表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/15

3

 あなたは子供のとき、林檎が好きだった。

 けれど、あなたは林檎に「赤」という色があることを知らなかった。

 あなたが「色」という存在について知るのは、五才のときだった。

 あなたの目には、白と黒としか映らない。

 灰色もない。

 判子を押したようにペッタリとしたあなたの視界には、林檎は色としてではなく、微妙な模様と形の違いとしてしか見分けがつかない。

 だから、母親に「一番赤い林檎を取って」と言われた幼いあなたは、首を傾げてしまった。

 ――母さん、「赤」って何?――

 それを聞いて、あなたの母親は酷く狼狽した。

 この国において、「色」はとても重要な存在だ。

 この国では容姿や服装よりも、その人の「色」が重視される。

 時に色はお金よりも大事な存在だ。

 その色を識別することができないあなたは、出来損ない以外の何ものでもない。

 もちろん、それは社会があなたをそう見るだけだ。

 けれど、少女は、あなたを「出来損ない」と思ったことは一度もない。

 それ以上に、少女はあなたが色を見ることができなかったことを、とても嬉しく思った。

 あなたが色を見えなかったおかげで、二人は出会うことができた。

 あなたが色を知らなかったおかげで、少女は許された。

 だから、少女はあなたの見る世界を否定することができなかった。

 否定をするつもりもなかった。

 否定なんてできなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