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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

幼馴染と異世界に来ちゃったけどあまり変わらないです。

作者: 野鳥

(ろく)、陸!」


 ゆさゆさと揺すって起こそうとする幼なじみの声がする。

 うーん……うるさいなぁ………すぅ。


「こら寝るなって、いい加減に起きろ!」

「……何だよぉー当麻、今日は休み、だろ…」


 陸は騒いでる当麻を尻目に寝返りを打つ。今日は土曜日で学校もない。ついでに両親も兄も今日は居ないはず。滅多にない休みで布団が恋しいのだ。

 枕に顔を埋めようとしたが、頬にあたるカサリとした感触と緑と土の匂い。


 んん?土の匂い?


 大好きなふかふかのお布団の感触はなく、柔らかな風と全身を包む草と土の香りに違和感を覚え、ぱちりと両目を開ける。


「陸、ようやくお目覚めかよ…」


 呆れたような声が真上から聞こえ、見ると当麻が覆いかぶさっていた。


「………なにこれ?」

「俺にもわからねーよ。お前と遊ぼうと思って部屋に入った途端ここに居たんだから」


 目の前にはどこぞの王子様かと思うほどサラサラの亜麻色の髪と優しげな薄茶の瞳、少し高めの鼻梁は陸の鼻に触れそうな程近い。

 こいつは小暮当麻、小学生からの幼なじみだ。

 母親がフランス人で、その母親に似た当麻は昔、フランス人形みたいに可愛い顔をしていた為悪ガキ共に虐められていたが、俺が颯爽と駆けつけていつも助けてやったもんだ。………今じゃあでかい図体になって可愛くなくなったが。


「いや、そっちじゃなくて近いよ」

「ん?そうか?」


 昔から距離感がおかしかったが、この数年は輪をかけて酷くなった。が、じわじわと距離を詰められているせいか、ただのスキンシップとして処理をしている陸である。


 そんな事より、当麻の後ろに広がる青空だ。

 なぜ青空が広がる?僕は自室で寝ていたはずだ。部屋だ。屋内だ。屋根が吹っ飛んだのか?いや、僕の後ろには地面がある。

 ならば答えはひとつ。


「……外?」

「そうだな。むしろ森?」


 首を捻りながら当麻は答える。


「は?森?」


 何で!?

 その言葉に驚き、キョロキョロと視線を動かすと周りには木、木、木、たまに花や木の実が見える。


「ええ!?布団は!?布団はどこに行ったの!?」

「言うに事欠いてそれか」


 布団大事!日本人だもん!


「それよりどうする?もしかしたら異世界ってやつに来たのかもしれないぞ?」

「待って、この体勢で続けるの?いい加減退いてよ」


 さっきから吐息がかかる程の至近距離で会話をしているのだ。ちょっとくすぐったいんだよ。

 グイッと当麻を押しのけて体を起こし、改めて周りを見渡すと近くにはキラキラと光を反射させる泉があり、ファンタジーに出てきそうな派手な色の蝶がこれまた豪奢な花に止まっていた。


「陸が寝こけてる間に周囲を見て回ったけど何も無かった。ずーっと森だな」

「……僕まだ寝てるんだ。ファンタジーな夢を見てるんだ…」

「逃避するな。現実だ」


 いやいやいや、何言ってんの。むしろあっさり異世界とか当麻こそ何言ってんの。じとっと睨めつけていると、当麻がガサゴソと茂みに手を突っ込み、何かを掴んでいるようだ。


「そんな陸に見せたいものがある。これを見れば異世界だって納得するな」

「きゅうっ」

「は?」


 ごそりと取り出したのは黒とシルバーの縞模様の小さな仔犬。

 くりくりのお目目が上目遣いで僕を見ている。

 か、可愛いぃ…って、ダメダメ!当麻はいつも捨て犬や捨て猫を拾ってくるんだから!


