第25話 怪人
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「なんだよっ……! なんなんだよあれはっ!」
大橋を引き返す方向で走る来栖。先程の存在が未だに信じられず、思わずそんな言葉が口を突いて出た。
「……しらねぇ、俺たちにも、わからねぇ」
早乙女に脇を支えられながら、息も絶え絶えに鷲巣が答えた。
「だが……信じられなくても目の前に存在する……だから、俺たちは闘ってる」
――鷲巣たちは、あんな存在とこれまで闘って来たと言うのか?
「俺たちだって未だに信じられねぇし、訳がわかんねぇんだ……それでも誰かがやるしか無いんだ……」
「わかったからもう喋るな鷲巣!」
鷲巣を制したのは早乙女だった。大の男を支えて走っているせいか、その息は荒い。
やがて大橋を渡り切ると、早乙女が先に立って十字路を右に曲がった。来栖も後に続く。直ぐに黒いワゴン車が見え、後部の観音開きの扉が開き、橋沢が顔を出す。
「こっちよ! こっち!」
「わかってるわよ!」
黒いワゴンにまで辿り着いた早乙女は、橋沢と二人で鷲巣を車内へと担ぎ込んだ。
「ちょ、ちょっと大変! 春馬くん大丈夫なの!?」鷲巣の出血を見て、橋沢が困惑の表情を見せる。
「大丈夫です……よ、そんなに大した怪我じゃ……」
「うるさい! 応急措置するから二人とも黙ってろ!」
早乙女は荒々しい口調で言いながらも、鷲巣をそっと左右で向かい合いになった座席に寝かせた。
来栖はそんな様子を後ろから呆然と見ていた。自分のせいで鷲巣が重症を負った、という自責もある。今更ながらも自覚して来た死の実感から、こめかみの辺りに一筋の冷たい汗が垂れて来た。
「お前のせいでもないわい、これはわしの配置ミスじゃ、ほぼ初対面といえど、お前たちがあそこまで最低最悪な連携をする事を予想出来んかったわしのな。ほんでこんな最悪の事態の保険となるはずじゃったこいつも、わしが直接渡せば良かった」
来栖の心中を察した様なタイミングで、局長がワゴン車の開け放たれた扉から車外に顔を出して、鷲巣が来栖に渡し忘れた無線機を投げ渡した。
「……配置はミスじゃ無かったんだろ?」
しかし、察していたのは局長だけでは無い。
「あんた、俺が容疑者が一人だと思い違っていた事、知ってただろ?」
「ほう?」局長は興味深そうにして腕を組んだ。
「容疑者が二人いる事を俺に黙っていたのは、あんたたちの言う第一ターゲット、いわばサブターゲットを俺に唯一のホシだと思わせ、捕らえさせて後方に下がらせる為だった。邪魔な俺をこの場から遠ざける為の策略だったんだろ? だから邪魔だと言いながらも、俺を最前線に配置したんだ……今更になって気付いても、遅過ぎるんだがな」
何処までも抜かりの無い局長の巧みな罠を見破った来栖を、局長はシルクハットを深く被り直しながら、品定めをする様な目付きでまじまじと見つめた。
「鋭いな……。じゃが、それに関しては悪く思わんでくれ、何も知らんお前を、あの存在と対面させるのはあまりに危険じゃった。まぁ結果的にそうなってしまったがな」
言われて、黒い腕の女が自分を見下ろす眼を思い起こした。その瞬間から再び震え始めた自らの足を隠しながら、来栖は切羽詰まった表情で問い掛ける。
「あれは……あれは一体あれはなんなのですか?」
「――あれ、とは右腕の黒い女の『あれ』か? まぁ、どう説明したら良いか、というのもあるが……。
悪いが、――あれはなにか? ――というお前の問いに、わしもあれは『あれ』だと曖昧に表現するしか無い。我々にとっても未だに得体のしれない、そんな存在じゃ」
そんな得体のしれない存在が、この時代に、この地球上にまだあったのか。そんな風に思ってしまう自分の無知さに、怒りすら覚えた。
「あれは、人間……なんですか?」
「そうじゃ、少なくとも過去、確かに人間であった者じゃ。」
「過去……?」
来栖の額に脂が滲む、冷や汗が頬を伝って襟元を濡らした。
「我々と同じように暮らす、我々と同じような健全な存在、それが突然変異のようにああなったのが『あれ』じゃ」
