第53話 ランク不問の依頼
カランコロン
ハーディとキースは城塞都市メルギーヌの冒険者ギルドにやって来ていた。
昨日「ドーラの海賊亭」の女将であるドーラから様々な情報を得ていたが、一番気になったのはヴァンパイアの存在であった。
ハーディとキースは冒険者ギルドの中を見まわした。
さすがに城塞都市メルギーヌの冒険者ギルドだけあって、中はかなり広い。それでも冒険者たちがごった返しており、素材買い取りカウンターや依頼受付カウンターには冒険者たちが幾人も並んでいた。
とりあえずハーディとキースはカウンターまで行かずに、カウンター手前の壁に貼ってある依頼書の掲示板を見に行った。
「さすがに依頼が多いな・・・」
「多くは迷宮での素材探索依頼だな」
キースの確認した通り、多くは迷宮で発見される素材の持ち帰りを依頼する内容がほとんどであった。
いくつかの依頼書には迷宮の指定があり、迷宮の場所も書かれている依頼書もあった。
「場所も指定なんだな」
「その迷宮でしか手に入らないのかもしれないな」
ハーディとキースはその依頼書を見ながら必要な内容を読み解いていく。
「んっ?」
「どうした、ハーディ」
「これを見てくれ」
ハーディが指さしたのは1通の依頼書であった。
「ランク不問・・・?」
ギルドの依頼書に置いてランク不問というのはとりわけ珍しい部類に入る。
ランクとは、その依頼をどのレベルの冒険者が受けていいのか示す指針であり、誰が受けても大丈夫な簡単なレベルの作業であっても、ランクはFランクとして処理される。
逆に不問ということは、誰でも受けられる代わりに、その内容についてギルドが精査できないことを示していると思われるのだが・・・。
「面白いな、コレを受けてみよう」
「受けてみようって・・・コレ、受けてもランクポイントにならないのかなぁ?報酬が銅貨3枚。激安だな、この案件。それでいて、なんか小難しそうな薬草の名があるけど、大丈夫なのか?」
キースはハーディがなぜこの依頼を受けようとしているのか推し量れなかった。
「この薬草、依頼書にも書いてあるが、北の山奥に多少生育している程度で、結構希少なようだ。だから、この銅貨3枚の依頼料では誰も受け手がいないだろう」
「受け手がいないだろう、で、なんで俺たちが格安の仕事受けるわけ?」
「この下の文言を見ろ」
「ん~、なになに・・・亜人種等の人間族以外に偏見の持たない方の受理を希望・・・とあるな。どゆこと?」
「どう見ても、人間種以外からの依頼に思えて来るだろ? でもって、北の山奥の噂には・・・」
「ヴァンパイア!」
「シ―――――!! 声がデカい!」
周りの冒険者たちがジロリと睨みをくれる。
「可能性はある。それに、鬼が出るか蛇が出るか、はたまた天使が出て来るのか・・・」
「なにそれ?」
「ん?まあなんだ、何が出て来るのかわからない時に使うことわざだな」
「ハーディは物知りだねぇ」
「はっはっは」
乾いた笑いを浮かべるハーディ。無意識下で竜の叡智が発動し、古いことわざなどの変な知識が出て来てしまっているのである。
とりあえずそのランク不問の依頼書を持って、依頼カウンターに並ぶ。
「この依頼受理を頼む」
やっとハーディたちの番が回って来たので、受付嬢へ依頼書を渡す。
すると、見る見るうちにその表情が曇って行き、不機嫌そうになる。
「冒険者タグを提示して下さい」
ジロリと睨にながら冒険者タグを出せと言う受付嬢。
ハーディとキースは黒い「Fランク」のタグを取り出し、ギルド嬢に渡す。
「Fランク・・・!最下層の底辺冒険者が何をトチ狂って・・・、あ。検索したら、貴方勇者ゴッコに明け暮れている<小鬼殺し>のハーディさんじゃありませんかぁ!」
やたらと大きい声で馬鹿にしたような説明を付けるギルド受付嬢。
周りでハーディたちの装備に目をやっていた冒険者たちがけたたましく笑い出す。
「ギャ――――ッハッハ! 勇者ゴッコはおもしれーかよ!」
「小鬼殺しさんも大変だなぁ、おい」
「恰好だけは最高に勇者してるぜぇ!」
ギルド受付嬢の声を皮切りに多くの冒険者たちがハーディとキースを馬鹿にし出す。
「て・・・!」
キースが激昂しそうになるのを肩を抑えて止めるハーディ。
「それで、受理は行ってもらえるのだろうか?」
笑い声を無視して話を進めるハーディにカチンと来たのか、ギルドの受付嬢は肘を付いて依頼書をピラピラと振り始めた。
「すみません、こちらの内容、ちゃんと理解されましたか?」
「そのつもりだが?」
平然と言い放つハーディに受付嬢の表情が険しくなっていく。
「ランク不問と言う事でFランクの底辺冒険者の貴方がたは飛びついたんでしょうけど、目的の場所は理解されてますか?」
「北の山奥と記載されているな」
「希少な薬草の採取とありますが、理解されていますか?」
「うむ、ある地域しでしか取れないと表記があるな。親切な事だ。その場所が北にある山の奥地の事だろう。理解している。それに薬草の見極めについては以前にギルドで購入した薬草大全に乗っていたので問題ないと考えている」
「北の奥地は凶悪な魔獣が出る事で有名ですが?」
「奥地ともなれば、それなりにモンスターも強力になるのだろう。理解している。」