「仔犬?え、また拾ってきたの?ダメじゃん元いた場所に返してきなよ」

「あー、こいつ親がいないんだってさ。ワイバーンと戦って死んだらしい」

「ええ?じゃあこの子1人なの?でもこの状況じゃあ僕達だって食べ物にも困るのに…」

「いや、陸、そこじゃない。こいつの額を見てみろ」

「ん?……骨?角?なんかあるね」


 ふさっとした額の毛の中に微かに見える白い突起。


「角がある狼なんて如何にも異世界らしくないか?こいつの種族はアルブコルヌルプス。白いツノの狼って意味らしいぞ。こいつはまだ生後半年くらいだな。成長したら体長4~5メートルになるらしい」

「でかっ!―――――って何でそんなに詳しいの!?」

「ん?書いてあるぞ?」

「どこに!?」


 ここ。と指さしたのは何も無い空間。

 ああ、とうとう当麻がおかしくなったのか…と、遠い目をしたらペチリと頭をはたかれた。痛い。


「鑑定って言ってみ」

「鑑定?」


 はあ?と聞き返した僕の目の前に突然画面が現れた。ポコンという間抜けな音と共にゲームのステータス画面のようなものが。


「うわぁ!?何!?」

「スキルだよ。自分自身も鑑定出来るぞ。んで、わからない単語を鑑定すると詳細も出る」


 驚きにのけ反った僕に淡々と説明してくる当麻。多分僕が寝ている間に色々試したのだろう。

 ん?というか僕を起こす前に辺りを散策したって言ってたよな。もしかして僕が起きる前に何かあったのか?

 それにしても鑑定画面に書かれている情報に異世界感が満載なのが…さすがに現実逃避もここまでかぁ。んん?種族平均寿命が800歳?すげぇ長生き。あ!魔法使えるの!?ふむふむこの子は火が得意とな。ほうほう。へー。


「こら。俺を無視するな」

「おお?」


 頭を掴まれてぐいっと強制的に当麻の方へ向けられると、当麻の鑑定も頭の上に現れた。


 名前 小暮当麻

 年齢 16

 種族 人族(超人)

 Lv 3

 HP 6539

 MP 85330

 属性 全属性(水・火・土・風・聖・闇・無)


 固有スキル

 全魔法習得Lv Max

 異世界言語習得

 鑑定Lv Max

 全属性魔法攻撃無効

 物理攻撃無効

 状態異常無効

 インベントリ

 隠蔽

 生活魔法


 ユニークスキル

 物理・精神掌握Lv 3


 加護

 戦女神アルナの加護

 鍛冶神ドカティの加護


 称号

 異世界の勇者

 手作りの達人

 永月陸の守護者

 永月陸の婿(仮)



 ぶっふぁ!何だこれ!?つーか最後のなんだよ!?婿(仮)って!


「だよなー。仮じゃねーよな」

「そこじゃねぇ!」


 なんか色々ツッコミどころがあるけど!婿(仮)が一番イミフ!

 ………ん!?じゃあ僕の称号って!?


 陸は恐る恐る自分自身を鑑定してみる。




 名前 永月陸

 年齢 16

 種族 人族(?)

 Lv 1

 HP 100

 MP 500

 属性 愛


 固有スキル

 異世界言語習得

 鑑定Lv 5

 インベントリ

 神級の癒し

 生活魔法


 ユニークスキル

 ルーレットLv 1


 加護

 癒しの神ラファの加護

 愛の女神エンジーの加護


 称号

 異世界の渡り人

 世界を癒すもの

 世界を魅了するもの

 小暮当麻の嫁(仮)


 やっ、やっぱりぃぃぃ!!なんで嫁!?僕が何をした!

 つか全体的におかしい!!つっこみきれないよ!!

 陸が地面に手をついてガックリと項垂れると、先程の狼の子供が慰めるようにぺろぺろと手の甲を舐めた。


「お前…ありがとうな…」

「きゅうっ」


 その仕草にホッコリした陸は狼の子供の頭を撫でてやると、狼の子供は嬉しそうに返事をした。


「ちなみに」


 ほのぼのしていた空気を容赦なく叩き割るのは当麻。

 ぺろぺろと陸を舐めていた狼の子供にピリッと神経を尖らせつつも茂みからもう一匹取り出す。


「ここにもう一匹」

「マジか」


 首根っこを掴まれてぷらんとされるがままの狼の子供。最初の子より毛色が薄い。茶色とシルバーの縞模様だ。若干ぷるぷると震えながら涙目なのは気の所為だと思いたい陸である。


