16 友達
ブックマークして下さった方、本当にありがとう御座います。とっても嬉しかったです!
前半は近藤さん視点、後半は詩織視点です。
「はぁ〜。」
近藤さんは朝から何度もため息をついている。
同僚達は、心ここに在らずというか、魂が抜けたような近藤さんを見るのは初めてだ。
「近藤さん大丈夫ですか体調悪かったら帰宅した方がいいですよ。」
「あっ、ごめんなさい。大丈夫ちょっと考え事をしてただけ。」
とても大丈夫には見えない。
最近はオフィスの仕事の他にVRでの仕事も有るので上司は近藤さんは働き過ぎでは無いかと心配する。
「近藤さん、本当に遠慮しなくてもいいんだよ。健康が一番だから。」
「本当に大丈夫です。ありがとうございます。」
近藤さんはこれじゃいけない仕事に集中しなくちゃと思う。
でも昨日の松原先輩の膝の上で抱きしめられた事を思い出すと心の平静を保つのが難しくなってしまうのだ。
その様子を遠巻きに見ていたアートディレクターの佐々木さんが近藤さんに近づいて来てメガネを人差し指で上げながら、耳元で囁いた。
「あら、恋わずらい? やっぱりシルバーの破壊力って凄いわよね。近藤さん青春って感じ。」
「なっ、何を。」
心を見透かされた近藤さんは耳を真っ赤にしながら否定する。
「フフフ、いや〜ね〜。私達友達じゃない。隠さなくても良いわよ。だってちゃんと顔に書いてあるもの。でも相手がVLSだと恋愛は大変ね〜。」
「そ、そんなバカな事ある訳無いです。」
近藤さんは必死になって否定する。
「はい、はい。そういう事にしておくわ。近々一緒に飲みに行こうね。私の奢りよ。」
佐々木さんはそう言って自分の席に戻って行った。
佐々木さんたら私の顔に書いてあるなんて…
近藤さんは心配になって、急いでバックから鏡を出して見てみるが別に変わったところは無い。
もしかしたら他の人達にも分かってしまうんじゃ無いかと不安になる。
「近藤さん」
「…あっ、はい。」
「荷物届いてます。」
「あっ、ありがとうございます。」
サンダーシャック、マーケティング部 近藤様…………?
送り主を確認すると…松原健司…!
えーーーーー!
思いがけない事に心臓がバクバクする。
開けてみるとプルメリアのクッキーだった。
嬉しすぎて顔がニヤけてしまうのを抑えようとすると変顔になってしまう。
近藤さんは人に見られないように思わずデスクの前にしゃがみ込んだ。
「ああ近藤さん、大丈夫ですか?」と皆が
心配して周りにやって来る。
「すみません。ちょっと目眩が。」
「近藤さん、やはり帰った方が良いよ。」と上司が言ってくれるので、申し訳無いと思いながらも早退する事にした。
「すみません。」
そう言ってクッキーの箱を持って、そそくさと帰り支度をする。
好きな人からのプレゼントがこんなに嬉しいなんて。
近藤さんは恋わずらいという病気にかかってしまったのだ。
しかも相手はVLSの中の有名人。
昔から松原先輩は素敵な人だとは思っていたけれど、恋した事は無かった。
今更なんでこんなに好きになったのか自分でもわからない。
近藤さんは、心の中で早く家に帰ってネットクリック見ながらクッキーを食べようと思った。
するとテキストが入った。
『仕事終わったら、酒と夕飯持って近藤さん宅に遊びに行くね。凄〜く楽しみ。」
佐々木さんからだ。
私の上司に佐々木さんが言う。
「今夜 私が近藤さんの様子を見に行ってきますのでご安心下さい。」
「佐々木さんいいのかい? それは助かるよ。近藤さんも良い友人を持って幸せだね。なぁ〜近藤さん。」
心の中で来んなよと思うも、
「そうですね本当に有難いです。ありがとう佐々木さん。」
と言ってオフィスを出る。
もし私がピノキオだったら、私の鼻はあの壁を突き破っているに違いないと近藤さんは思うのだった。
◆ ◆ ◆
