10 予想外の出来事
評価して下さった方、ブックマークして下さった方、本当にありがとう御座います。
今回は前半が松原健司で、後半がタヌキの近藤さんこと近藤玲奈さん目線です。
「えっ? ネットクリックの番組ですか?」
「そう、日本だけじゃ無くて全世界同時配信。」
ザックさんはそう言うと羊羹を楊枝で突き刺して口へ入れた。
今日、俺はブライアンさんに呼ばれて、屋敷で会った途端、ネットクリックの番組に出ないかと誘われたのだ。
「実を言うとVLSに入る前に、既にネットクリックでVLS向けのトラベル番組をやる事になってたんだけど、この間の魔王ケルベロス討伐画像をプロデューサーに見せたら、お主達も含めた3人でって話になったんだ。」
ブライアンさんは続ける。
「ただシルバーはサンダーシャックとの契約も有るから、私とザックの弁護士に相談するのはどうだろう?」
ザックさんも俺に言う。
「それから会社を立ち上げろ。今はオンラインで会社の登録も出来るし、必要なら私の弁護士が代行してくれる。」
「契約書のコピーは保存していますが… 。」
とりあえず俺はサンダーシャックとの契約書をザックさんとブライアンさんの弁護士に送った。
◆ ◆ ◆
近藤玲奈は朝からの法務も含めた長いミーティングが終わって自分のデスクに戻る。
昨日からブライアンさん、ザックさん、シルバーこと松原さんの件で、マーケティング部は大騒ぎになっていたのだ。
サンダーシャックのコンテンツ内に在住のこの3名がメインでネットクリックオリジナル番組が制作される事になったからだ。
前回の魔王ケルベロスとの戦いのシーンも使われたり、ゲーム内のホテルやリゾートも紹介される予定だ。
番組は世界同時配信なのでかなりの宣伝効果が見込まれる。
当初問題視されていた松原さんのアバタ ーも、基本は松原さんの顔だと言うことも有り、今後3年間は他社の施設でシルバーのアバターを使用した場合は出演料の1割を弊社へ支払う事で合意した。
面倒な事にならずに本当に良かった。
もう直ぐ12時だ、朝食も食べずに朝からずっと会議だったので、お腹がぺこぺこだ、早めにランチにしようと席を立ったところで話しかけられた。
「近藤さん、これアストリアの領地、セント プルメリアの国内ホテル候補リストとプレゼンのスケジュールです。メールでも送ってます。」
「ありがとう。」
ゲーム内のアストリア王国の領地セント プルメリア島はリゾートの設定で、そこには外資系高級ホテルチェーンが既に決まっているが、日本国内のホテルも2社採用する。そこで名乗りを挙げたホテルがプレゼンをする事になっているのだ。
オフィス近くのイタリアンで同僚とランチを食べて、その後コーヒーを買って自分のデスクに戻り、資料を見ると……
そこには田崎リゾートホテルの名前が有った。
私はかなり驚いた。なぜなら他の立候補しているホテルは他国でもホテルを構える日本の有名老舗ホテルチェーンだからだ。
立候補するにはそれなりの案も用意しているのだろう。
例えばレストランだったり、アトラクションだったり、どのホテルもプレゼンにはかなり力をいれているのだ。
まあ社長自らプレゼンに来ることも無いので、本人に会うことは無いだろうが、
一難去ってまた一難とは… 。
田崎リゾートホテルのプレゼンの日がやってきた。
メールで送られて来た会議出席者の中には田崎の名前は無かったが、会議室に入って来たのは田崎さん本人だった。
以前と変わらない優しそうな落ち着いた物腰、でもその仮面の下には興味の無い者にはいくらでも冷淡になれる事を私は知っている。
「社長の田崎が是非プレゼンに参加させて頂きたいと申しますので、もし差し支えなければ同席させて頂けますでしょうか?」
それを聞いた上司も、どうぞ どうぞと言う事で、プレゼンが始まった。
プレゼンはホテルの内装などがメインで、特に際立った提案も無く、所々でプレゼンを止めて、口を挟む田崎さんの発言が耳障りで、プレゼンを受ける側にとって、とても迷惑だった。
帰り際に田崎さんが私の方へやってきた。
「玲奈久しぶりだね。元気そうでよかった。今度食事でもどうだい。良かったらいつでも携帯に連絡してくれ。」
っと言った。
ボケ オメーのツラなんぞは見たくねえよ! それに私の名前を気安く呼び捨てにするんじゃネーゾ!
と心の中で叫んだ。
私は自分のデスクに戻って田崎さんの名刺をビリビリに破いた。でも未だムカつきが収まらなかった。
それから数日後、信用調査機関の田崎リゾートホテルの信用度がEとの報告を受けた。
EとはエクセレントのEでは無い。
ABCランクのE、最低ランクだ。
プレゼン内容も大した事は無かったが、経営状況が悪い会社を採用する訳にはいかないので、お断りのメールを出す事になった。
まあ、ホテルの信用度が低いのはオープンして2年目の新しいホテルだからだろう。
それにご両親のホテルもあるしホテル経営が行き詰まる事は無いはずだ。
もうこれで二度と田崎さんに会うことは無いだろうと、せいせいした。
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