「…なんか可哀想だから離してやれよ…」

「ん。」


 パッと手を離すと、子狼は素早く陸の元に駆け寄り、正座していた太股にうりうりと頭を擦り付けてしがみついた。


「かっ…かわいい…」


 ちっこいモフモフがぷるぷる震えながらすがりついてくる様子に呆気なく陸は落ちた。


「よしよし、僕がお前達を守ってやるからな。怖がらなくていいんだぞー」


 2匹同時に抱えて小さなモフモフに顔を埋める。

 ふわぁ〜気持ちぃ〜ふわふわのもっふもふだぁ。

 子狼も嬉しそうにきゅうきゅう鳴くので、夢中になってぐりぐりすりすり。その間当麻の目がどんどん鋭くなる。


「陸、そいつ等はお前を守るために()()()()()()飼うんだからな。お前が一番に優先するのは俺だぞ」


 隠す気のない嫉妬に、陸は思わずプッと噴き出す。


「はいはい、当麻は相変わらずだなぁ」


 出会った当初から同じ台詞を何度となく繰り返し陸に言い聞かせるその姿は、酷く子供じみていて陸の庇護欲を掻き立てる。

 最早刷り込みと言っていい程陸の目には、小さい頃のか弱くてぷるぷると震えていた美少年当麻に今の王子当麻が重なる。

 ついつい微笑ましくなって、陸も同じ台詞を口にする。


「昔から言ってるけど、僕は当麻とずっと一緒にいるから心配するな!僕の1番は当麻だよ!」

「ありがとう陸、じゃあ結婚しようか」

「う………っておい!あっぶな!何言ってんの!?」

「チッ……」

「僕を引っ掛けようとするな!まったく!承諾したら(仮)なくなりそうで怖いわ!」

「で?こいつら飼うんだろ?名前どうする?」


 黒とシルバーの縞模様の子狼と茶色とシルバーの縞模様の子狼に指をさしながら話を逸らす当麻に、陸は呆れながらも得意そうに胸をはる。


「もっちろん決まってんじゃん、タロとジロだよ!」

「南〇物語?」

「当たり〜。黒い方がタロで茶色の方がジロだよ」


 名前を付けられた2匹は嬉しそうに尻尾をふりふりと振り回す。


「よし、ステータスは変化したかなー?」


 ポコン


 名前 タロ

 年齢 0歳(6ヶ月)

 種族 アルブコルヌルプス

 Lv 1

 HP 400

 MP 600

 属性 火・無


 固有スキル

 威嚇

 噛み付き

 火魔法攻撃無効

 インベントリ


 加護

 小暮当麻の加護(仮)


 称号

 永月陸の息子(仮)



 名前 ジロ

 年齢 0歳(6ヶ月)

 種族 アルブコルヌルプス

 Lv 1

 HP 250

 MP 700

 属性 風・無


 固有スキル

 威嚇

 噛み付き

 風魔法攻撃無効

 インベントリ


 加護

 小暮当麻の加護(仮)


 称号

 永月陸の息子(仮)