詩織は王国ホテルの社長夫人のりっちゃんと、病院の院長夫人のまりちゃんとランチしてからショッピングに行く予定だ。
この2人は自分とよく似ていると詩織は思う。
綺麗でいるために、エステに行ったり、ネイルサロンへ行ったり日々の努力をしているところ。
美しい物や、美味しいものが大好きなところ。
そして、裕福なので人から妬まれやすいところなど。
3人が会うと、自分達って似ているよねと、いつもそんな事で盛り上がっている。
髪も巻いたし、お気に入りのアクセサリーも付けて、ワンピースも有名ブランドの今シーズンの新作、バックも靴も高級ブランド。
鏡でチェックも済ませて、詩織は自分の姿に満足した。
今日はりっちゃんがマンションまでお迎えに来てくれるので、そろそろ下に行く事にする。
「詩織ちゃん、今着いたよ。」
「あ、りっちゃん、今下に行きます。」
マンションを出ると白い手袋をした運転手が車のドアを開けて待っていた。
「りっちゃん ありがとう。」
「どういたしまして。 今日のランチはね、私達のために特別なメニューを用意してくれているのよ。」
「わ〜、それはとっても楽しみ。」
煉瓦造りの洋館のレストランに到着すると入り口で丁度、院長夫人のまりちゃんも車から降りたところだった。
3人でワイワイと話しながら店の中に入ると、2人はよくこのレストランを利用するのか、何も言わなくても個室に通された。
有名クリスタルメーカーのシャンデリアや真っ白な暖炉があって、まるで詩織はお姫様にでもなった気分になる。
「お待ちしてました。」と支配人がやってきて世間話をしながらシャンパーニューを注いでくれた。
アミューズをつまみながらシャンパーニューを飲んでいると詩織の携帯に夫から電話がかかってきた。
『今、友人と食事中』とテキストをする。
もうせっかくの気分が台無しだわ…と思っていると、
『話が有るので直ぐに連絡して。』と夫からテキストが来た。
詩織は『食事の後に直ぐ連絡します。』と返した。
ホタテとエビとキャビアにグリーンのソースと野菜のコントラストが美しいアントレを食べる頃には夫のテキストの事などすっかり忘れていた。
シェフも出てきて直々にメニューも伝えてくれる。
特別な待遇を受けて本当に気分が良い。
お肉もお魚もメインコースは素晴らしく、ペアリングのワインもとても美味しかった。
話しも弾んでデザート、ショコラ、ハーブティーも美味しく頂き、次はお買い物。
今日行くのは来月リニュアルオープンのお店で、今日はプレオープンで招待客のみ特別にお買い物ができるのだ。
ここも りっちゃんや、まりちゃんの行きつけのお店らしく、3人は直ぐに2階へ通された。
2人の顔見知りの店員さんは、2人が好きそうな商品を持ってくる。
「あっ、そうだ3人で何かお揃いにしよう。」とまりちゃんが言う。
色々悩んだ結局、可愛いバックを3人でお揃いで買う事にした。
かなりの量の買い物にりっちゃんもまりちゃんも運転手の人達を呼ぶ。でも私の分だけ未だ支払いが終わらない。
「申し訳ございません。田崎様、こちらのカードは使用出来ませんでした。」と店員は言う。
「え、そんなはずはないと思うけど、じゃあこちらのカードで。」
「こちらのカードもダメでした。」
詩織は友達の前で恥をかいて、この怒りを何処にぶつけたら良いか分からない。
「もしかして、カードがどこかで不正使用でもされて、止められてるのかも知れないわよ。」とりっちゃんが言う。
「あっ 主人からランチの時に電話が有ったんだった。」
「じゃあそうよ。」
「ちょっと主人に電話してみる。」
電話するも夫は電話に出ない。
テキストメッセージを確認する。
『会社が不渡りを出して取引停止処分を受けた。実家で今後について話し合いをする。』
詩織は余りのショックに身体が震えた。
読んで頂きありがとうございます。