――信じられない。……しかし見てしまったのだから信じるしか無い。自分の中の矛盾に、来栖は余計にパニックになりそうであった。
「突発的な人間の変異体っ!? 何故そんな事が!?」
捕らえた少女を掴んだ腕に力が入ってしまったか、少女は声こそ出さないが、「痛い」と来栖に表情で訴えて来たので、腕の力を緩めた。
「わからん……。あらゆる手段を持ってしても、世界を監視し続けるWCSSを持ってしても」
「……っ!」
「誰が呼び始めたかは知らんが、我々は『あれ』を怪人と呼んでいる」
「……怪人」
絶望の淵を目の当たりにでもしたかの様な表情で、来栖はその名を反芻し、一つ唾を飲んで後退った。
「早乙女、鷲巣は大丈夫そうか?」
局長は視線を車内に振り返らせ、鷲巣の応急処置にあたる早乙女に聞いた。
「はい、大丈夫ですが……出血も酷く、今回の戦線は離脱せざるを得ないかと」
早乙女の言葉を聞き、鷲巣がムリに体を起こそうとした。
「早乙女さん……俺はまだ大丈……ッ」
「うるさい!」
「まぁ鷲巣は寝とれ」
局長は車からぴょんと飛び降りて来た。それだけで何処かを痛めてしまいそうに思えたが、そんな様子はまるで無い様である。
「おっと、その子もここで保護する、車に乗せてくれ」
局長は、来栖の腰ほどの高さにある頭を一瞥して、指で来栖を促す。
「保護……? 危険では無いんですか? この少女も、もしかしたら先程の右腕の黒い女と同じ様に……」
「この子はな、ただ連れられて来ただけじゃ。自分で思考する事も無く、あの娘に手を引かれて来ただけじゃ……。安心せい、この子に変異は見られんのは確認済みじゃ……もっとも、突然発症するかもしれんがな」
「……それならやはりっ」
「いんや、それを危険と見なすならば、わしも、お前も、世界中の全国民をも危険と見なすしか無くなる。誰がいつ発症するか、何より原因も全くわからんのじゃ、そこは割り切るよりは無い」
そう言われ来栖は、怪訝な表情のまま少女の腕を引いて車へと乗り込んだ。
「……」
少女はやはり何も言わずにそれに従っていた。先程から見ていると、思考する事を知らない人形の様にも思える。
「私が逃げない様に見とくわ。あんたは局長と話があるんでしょう?」
来栖は早乙女の言葉に軽く頭を下げてから、再び車から降り立ち、真剣な表情で大橋の方を窺っている局長の背に向かい合った。
――局長は、先程の紅葉という女と近しい間柄である様な事を言っていた、やはり心配なのだろうか? しかし来栖には急かしてでも聞かねばならない話しがあった。
「局長、怪人に関して、知っている事を教えてください」
「はぁ。わかっとる、こうなったら仕方が無い。そのつもりじゃ」
局長は大橋の方向に顔を向けたまま話し始めた。
「怪人の第一号が現れたのは二十年前じゃった。凄まじく強靭で、俊敏で、聡く、凄惨な怪人は突然に現れ、犯罪やテロを誘発し、我々人類に猛威を奮った。……それはまるで超自然災害か何かの様ですらあった」
「二十年、そんなに昔……いや、二十年前? 二十年前と言ったら……」
来栖は何かに気付いた様にハッとした。来栖にとって忘れる事の出来ない事件。
「――そう、日本で起きた大規模テロ、三千弾痕事件。日本で起きたその事件も、怪人に誘発されて起こったものじゃ」
喋る度に局長の口元からは白い息がこぼれた。それを見て、来栖にも忘れかけていた寒さがぶり返して来た。――いや、この寒気は気温とは全く別の物かもしれない。
――三千弾痕事件。聞くだけでおぞましく、そして震える。その事件を誘発した存在が局長の言う通り、怪人なのだとしたら、少なからず来栖にも因縁のある話しであった。
そして局長は続ける。
「我々は、辛うじて第一号の殲滅に成功した。……成功したと言うにはやはり、死傷者が多過ぎたがな」
「……」
「しかし、WCSSが完全に完備されとった訳では無かった二十年前じゃ、第一号の出処はわからぬまま、そして――――回収しようとした第一号の死体も忽然と姿を消しとった」
――え?
