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 あなたは、少女の何もかもを知らない。

 あなたは、少女の何もかもが見えていない。

 けれど、あなたは少女と同じ時間を過ごすことを選らんだ。

 きっと、あなたと少女は分かり合えない。

 分かり合う必要もない。

 あなたと少女は見ている世界が違うのだから。

 それでも、同じ時間を過ごすことはできた。

 いつまで続くか分からないこの時間が、永遠に続けばいい。

 少女は、心からそう思った。

 あなたもそう思っていることを願った。



「あたしは、母親を殺したのよ」

 少女がそう告げると、あなたは少しだけ表情を強張らせた。

 この国で、親を殺すのは大罪だ。

 捕まったその場で首を跳ねられても不思議ではない。

 あなたはしばらくの間、少女の顔をじっと見つめた。

「本当?」

「本当よ」

「とてもそうは思えない」

「あたしから血の臭いがするでしょう?」

 あなたは、少女の服の裾を顔の前に持って行った。

「そんなものはしない」

「目だけじゃなくて、鼻も悪いのかもね」

「ラベンダーの香りがした」

「頭も悪いのかもしれないわ」

「違いない」

 あなたと少女は、小さく笑い合う。

「どうして、そんなことを?」

「殺さなきゃいけなかったの」

 少女は歌うように、あなたに語った。

「殺さなきゃ、あたしが死んでいたから」

 少女はそれ以上は言えなかった。

 言いたくなかった。

 少女は、あなたに何も知らないで欲しかった。

「あたしは碌でもない、『赤い人間』よ」

 少女は笑った。

 あなたは笑わなかった。

「君を嫌うことはできない」

「どうして?」

「欠陥品の僕を嫌わないからかな」

 それは違った。

 少女はあなたの心の隙間に入り込んで、居座っているだけに過ぎなかった。

 少女はあなたを嫌っていなかった。

 少女はあなたが愛おしかった。

 けれど、好いているわけではなかった。

 ただ、人並みの温もりを感じることができるから、同じ時間を過ごしていただけだ。

 あなたは夢を見ていた。

 けれど、少女は夢を見るには、少し汚れすぎてしまった。

 あなたと少女の見る世界は、永遠に交わることがない。

 同じ時間を過ごしながら、別の世界を見ている。

 それを本当の意味で知っていても、あなたは少女と共にいただろうか。


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