12
使用人たちが大広間に運んできたのは、三つの檻だった。どの檻も同じ大きさと形で、見分けはつかない。三つの檻の中には、それぞれ一人ずつ人間がいた。
「あの中に、『赤い人間』の女がいる」
「『赤い人間』? あの檻のどれかに、彼女がいるんですか?」
「彼女?」
老人は首を傾げる。
「丘にいた美しい少女です」
「ああ、いるともさ。あの女のことだな」
老人は意味ありげにうなずく。そして、醜悪に表情を歪めた。
「あの三つの檻からお前の望む『赤い人間』以外を見極めたまえ。そして、その女以外を殺せ。それが、この屋敷から『赤い人間』を譲り受けるための儀式だ。分かるか? お前が間違えば、その女は死ぬ」
老人は、僕に拳銃を渡した。
ずっしりとした重みが、手にのしかかる。拳銃を見るのは初めてだが、これが人を殺す道具であるということは知識として知っている。
「使い方は分かるか?」
「はい」
不思議と拳銃は僕の手に馴染んだ。
「これで僕があなたを殺すことは考えないんですか?」
「心配いらん。そのとき、死ぬのはお前だ」
なるほど。老人以外の『黄色い人間』も、拳銃を持っているのだろう。彼らは拳銃を使い慣れているに違いない。僕が老人に拳銃を向けるよりも早く、こちらの息の根を止めることができるのだろう。
もちろん、そこまでのリスクを冒してまで僕が老人に拳銃を向ける理由は、今の僕にはない。
「では、ゲームを始めたまえ」
小さくうなずく。
人を殺すことへの緊張はない。所詮、二人の人間を殺すだけだ。たいした意味はない。それは殺すのが『赤い人間』であっても、『黄色い人間』であっても変わらない。僕にとって人間は、その程度の存在だ。
ただ、彼女を殺してしまうのは、耐えられない。
檻の前に立つ。
それぞれの檻に、姿のよく似た少女が入っていた。少女たちの口には猿轡が噛まされており、彼女たちは声を出すことが許されない。顔の下半分が隠されているため、目の形で判別するしかないようだ。
どの少女の目も憂いに満ちており、懇願するような視線を僕に向けている。ただじっと、僕を檻の中から見つめていた。
「やめろよ。少しだけ、申し訳なくなる」
僕は銃を構えた。