「……! それは、何者かが持ち去ったと言う事ですかっ?」
「おそらくな……。そして第一号を殲滅した五年後、またもやそれは現れた。しかしそれは、第一号と比べるには、余りに貧弱であり、普通の人間とほとんど相違が無く、拳銃の弾一つであっさりと死滅した」
「……っ」
「しかし、第二号の出現を皮切りとした様に、怪人は各国、至る所で現れる様になった。我々と同じ様な健康体の人間たちが、なんの前触れも無く、突然に原因不明に発症し、無差別に人に危害を加える様になった」
「そんな、なんで……っ」
そこで局長はおもむろに無線で通信を始めた。
「出羽ちゃん、まだか?」
通信先の相手から直ぐに返事があった。
『橋にて交戦があった為、回り道をさせました。あと百八十秒で着きます』
「ん、早よせい」短く言って局長は通信を切り、再び話し始める。
「……で、第三十四号、カナダ某所にて現れた怪人はこれまでとは様子が異なり、時間の経過共に左足が徐々に黒く変色し、そして変色したその部位に、人間ではありえん程の破壊力を備えた。その現象の起こった怪人を、我々は第二形態と名付けた。
そして第三十四号を殲滅した後、第三十五号以降の怪人は、発現する場所はそれぞれ異なるものの、第二形態に達する者がまちまち現れる様になった。全く違う時と場所にて、全く違う人種、血液型、性別の違う、共通点の無い怪人たちに、同じ現象が起こる様になったんじゃ」
「……シンクロニシティ」
来栖は瞳を戦慄かせながら局長の背中を見つめる。
「そう、意味のある偶然の一致、共時性。そして第二百二十三号。フランス某所で現れた怪人は、先と同じ様に、突然にこれまでの怪人には無かった現象を発症させ、第三形態となった。そうして同じくその後、世界中に第三形態の怪人が現れる様になった」
――新たな力を身に付け、そして次のものはそれを受け継ぐ。それまるで、長い歴史を持って進化して来た、人類の進化過程の様にも……
「その現象とは……?」
「自律。黒く変色した部位が、本人の反射神経すらも無視して一人でに動く様になった。その反応速度に個体差はあれど、いずれにしろ、人ならざる領域の反応速度でじゃ」
――自律。さっきの女が拳銃の速度に反応していたのはその現象となるものだったのか。
「特筆すべきは、怪人のあの黒く変色した部位は……にわかには信じ難いだろうが、発症者とは思考を別にした意思があると思われる事じゃ。宿主の物では無い無意識の意思。それが怪人の自律という現象になっとる」
来栖は眉間に皺を寄せながら局長の背中に尋ねる。
「身体の部位に別の意思が宿ると言うのですかっ?」
「そう説明するのが一番枠にハマっとるからそう言っとるだけじゃ、真相は全く違う事かも知れん。現代のWCSSを持ってしても怪人に関してはほとんどが謎のままじゃ」
世界中の全てを二十四時間監視し続けていてもわからないというこの現象。怪人は何の為に現れ、そして何の為に人に危害を加えるのだろうか。
「怪人の目的はいったい何なんですかっ?」
そう問うたが。やはり局長は首を横に振るだけだった。
一拍置いて、局長は舌で口を湿らせて続ける。
「その後も小さな変化が連続していった。変色後、潜伏期間を抜けると、他の部位まで変色化する者、自律した意思に引かれた様に、性格が豹変し、理性が効かなくなる者……。しかしその後、変色や自律の様な大きな変化は見られず、今日、怪人の変化は止まったと思われていた。しかし――――」