「………ん?え?何これ?」

「あー、(仮)はまだ無くせないな。陸の守りたるペットになったら(仮)は外してやるよ」

「きゅっ」

「きゃふっ」

「いやいやいやいや!違う!色々違う!」

「あ、忘れてた。陸、インベントリの中身確認しろよ」

「流すなよ!」

「どうやら異世界に飛ばされた時に色々入れてくれてるみたいだぞ」

「聞く気ないな!何でお前が加護与えられるんだよ!何で僕の息子になってんの!?」

「はいはい」

「聞いて!」

「異世界だから。それが全てだ」

「むあああっそれ言われたらなんも言えないじゃん!」


 モヤモヤが晴れず悶える陸は仕方なくインベントリの中身を確認した。どうせ今は答えなど出ないのだ。先に進まなければ何も出来ない。


 ポコン

 インベントリ

 →永月陸の家


「……えーと。これは…家が入ってるの?」

「へえ。出してみろよ」

「んと、こうかな?」


 何となく目の前の広い場所に向かって取り出すイメージを浮かべると、ドスンと重い音が響き、陸の見慣れた生家が現れた。

 見慣れた木の塀と母親が放置した庭、物置は100人乗っても大丈夫な大きめのやつ。建物だけではなく敷地全部がインベントリに入っていた。


「………」

「確かに陸の家だな」

「地球の日本の僕の家だね…ほんとにここ異世界かなぁって気になるのは僕だけでしょうか…」

「魔法使ってるだろ」

「いや、そうなんだけど…ラノベ系だと衣食住に苦労してチートでもって解決していくってあるじゃんか。住み慣れた家がインベントリに入ってるなんて思わないじゃん。これでも結構異世界の厳しさとか覚悟しようとしてたのに…」


 異世界をある意味堪能しようとしたのにこの日常感。住むところってでかいんだなぁと虚ろな目で自分の家を眺めた。

 神様ー。気を遣いすぎじゃないですかー?不自由が少なすぎて驚くわ。


「家の中はどうなってんだろうな?完全に再現されてるのか?」

「どういう意味?」

「まさか地球の家をそのまま持ってきてるわけじゃないだろ。だったら再現度の高い別の建物の可能性の方が高いだろ?」

「そっか、そうだよね。建物だけじゃなくて塀から外の物置や庭まで一式無くなったら大騒ぎだし」

「ああ、漂〇教室な」


 とにかく中に入ってみよう。

 タロとジロは庭にでも行っておいで。うんうん楽しそうに走り回ってる。


 カチャリと玄関の扉を開けると当麻のスニーカーが置いてあった。


「あ、俺が今朝履いてきた靴だ。ラッキー」


 未だパジャマの陸と部屋にいた当麻は靴を履いていない。室内にいたから当然なのだが、現代っ子の2人にとっては裸足で地面を歩くなんて無防備なことはしたくなかった。

 森の中は柔らかな下草が生えていたのでまだ良かったが、これから人がいる村や里を探さなければならない為必須アイテムだ。


「当麻の靴があるってことは僕のも下駄箱にあるのかな?」


 パカッと開けると陸の靴の他にも両親や兄の靴もそのままの状態で置いてあり、玄関だけ見てもそっくりそのまま再現されている事がわかる。


「おおー、この分だとこの家の中全部がそのままってことだよね!」

「よし、じゃあまずは腹ごしらえだな。腹減ったわ」

「待って待って、足拭きたい!草の汁付いちゃうよ!」


 緑色に汚れた靴下のまま玄関を上がろうとした当麻にストップをかける。


「当麻は靴下脱いで洗面所から濡れタオル持ってきてよ」

「はいはい」

「むっ、誰が掃除すると思ってんの?」


 実は家の中の事は殆どと言っていいくらい陸がしていた。

 父親は会社員、母親は看護師とあまり家にいる時間が無く、必然的に子供達で家事をするのが当たり前となった。

 小さな頃は5歳離れた兄と一緒に分担していたが、兄の大学受験あたりから陸が率先して家事の一手を引き受けた。

 さすがに受験生に家事をさせるのは可哀想だからと思い、掃除、洗濯、食事の用意と、ある意味主夫歴の長い陸である。


 ペタペタと濡れタオルを持って戻ってきた当麻は、


「ざっと見てきたけど何も変わったところ無かったな。普通に水もお湯も出るし電気も使えるぞ」


 見える範囲を確認してきたようだ。


「どういう仕組みだろ?」

「さあ?神様の粋な計らいってやつじゃねーか?」


 陸は足の裏を拭き取り、洗面所で手を洗ってからキッチンへと向かった。

 同じく当麻も陸の後ろを着いて歩き、冷蔵庫を覗く陸の後ろで同じく冷蔵庫を覗き込む。


「トマトソースあるじゃん。あれ作ってよ茄子と挽肉のパスタ」

「ボロネーゼ?」

「そうそう、そんな名前」

「じゃあ当麻はサラダ作ってよ」

「おう」


 陸は換気扇を回し、引き出しからフライパンと鍋を取り出してガス台に置き、パスタを茹でながら茄子と挽肉を炒める。

 このガスも一体どこからきているのだろう?と疑問は尽きないが、あっという間にボロネーゼを作り終えた。その間サラダを作っていた当麻も皿に盛り付け終わり、陸と自分の分の飲み物とフォークをダイニングテーブルに設置している。


