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「綺麗な青空ね」
少女がそう呟くと、決まってあなたは曖昧に笑った。
あなたは「青」という色を知らない。
だから、あなたは青空を知らない。
目が覚めるような青を知らない。
あなたが空を見上げても、その視界に映るのは「白」。
真っ白な空。
太陽がある方向を見るときだけ、あなたは眩しそうに目を細める。
そして、微笑むのだ。
「今日は晴れているみたいだね」
少女はあなたのその表情が好きだった。
少女はあなたの見る白い空を知らない。
少女は、自分の知らない世界を知っているあなたを、少しだけずるいと思うことがある。
けれど、あなたは少女の見ている世界を知らない。
あなたは、少女が何色かを知らない。
あなたの見ている世界に、色はない。