と局長が言いさした時、大橋の方から怒声が聞こえて来た。声からして、先程の刀を持った女、紅葉の物だろう。
「待てぇっ! 逃げんな!!」
来栖が大橋に視線をやると同時に、後ろの扉から橋沢が身を乗り出して来た。
「局長、ターゲットが逃走し、こちらに向かって来るわ!」
するとそこで、来栖の背後の大光大橋とは反対の暗い夜道から、局長たちが乗って来たのと同じ、黒いワゴン車のヘッドライトが近付いて来ているのが見えた。
「日寺、ターゲット確認出来るか」
局長が無線に囁き掛けると、向こうから『はい』とだけ聞こえた。
「足を狙え」
後方の高所から乾いた音が一つ、直に聞こえた。日寺が工場の二階から、覗かせたスナイパーライフルを放ったのだ。
サイレンサーを装着した独特な乾いた音の余韻が消えてから、局長は無線に口を近付けた。
「どうじゃ、日寺?」
『……弾かれました』
「なに? 狙撃ライフルの弾速にすら反応するか……」
局長の反応から推測するに、それもまた先程言っていた――小さな変化、という奴なのだろうか?
「来栖」局長は来栖の方へ振り返った。
「……そして日本に現れた第六百六十七号――目前におるあの女が、弾丸を弾く程の皮膚の硬質化を遂げた」
そう言って局長は、奥歯をぎりぎりと噛み締めながら、大橋の方を覗いた。
「第四形態……じゃあ、次から現れる怪人は……」
「ああ、変異種でないのならば、あの硬質化も当然発症する様になるはずじゃ。今頃各国の監視局の顔面が蒼白になっとるのが目に浮かぶわ」
――それは……次からは、当たり前の様に弾丸を弾く怪人が現れるという事か?
「銃器無くして、人類はあんなのに対抗していけるのですか……?」
神妙な面持ちで、遅ばせながらも事の重大さを実感して来た来栖もまた、局長と同じ様に奥歯を噛み締めた。
「だから困っておるのだ。このまま目の前の怪人を一つ一つ処理していくだけでは、問題の先送りにしかならん。時間が経過する程に、怪人は更なる脅威を備えて戻ってくる」
つまりそれは、いずれは対応出来無くなり、人類が危険にさらされるという事か。
――いや、その表現は違う。そんな生易しい表現では足りない。
三千弾痕事件の悪夢が来栖の脳裏に去来する。
いずれは対応出来無くなり、怪人による人類の虐殺が始まるのだ。
「まるで悪魔じゃないか……っ」
絶望を突き付けられた来栖の口からは、自然とそんな言葉が漏れた。
「じゃが、一つだけ希望がある」
肩をがっくりと落として落胆し、暗く変貌した未来を見ていた来栖のビジョンに、僅かな光を灯らせる言葉を聞いた。
「そうじゃな、まるで悪魔の様じゃ。……しかし、怪人は悪魔では無い、決して悪魔などでは無い。そんな非科学的現象はあり得ない。そんな曖昧な物はこの地球上にありえん。
つまり、人間の突発的変異体――怪人には恐らく人為的関与がある」
――ゾッとした。同時に身体が心底震えた。
こんなおぞましく、信じ難い現象を故意に起こしている人間がこの世にはいるというのか? それこそ正に人間では無く、悪魔じゃないか。
「我々アンスの最終目的は、目下怪人に関与しとる組織の解明、並びに怪人の殲滅と絶滅にある」
それがアンスの目的……しかし。
「これが人為的現象だと裏付ける物は……?」
