7
あなたは、少女の何もかもを知らない。
あなたは、少女の何もかもが見えていない。
けれど、あなたは少女と同じ時間を過ごすことを選らんだ。
きっと、あなたと少女は分かり合えない。
分かり合う必要もない。
あなたと少女は見ている世界が違うのだから。
それでも、同じ時間を過ごすことはできた。
いつまで続くか分からないこの時間が、永遠に続けばいい。
少女は、心からそう思った。
あなたもそう思っていることを願った。
「あたしは、母親を殺したのよ」
少女がそう告げると、あなたは少しだけ表情を強張らせた。
この国で、親を殺すのは大罪だ。
捕まったその場で首を跳ねられても不思議ではない。
あなたはしばらくの間、少女の顔をじっと見つめた。
「本当?」
「本当よ」
「とてもそうは思えない」
「あたしから血の臭いがするでしょう?」
あなたは、少女の服の裾を顔の前に持って行った。
「そんなものはしない」
「目だけじゃなくて、鼻も悪いのかもね」
「ラベンダーの香りがした」
「頭も悪いのかもしれないわ」
「違いない」
あなたと少女は、小さく笑い合う。
「どうして、そんなことを?」
「殺さなきゃいけなかったの」
少女は歌うように、あなたに語った。
「殺さなきゃ、あたしが死んでいたから」
少女はそれ以上は言えなかった。
言いたくなかった。
少女は、あなたに何も知らないで欲しかった。
「あたしは碌でもない、『赤い人間』よ」
少女は笑った。
あなたは笑わなかった。
「君を嫌うことはできない」
「どうして?」
「欠陥品の僕を嫌わないからかな」
それは違った。
少女はあなたの心の隙間に入り込んで、居座っているだけに過ぎなかった。
少女はあなたを嫌っていなかった。
少女はあなたが愛おしかった。
けれど、好いているわけではなかった。
ただ、人並みの温もりを感じることができるから、同じ時間を過ごしていただけだ。
あなたは夢を見ていた。
けれど、少女は夢を見るには、少し汚れすぎてしまった。
あなたと少女の見る世界は、永遠に交わることがない。
同じ時間を過ごしながら、別の世界を見ている。
それを本当の意味で知っていても、あなたは少女と共にいただろうか。