「ありがとー当麻。こんな時に思うことじゃないけどさぁ、当麻にも家事を教えといてよかったと思うわ」


 出来上がったボロネーゼを皿に盛り付け、向かい合わせで座って食べ始める。


「そうだなぁ、陸程じゃないけどまあまあこなせるしな。協力して家事も育児もやろうな」


 ふわりと王子様スマイルを浮かべる当麻に「うん」と言いかけたが、ちょっと待てと口を閉じる。


「……育児?」

「育児だろ」

「………なにが?」

「タロとジロはまだ生後半年だろ?立派な成犬ならぬ成狼に育てなきゃな」

「いや、まあ、そう言われればそうだけど」

「庭に狼小屋作らないとな。木材はこの辺の木でも切るか」

「小屋作りは頼んだ。あっタロとジロは何を食べるんだろ?」

「生肉か?生後半年ならもう普通に食べられるだろ」

「生肉……」

「ひと狩りいこうぜ」

「それ言いたいだけでしょ」


 しかし現実問題、冷蔵庫の中身やストックされている粉物や乾物等の食材が無くなれば某狩りゲームのように現地調達をしなければご飯が無くなる。衣食住の衣と住は確保出来たが食は心許ない。

 覚悟を決めてひと狩りしなければいけないのか…。そもそも狩りに成功したとして誰が解体するんだ?こちとらパックに入った生肉しか見たことないよ。


「とにかく獲物を狩ってこよう。あの2匹ならそのまま齧り付くんじゃないか?あれでも狼だし」

「そんな簡単に言うなよ…」

「大丈夫、大丈夫」


 食事を終え、Tシャツと動きやすいようにジャージに着替え、庭にいる2匹に森を探索することを告げると着いていきたそうに悲しげな顔をする。子狼のうるうる上目遣いヤバい。語彙力が無くなるくらいヤバい。

 きゅんきゅんと鳴く声にやられ、離れないように言い聞かせてから皆で行くことになった。

 麦茶の入った水筒と軽食を持って少し歩くと、当麻が皆を手で制す。


「ちょっと離れてろ。木材の調達するから」

「あれ?何も持ってきてないよ?そもそもナタとかノコギリとか家に無いし。どうするの?」

「ここは異世界だぞ?魔法があるじゃん」

「あーー、そういえばそんなのあったね」


 徐ろに手を木の幹の近くに寄せ、掌から何かを飛ばした。

 ひゅんっという風きり音がしたと思ったら根元からズズっと斜めにズレ始め、唖然として見ている隙に切った木が消えた。


「ふえ?」

「風魔法で切ってインベントリにしまったんだよ。これなら倒れる前にしまえるな」


 そう言って同じ作業を何度か繰り返し、静かに木を集め終えた。


「お前ってチートすぎるだろ…う、羨ましくなんかないんだからね!」

「そうか?」


 クソっ平然としやがって!僕だって魔法使いたいよ!!