「……ふむ、そうなるじゃろな。――あえて進化と言うが、怪人が進化し、備えた身体的機能。変色、自律、そして硬質化、それら全て、第一号が備えておった物の劣化版なんじゃ。すなわち、第一号には遠く及ばなかったポテンシャルが、徐々に徐々に第一号のそれに近付いて来ておるという事じゃ」
来栖は合点がいったかの様に一歩踏み出した。
「……コピー!?」
「いや、コピーと言うよりは――復元。先程第一号の死体が持ち去られたと言ったじゃろう。恐らくそれをオリジナルとし、何者かが、第一号の復元を試みておる」
「そんな、一体何の為に……っ!? 沢山の人が死んだと言うのに、何故……」
そんな人間がこの世にいるという事に、来栖の肌に粟が立った。
「……わからん」
局長は頭を振る。
「復元なんてっ……そんな事が本当に出来るのでしょうか」
「今日の医学界ではもはや細胞から肉体を作製する事も可能と聞くからの。タブー視され公式にはその研究は行われてはいないとされとるが、今回の様にWCSSでも見えぬ事象もある。わしらの知らん地下街で何かしらの研究は進んどるのかも知れん」
「じゃあ、第二号以降の怪人が何者かの造った複製とするならば、その第一号はいったい」
「……」
局長の口から言葉は返ってこなかった。代わりに、冷たい風が来栖の赤くなった耳を撫でていった。
平和過ぎる世の中に隠された、悲惨過ぎる裏側を垣間見て、来栖は言葉を失った。現実主義の来栖には、余りに途方もなく、しかし目前に差し迫る話しであった。
来栖たちのすぐそばに、もう一台のワゴン車が停まった。中から局長たちと同じ様に武装した人間たちが溢れる様に飛び出して来た。
「それでは、一班二班合同してターゲットを討つぞ。……それと来栖、お前は鷲巣と車の中で待機じゃ。橋沢も出るぞ」
ターゲットの女、幽雅が紅葉に追い掛けられる形でこちらに向かって来ている。やがて大橋を渡り切り、この場に現れるだろう。
「いや……悪いが俺には、行かなくてはならない場所があるんだ」
その言葉を不審に思った局長は、来栖に訝しげな表情を返す。
「ん? なんじゃ来栖……まさか怪人の、あの女の目的地がわかっとると言う事か……?」
来栖は自らの足元に視線を落として答えた。
「そこにいる住民たちを安全な処で保護しないと……」
「住民? 何処じゃ、場所を言え。目的地がわかっとるなら何かと対策の仕様もある」
局長と周りの視線に急かされて、来栖は口を開いた。
「太陽の唄。児童養護施設兼、修道院が彼女の目的地です」
すると局長は顎に手を当てて思案した。
「ふむ、確かにターゲットの進行方向の先にある。やはりそこの出身じゃったという事か」
などとぶつくさ言っていたと思うと、突然に大きな声を出し、班全員にその旨を伝えた。
「二班はここでターゲットの足を止めろ、後の指示は出羽が出す。一班は修道院の子どもたちの保護を完了した後に合流する。人命第一じゃ! よいな、出羽ちゃん」
局長が無線機に問い掛けると、『はい』と短い返事があった。
「ほれ、ボサっとしとらず車に乗れ、途中で日寺も拾ってくぞ」
来栖は早乙女に襟首を掴まれ、押し込められる様に車に乗せられた。
「ハロー刃くん。橋沢よ。よ・ろ・し・く・ね」
「あ、ああ。よろしく」
何時しか運転席に移動していた橋沢が、ルームミラー越しに舌舐めずりをしたのが見えて、来栖の額から脂汗が滲み出した。