第2話 虫の居る見知らぬ部屋
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腹部の痛み、鈍痛というより刺激痛に魘されて目覚め、薄く瞳を開けると、そこは見も知らぬ白い部屋だった。
壁も床も天井も白い正方形の部屋の中央に置かれた椅子に、鉄製の拘束具でもって括り付けられているらしかった。
目を瞬いてよく見てみると、正面には黒い窓、天井にはスピーカーと、自動銃の様な物が対角線上に取り付けられている。
私はそれだけを理解すると、再び瞳を閉じて今の状況を整理しようと試みた……が、上手くいかなかった。ここに来る前の記憶がぼんやりと、靄がかかった様に判然としない。何故自分がこんな状況に置かれているのか、何故お腹がこんなに痛むのかもわからなかった。
その時、静謐だった室内に、スピーカーからの声が響いた。
『気付いたか』
ひどく冷静でいて、どこか冷たい印象を受ける声でスピーカーは話し始める。声の質からして、初老の男性である事が理解出来る。些かスピーカーの音量が大きく、そのスピーカーが喋る度に、ぼんやりとした頭がズキズキと痛むのに顔をしかめた。
『おぬしは何者だ』
スピーカーは、私自身が今の状況をまるで理解していないにも関わらず、一方的な疑問を放り投げて来た。
私はその問いに答えなかった。この状況でそちらから先に質問をする事が、ひどく不躾に思えたから。
『おぬしは何者だ、あれは……おぬしの背中にあったあれはいったいなんじゃ?』
それでもスピーカーは、まくしたてる様に質問を繰り返す。私にはその質問の意味がわからず、黙っているしかなかった。
『変種か、奇形種か……それとも新種なのか?』
慎重に言葉を選びながら、スピーカーは謎の単語を繰り返す。それは問いではなく、独り言の様だった。
そんな状況に、とうとう痺れを切らして口を開いてやる事にした。
「あなたがさっきから何を言っているのかわからない。私はどうしてここにいるの? どうして縛られているの? どうしてこんなにお腹が痛むの?」
言葉を発する度に、やはり腹部が痛んだ。苦悶の表情を俯いて白い髪に隠した。
しばらくの間を置いて、スピーカーは私の問いに答えた。
『憶えとらんのか?』
そうだ、だから問い掛けたんだ――間抜けなスピーカーからの声にイラつきを覚え、密かに眉にシワを寄せる。
その後スピーカーは、理路整然と、まるで教科書の活字をそのまま読んでいる様に無機質に、私がここに至るまでの経緯を話し始めた。
話しを聞いていてもまるで理解出来なかった。ぼんやりと、赤の他人の話しを聞いている様な気持ちにすらなった。
結論として私は、もうここから出られないらしかった。殺風景な白い部屋を見ないように、私は固く瞳を閉ざした。
白い部屋には虫が沢山飛んでいて、気味が悪くて仕方が無かった。