 そこで陸は思い出した。ユニークスキルなるものを。


「そういえばルーレットってスキル何だろ?」

「試してみるか」

「ルーレットって言ったら出るのかな?」


 ポコンという音と共に空中にルーレットが現れた。

 何も書かれていないマスが3つとダーツの矢が1本、真ん中に突き刺さっている。


「ルーレットでたな」

「うん…ルーレットだ」


 まさかまんまルーレットだとは思わなかった…。


「あれ?当麻にも見えるの?」

「ああ、見えるな。ほら、俺お婿さんだし」

「いやいや、婿じゃねーし」

「称号に書いてあるだろ?」

「にしても(仮)だし」

「(仮)なんて直ぐに無くしてやるよ。とにかく家族のくくりに入ってるだろ。だからじゃね?」

「なんか不穏な台詞が聞こえた気がしたけど。そっか家族ねぇ。じゃあタロとジロにも見えるの?」

「「きゅうっ」」

「見えるみたいだな」

「でも真っ白だね。何も書かれていないよ」

「【鑑定】…欲しい物を思い浮かべるとルーレットに記入されていくみたいだな」

「欲しい物?食べ物とか?飲み物とか?」


 ポコン

 ・米10kg MP50消費

 ・塩5kg MP20消費

 ・オレンジジュースコップ1杯 MP10消費


「……選択肢でたな」

「…………うん……」

「米食いたかったのか?」

「うん…無いと困るし……何だろ…嬉しいけど複雑…いや、凄い便利なスキルだよ…異世界ってなんだっけ…」

「まあ、チートだよな。ほら、やってみろよ」


 真ん中に突き刺さっていたダーツの矢をポンと抜き、陸に手渡す。

 すると的は自動的にくるくると回り始め、スススッと距離にして3メートル程離れると、自身の足元には赤い線が引かれた。

 ここから投げろってことか。


「へぇ、自動で回るんだ。陸、何狙いで行く?」

「うーん、米かなぁ。インベントリに入れれば重くないし」


 狙うは米10kg!

 片目をつむり、狙いを定める。

 正直なに当たっても嬉しいから気楽に投げよう。


「ラ・イ・ス!ラ・イ・ス!」

「パ・ジェ・〇!みたいに言うな!気が散るわ!」


 ついツッコンでしまったが自分の頭の中にもドララララっと銅鑼?の音が鳴る。

 確かふわっと投げた方がいいんだっけ? えい!


 どこかに矢が当たった的は、ゆっくりと止まる。

 当麻がダーツの矢を確認しに行くと、塩5kgに当たっていた。


「残念、塩だ」

「うーん、当てるの難しいなぁ。塩も嬉しいから問題ないけど」


 景品はどこから出るんだ?とキョロキョロしていると、ルーレットがパカッと開き、伯〇の塩が鎮座していた。


「ここからかよ」

「まあ、そこしかないよな」


 理想を言えば幻想的にふわっと現れて欲しかった…。

 出てくるのが伯〇の塩ってところがなんとも言えないけど…。


 ルーレットの中から当麻が塩を取り出すと、的はふわっと消えていった。

 なんか悔しい。何がとは自分にもわからないが。


「MP切れないように注意しろよ。0になると気絶するからな」

「え?そうなの?」

「ああ、でも毎日ギリギリまで使ってMP増やさないとな。ルーレットで必要な物集められるし一石二鳥だ」

「うーん、当麻何か欲しいものある?」

「いいのか?」

「まだMPに余裕あるし【ルーレット】」

「……じゃあ遠慮なく。ラブグッズ1ラブグッズ2ラブグッズ3」

「は?」


 現れたルーレットには同じくラブグッズ123各MP消費は一律100の文字が記入されている。


「よし!」

「え?」


 すかさず当麻はダーツの矢を抜き取り、呆然としている陸を置いてサクサクと進めている。

 見事ラブグッズ3が当たり、的の中から取り出しているが、箱に入っているため陸には中身がわからなかった。何せ素早くインベントリにしまい込んだのだから。


「え、は?ええ?」

「ありがとう陸。使う日を楽しみにしててくれ」

「はあああ!?」


 ここで陸は勘違いをした。

 ラブグッズを当麻が女の子に使う日を楽しみにしててくれと宣言されたと思ったのだ。

 このイケメンが!自慢か!?自慢なのか!?


「上等だ!受けて立つ!」


 陸は思った。僕だってこの世界だったらモテるかもしれない!と。

 地球では恋愛をする隙もなかったがせっかくの異世界だ、僕だって彼女欲しい!

 ラブグッズなるものが何かはわからないが、多分いやらしいやつだ。中身が想像すら出来ないけど当麻に負けるわけにはいかない!


「僕だって使う日を楽しみにしてるよ!」


 自滅しているとは思いもしない陸は、凄くいい笑顔の当麻に向かって叫んでいた。くだらない言い合い(本人談)をできることが陸は嬉しかった。



 彼は後にこの事を後悔するのである。それはまた別の話で…。


 とりあえず異世界にきたけど全然苦労しなさそうな予感に陸は思う。


 父さん、母さん、兄ちゃん……僕が居なくてもきちんとご飯食べてくれよ……と。




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