ホテルのサンデーブランチでキャラクターダイニングのイベントになります。こちらはサンダーシャックの仕事ですが、王国ホテル協賛イベントなので、少額ですが出演料が出ます。」


タヌキの近藤さんは社員だから、もしかして何時間タヌキやっても手当てなんて出ないだろうか?

そうだったら気の毒過ぎる。

 

「王国ホテル社長の奥様がシルバーさんのファンとの事で、ご友人と2人でVR(バーチャルリアリティー)でサインインして別室にいらっしゃいます。先ずはそこへご挨拶に行って、そのあとランチ会場で一般の入場のテーブル毎に挨拶してください。」


「近藤さんと一緒にテーブルを周ればいいんですよね?」


「社長の奥様へのご挨拶はご一緒しますが、後の会場では別々にテーブルを周ります。あっ、社長の奥様方に騎士の礼をして差し上げたら喜ばれるかも。」


「了解です。」


「それから羞恥心は捨てる事です!」


タヌキの近藤さんは自分に言い聞かせるように言った。


ホテルのイベントコーディネーターが俺達を呼びに来た。


「シルバーさん、近藤さん宜しくお願いします。 こちらへ。」


俺は部屋に入ると近藤さんから言われた通り騎士の礼をして、近藤さんは足を曲げてカーテシーをする。


「キャー!」と言う小さな悲鳴が聞こえた。


「初めましてシルバーさん。今日は王国ホテルのイベントに出て頂き、ありがとうございます。今回、チケットは発売して即完売でした。」


「こちらの方こそ、お声かけ頂きありがとうございます。」

俺はそう言い、サンダーシャックが用意したキャラクターグッズを渡した。


「宜しければ、実物は御自宅へお送り致します。」とタヌキの近藤さんが言う。


「写真を一緒に撮って頂いても良いですか?」


「もちろんです。」


タヌキの近藤さんは社長夫人の膝の上に乗せられて、ほっぺたすりすりされている。

気持ちは分かる。タヌキの近藤さんはとってもかわいい。

でも現実世界では、三十路の女の膝の上に乗せられた三十路の女が、ほっぺたすりすりされているだと思うと。。。

気の毒過ぎる。

近藤さんは、きっと毎回こんな目に遭っているのだ。


写真を撮って退室しようとすると。


「あのー田崎詩織さんとはお知り合いですか?」


「はっ?」

急に詩織の名前が出て俺はびっくりした。


「あの…詩織さんがシルバーさんと知り合いだと言ってらっしゃったので。」


「田崎さんご夫妻は存じ上げています。お元気ですか?」

 別に知りたくも無いが、挨拶代わりに聞いてみた。


「詩織さんの方は以前お会いした時はお元気そうでした。」


「そうですか、それは良かった。田崎夫人とご友人なんですね。」


「いえ友人では無くて、ただの知人です。」と社長夫人と彼女の友達は同時に答えた。


………?


俺にとってはどうでも良い事なので、早々に話を切り上げて俺達はにこやかに王国ホテル社長夫人と、そのお友達に挨拶をして部屋を出て一般会場へ向かった。


会場に入ると既に沢山の人達が俺達を待っていた。


VRで入った女性グループ、VRで入ったお孫さんとVLSのシニアのグループが圧倒的に多い。


シニアの方は食事を楽しんで、VR参加の人達はネットクリックやゲームの質問をシルバーにしたり、一緒に写真を撮ったり、ネットクリックの画像を一緒に見た。


中にはシルバーのコスプレをしてくれた男の子もいて、俺が敵を倒した時の仕草を真似たり、剣を持ち帰る時の仕草を真似て見せてくれた。


よく観察しているなと感心する。

もちろんイベントは大盛況に終わり、俺も楽しめたイベントだった。


「近藤さんお疲れです!」


「お疲れ様です!明日は9時からミーティングになります。リマインダーもメールで送りますのでよろしくお願いします。」


「はい。じゃあ明日。」


余計な事は言わずに近藤さんを早く返してあげたいと思う。


俺は屋敷に到着してセバスチャンにマントと剣を渡す。


階段を上りながら手袋を外して、洗面所でブーツを脱いで、服と下着を脱いで風呂に入る。


湯船に肩までどっぷりつかり、つい最近まで引きこもりだった事を考える。


今の状況はまるで夢の様だと思った。



翌日のニュースには、シルバーのゲリライベントで1時間のオンラインゲーム新規登録数の世界記録をサンダーシャック社が更新した記事と、田崎リゾートホテルの倒産の記事が写真入りで載っていた。




読んで下さりありがとうございます。

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