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☆8 「隠し味にはねずみの毛皮っ♪」

 プレイヤーと別れた数分後、つくしは森をさまよっていた。

 経験値を回収するためにはつくしが死んだ場所に行かなければならない。しかし、それがどこにあるのか。なかなか見つけることができずにいた。

 

「うーん、もっと先だったっけ。来ればわかると思ったんだけどなー」


 首をひねりながら、つくしは道なりに歩みを進める。

 どこを見ても似たような木や草が生えているばかりで、違いがわからない。

 死んだ場所が道端ならわかりやすかっただろうが、あいにく道を外れた先だったので茂みの中へ分け入ってみなければ見つけられそうになかった。

 しかし、やみくもに森の奥へ入ってしまえば、今度は経験値だけではなく装備まで失うことになってしまうだろう。

 初期装備ならともかく、もらった武器を早々に失くすのは避けたいところだった。

 

「あっ、ヒールハーブみっけ」


 つくしが道沿いに生えたヒールハーブを採取していると、目の前を茶色いねずみ――ラージラットが通り過ぎていく。

 ラージと言うだけあって中型犬くらいの大きさがあるが、こちらから攻撃しない限り襲ってこない最弱モンスターのひとつだ。

 つくしは手に持ったククリナイフと見比べて、武器を試すチャンス、と思った。

 派手な動きをすると逃げられてしまうので、素知らぬ顔で近づいていく。背後に立って、つくしはナイフを振り下ろした。

 

「えいっ!」

 

 思い切り叩きつけたナイフが命中し、ラージラットはキィキィ悲鳴をあげる。ラージラットのHPは1/3くらい削れていた。いける、とつくしは手応えを感じた。

 

「たあっ。てやー。そりゃー」


 なんとなく力の入らない掛け声とともに、つくしは何度も斬りつけた。しかし、与えるダメージが低い。力の乗っていない攻撃では威力も出ないのだ。

 ラージラットの方もやられてばかりではない。なでるようなつくしの攻撃に怯むことなく、鋭い前歯でつくしに噛み付いた。

 

「わあっ! 痛ー……くないっ!」


 つくしには防護の魔法がかかっている。最弱モンスターの攻撃くらいではほとんどダメージが通らないのだ。

 初めて戦ったときは殆ど蘭まかせで、つくしはときどきちょっかいをかけては反撃を食らって逃げ回るなど、まともに戦ってすらいない相手だった。しかし、いまはレベルが上がり強い武器を手に入れて、おまけに魔法までかかっている。つくしの敵ではない。

 つくしは噛みつかれながらもナイフでちくちくとダメージを与え続ける。やがてラージラットは力尽きて倒れた。

 

「やったあ! つくしひとりで倒せたよー!」


 本来はレベル1でも戦える相手なのだが、つくしにとっては初めてひとりで倒したモンスターだ。喜びを噛み締めながら倒したラージラットに触れ、ドロップアイテムを回収する。

 そこへまた1匹、ラージラットが現れた。

 

「また来たな―。ふふふ、このククリナイフのさびにしてくれよう」


 味をしめたつくしは2匹、3匹と、ラージラットを見つけ次第狩っていったが、そんな中――ガブリ、ラージラットがつくしの脚に噛み付いた。

 

「いったーい!? えっ、なんでー? あー、魔法きれてる!」


 魔法によるダメージ軽減効果が切れて、本来のダメージがつくしに入った。

 実際に感じたのは痛みというほどの感覚ではないのだが、さっきまでなんともなかった攻撃でダメージを受けたつくしはびっくりしてしまった。

 それでも普通に戦って負けるような相手ではないので、ラージラットの攻撃に怯みながらも、なんとか相手のHPを削りきることができた。

 

「ふひー。つくしのHPすごい減っちゃった。やっぱり避けながら戦わなくちゃいけないのかな」

 

 つくしは木の根元に座り込む。

 全ての攻撃をもらいながら戦っていたつくしのHPは半分まで減っていた。このまま連戦するのは分が悪い。


「回復回復~。HPが減ったときは~ポーションをのみましょう~♪」


 つくしはポーションの歌を歌いながらインベントリを開き、ヒールポーションを取り出してごくごく飲んだ。

 つくしのHPが満タンまで回復していく。

 しかしゲーム開始時に支給されたポーションはこれで底をついた。

 

「もらったポーションなくなっちゃった。でもつくしはポーション作れるもんねー。さっきはなんか爆発しちゃったから、今度こそ」

 

 つくしのインベントリに収納されたヒールハーブは3つ。ちょうどヒールポーションを1つ作ることができる数だ。

 つくしはさっそく錬金釜を取り出して調合をはじめた。

 

「錬金釜をあっためてー、ヒールハーブを3ついれまーす。隠し味にはねずみの毛皮っ♪」

 

 ごうごうと勢いよく燃え盛る火に熱せられている錬金釜へ全ての材料を投入し、木べらでかき混ぜる。鼻歌を歌いながら混ぜ続けると、全ての材料がどろどろに溶けて液状になっていく。煙も出てきた。

 そして中身のどろどろが輝きを放ち始める。完成間近の印だ。

 

「あっという間にヒールポーションのできあが――」


 ヒールポーションの完成と同時に、錬金釜が爆発した。

 もうもうと立ち上る煙のなか、つくしは地面に転がっていた。

 

「えーっ? なんで爆発しちゃうのー?」


 爆発の衝撃をもろに受けたつくしのHPはゼロになり、目の前に死亡を知らせるメッセージが表示されている。

 

「つくしまた死んじゃったー。せっかく回復したのにー」

 

 つくしはリスポーン地点へ戻るしかなかった。

誤字報告ありがとうございます。

とても助かります。

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