13 番組
ブックマークして下さった方、評価して下さった方、本当にありがとう御座います。とっても嬉しいです。
今回はネットクリックでシルバー達の番組が配信された時の話です。
前半がシルバーこと松原健司が以前働いていたオフィスの様子と、後半は健司の元カノのお話です。
オフィスは朝から昨日のネットクリックの新番組『リアルライフ イン VLS 』の話しで持ちきりだ。
この番組に出演のシルバーが以前このオフィスで働いていた松原さんにそっくりだったからだ。
女の子達はネットニュースの画像を手に「えー、こんなイケメンが働いていたなんて、なんで辞めちゃったんですか?」
さすがにパワハラで辞めましたなんて口が裂けても言えないだろ。
松原さんは入社してからここで災害対応ロボット開発、販売をしているエンジニアだった。
海外の会議へ出席したり、プレゼンをしたりと日本だけでは無く世界で活躍していたが、新しい上司の田崎さんは客先対応から松原さんを外して、今まで彼が手掛けてきたロボットについても別の人が担当となった。
急な担当者の変更から客先からはクレームが出て、松原さんが影で資料を作ってその場をしのいだ。
でも田崎さんのパワハラは段々とエスカレートしていき、松原さんは最終的に体調不良を理由に退職したのだ。
裏では田崎さんのパワハラ問題は動いていたのだが、間に合わなかった。
田崎さんは別の部に移動になり、その田崎さんも退職した。
そんな事はコンプライアンスの面からも口外は出来ない。
番組の話題はオフィスだけで無く、日本中の人達がこの番組に興味を持った。
人気スターのザックや、アメリカの有名人、そしてミステリアスなシルバーの出演でネットニュースなどでも取り上げられてSNS でも広まった。
最新のVLSゲームの画像、VRとは違い全ての動きはマウスやキーボード、コントローラーなどを使わない自然且つダイナミックな動きで、もちろんスタントも居ない。
2回目の配信時には超人気番組になっていた。
ネットニュースの情報によると、先週のインターネット検索 1位は 『シルバー』だったそうで、
丹精な顔立ちで丁寧で穏やかな話し方と、キレッキレのバトルシーンとのギャップが良いらしい。
オフィスの女の子もそんな1人で、「バトルの時の敵を見る流し目がもうステキで。」
っと頬を赤らめている。
渋谷のサンダーシャックのアンテナショップでは明日からキャラクターグッズが販売されるそうだ。
「会社帰りに頑張って渋谷のアンテナショップに行くので明日は残業は出来ません。」
ここで残業頑張ってた松原さんそっくりな キャラクターグッズを買うので、残業出来ませんなどと言われるとは…
それにしても 松原さんは今何をしているんだろう?
◆ ◆ ◆
詩織は2年前に移り住んだ九州から又 都内へ戻ってきた。
九州の家は大きかったので、東京の仮住いには家具が入りきらない。
夫には処分するように言われるが、貸倉庫で保管する事にした。
東京の方が便利は良いが、九州の家は詩織の夢が詰まった家だった。
真っ白な洋館で、近くには田崎リゾートホテルが有り、オープニングパーティーでは各階の著名人が集まり。従業員達からは奥様と呼ばれて大事にされた。
それなのに、急に都内の仕事が多くなり、東京へ戻る事となったのだ。
全く引っ越しを手伝わない夫に腹を立てながら、一息つこうとテレビを付けると、そこには、髪や目の色こそ違うが松原健司が映っていた。
今注目の人コーナーに健司が出ているのだ。
まさかと思うが、話し方や、笑い方、そして敵を見る時の目は弓道部時代に彼が的を見る時の目だった。
私は高校時代、そんな健司が大好きなファンの1人だったのでよく知っている。
詩織の胸は高鳴った。
画面には以前と変わらない健司がシルバーとして映っていたのだ。
詩織は思い出した。
やっと健司とお付き合いが出来た時の嬉しさ、私だけに向ける健司の優しい笑顔や、詩織の頬を包む健司の大きな手、寒い時は後ろから抱きしめてくれた優しい腕。
今は芸能人のザックと画面の中で笑っている。
詩織は心が締め付けられた。
引っ越しの片付けで夕飯を作る時間が無かったので宅配ピザを頼むと 帰宅した夫がそれを見てインスタントラーメンを作り始めた。
詩織はそれにムカつきながらも、何も言わず我慢した。
「詩織、相談なんだけど俺の実家に入らないか?」
「何言ってんの? もしかして同居ってこと?そんなの絶対嫌よ。」
「実は母さんが癌で手術が必要なんだ。父さんも仕事をしているし、俺も仕事が有る。だから詩織の助けが必要なんだよ。」
「通いじゃダメなのかしら?」
「今はそれで良いが、近い将来同居を考えて欲しいと思っている。それから今迄言わなかったけど、もう少し無駄遣いにも気をつけてくれ。」
「えっ、明日 私が贔屓にしてるデザイナーの新作パーティーなんだけど。王国ホテルの社長夫人もいらっしゃるのよ。」
「バカみたいに買うなって事だよ。明日早いからもう寝るよ。おやすみ。」
自分の方がお金を使ってるだろうが と思うが又ケンカになるだけだし、これ以上嫌味を聞きたく無いので黙る事にした。
1人リビングでムカつきながらワインを飲む。
あっ、そうだ、例のネットクリックの番組を見よう。
詩織はシルバーは絶対健司だと思った。
そして一緒に番組に出ているタヌキの近藤さんの声を聞いて身体の全部の血が頭に上るのを感じた。
タヌキの近藤さんは、玲奈だ。近藤玲奈。
私は玲奈にはめられたのだ。
玲奈は健司を手に入れたいが為に私の前で田崎の自慢をしたんだ。
健司がタヌキの近藤さんを守るシーンでは詩織の怒りは頂点に達した。
詩織はきっと玲奈がテレビを通して健司は自分の物だと私に言っているように感じた。
読んで頂きありがとうございました。