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第6話 血に吸い込まれていく意識

   *


 G県。事件現場、園山宅。

 山に囲まれるようになっているこの盆地には、毎年うだるような夏がやって来て、過酷な炎天下が話題となる。

 しかし今の時分は十一月後半。別段特別な気象になどなろうはずもなく、見かける人々は襟を立てて寒風を遮っていた。

 何の変哲もないはずの人里離れた山中の洋館に、今世間の眼が一斉に向かっている。

 混み合っている、本来人っ気の無いような山道を車で徐行しながら先へ進む。

 洋館の玄関を出て直ぐの所はブルーシートで囲まれており、その手前にはキープアウトのテープが引かれていた。その規制線の前には数えきれ無い程の人がごった返している。

 来栖は型遅れの白のBMWを路肩に停めると、人を掻き分け洋館へと向かった。皆何をしているのかと思えば、携帯のカメラでブルーシートに囲まれた洋館と、規制線を背景に記念写真を撮っている。

 平和ボケした国民にとって、誰かの不幸や事件などは娯楽の対象でしか無いらしかった。

 果てしない数の人混みを強引に掻き分けて前へ進む。その強引さに、後ろからぶつくさと文句が聞こえるが、そんな事など気にも止めなかった。

 人混みの先頭に至り、目前のキープアウトのテープが来栖を遮った。その手前には警察官が一人、一般人がその規制線を潜り抜け無いように、後ろ手を組んで見張っていた。

 来栖はそんな光景など横目にも止めず、警察官にサッと警察手帳を提示して規制線を掻い潜ろうとした。

「あっ……ちょっ、待って下さい」

 動揺したような素振りを見せながら、警察官は来栖を引き留めようとする。しかし来栖の視界には既に事件の事しか見えていないのか、耳も貸さずにズイとテープを潜り抜け、ズンズンと早歩きでブルーシートに囲まれた洋館に向かって進んでいってしまった。

「あっ、ちょ、ちょっと……」

 ズンズンと進んでいく来栖の後ろで何も出来ず、慌てふためくだけのこの警察官は新人なのだろうか。だとしたら警察官として余りにも無力だ。遂に来栖は、洋館を覆ったブルーシートをピラとめくって中へと入ってしまった。

 ブルーシートを潜った先では、背中に『POLICE』と印刷された作業服を着た鑑識が、黙々コンクリートに染み付いた真新しい血液を横目に現場検証をしている最中のようだった。

 来栖のすぐ足元のコンクリートにへばりついた、真っ赤な血。赤い水溜り。およそ現代ではほとんど見る機会の無い量の人間の鮮血が、来栖の視界を強烈なまでに貫き、事件の凄惨さを物語った。

 そして同時に、来栖の鼻腔を思い出したくも無い臭いが強烈に突いた。

 血……。あの時以来の血の臭い。

 臭いに乗った記憶が、来栖の脳裏に地獄の光景を鮮明にフラッシュバックさせた。血に吸い込まれるように、赤に吸い寄せられるように、来栖は某然とその過去を見つめた。


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