「その割に報酬が銅貨3枚ととても少ないのですが」
「うむ、理解している」
「亜人種に偏見を持たぬ人希望・・・と、とても怪しい記載もありますが?」
「うむ、理解している。特に亜人がどうとか、種別で色眼鏡を持つつもりはない」
「アンタ、バカ?」
ついに受付嬢がキレたのか、会話のキャッチボールを諦めた。
「馬鹿とは失礼ではないか?初見であろう?」
「勇者ゴッコの<小鬼殺し>なんて、初見だろうと馬鹿確定何だけどね! この依頼は依頼人としての抵触には当たらないから受理してるけど、明らかに怪しいから、誰も受けない様に説明を濁しているのよ! 分かれよ、バカ!」
ついには立ち上がって右手人差し指を真っ直ぐに突きつける受付嬢。
「だが、それはそちらの言い分だろう。こうして依頼受理の要件が整っている以上、それを拒むと言うのはどうかと思うのだが?」
「何ですって!」
気色ばむ受付嬢に味方すべく、周りの冒険者たちが集まって来る。
「ノンちゃんの心使いがわからねーようなやつは、オシオキが必要だよなぁ?」
「まったくだ」
ガタイのいい男たちが4~5人やって来てハーディたちを取り囲む。
キースは少々ビビり気味だが、ハーディは意にも介さない。
「フォッフォッフォッ、相変わらずじゃのう、ハーディ殿は」
重厚なローブに身を包んだドワーフが受付カウンターの後ろから現れた。
「ゴーン様、一体どうしたのですか? わざわざカウンターまでお越しになられますとは・・・」
受付嬢が戸惑う。無理もない、このゴーンは冒険者ギルド職員全体の中でも僅かしかいない、Aランクの鑑定士であった。ギルド内でも要職につき、鑑定は元より、様々な仕事の監査も行う立場にあった。
「ドワーフ殿、どこかでお会いしたことがありましたかな?」
ハーディは会った記憶が無かったので首を傾げた。
「フォッフォッ、お主とは直接顔を合わせておらんよ。だが、お主が助けた村の者達を知っておるだけじゃよ」
「助けた村・・・?」
さらにハーディが首を傾げたので、仕方ないといくつかキーワードを描いて行く。
「ワイルドボアのキバじゃろ・・・ファイアードレイクの牙と頭じゃろ・・・後サーベルウルフとブレードタイガーの牙の買い取りもあったのう。しかもみーんなギルドへの依頼をキャンセルしておったわい。ギルドマスターが落ち込んでおったのう、フォッフォッフォッ!」
高笑いし出すローブ姿のドワーフ。
「ああ・・・」
そしてハーディはやっと思い出す。
どの村にこのドワーフがいたのか、やっと理解できたのである。
「いやはや、アレは傑作じゃった。どの村もお前さんのおかげて春からの資金に余裕が持てて大変助かると言っておった。お前さんの狙い通りじゃよ」
「それはなんのことだか」
惚けるハーディを見ながらさらに高笑いするドワーフ。
「ワシはドワーフ族のゴーンじゃ。冒険者ギルドでAランクの鑑定士をしておる」
「ハーディです。Fランクのしがない冒険者ですよ」
ドワーフのゴーンがゴツい手を出して握手を求めてきたので、苦笑しながら手を握った。
「お前さんがしがない冒険者なら、この辺の連中は3どころか、2も無いわ! ・・・いや、どんな冒険に出かけても、「死が無い」から死なずに帰って来るってことかのう?」
「おっ! ジーサンうまい事言うね!」
金髪を揺らしながら腰を折り、背の低いゴーンに顔を近づけて笑うキース。
「なんと・・・二人目を見つけておったのか?」
「どうでしょう? 化けてくれるか不安なのですがね」
「あ、ヒデェ言いぐさだな!見てろ、今に俺だって・・・」
ぐむむと力を入れるキースを見て二人同士にぷっと吹き出してしまう。
「ところで、その依頼、やはり・・・かの?」
「ええ、見極めは必要でしょうね、とりあえず」
「フォッフォッ、これは僥倖。このギルドはツイておるわい。何せ勇者ハーディが見極めに出向いてくれるのじゃからな。ホレ、大至急受付処理をせんか。処理してしまえば、これはギルドからの正式な依頼じゃ。何か想定外の内容があっても、基本的には報酬は銅貨3枚じゃからのう、これほどギルドが儲かる話はないわい!」
これは愉快と馬鹿笑いするゴーンに苦笑するハーディ。
ゴーン師に急かされて慌てて受付処理を行う受付嬢。
処理が終わるとハーディとキースの冒険者タグを返却する。
「のうハーディ殿。冒険者ギルドからの強制依頼が発生するのは基本的にはBランクからじゃ。Cランクでないわけでもないのじゃがの。そんなわけで、別段Fランクに固定しておく必要もないのではないかのう?Cランクくらいであれば、受付嬢や冒険者たちもおいそれと勘違いをせぬであろうよ」
ハーディは少しだけ考える様に目を空中に彷徨わせたが、すぐにゴーン師に戻して返事をした。
「Cランクともなれば、基本報酬がそれなりに高くなりますからね・・・それにどんな貧しい村に行っても、冒険者ギルドのタグにあるランクは認識されますから、それに応じた報酬を用意しようと無理をさせてしまうかもしれませんのでね・・・。誤解を招くのは申し訳ないのですが、まあそのあたりはこちらとしては慣れておりますので」
頭を掻きながらそんなことを言うハーディ。
「カ―――ッカッカ!勇者にそんな事を言わすとは、冒険者ギルドも情けないのう!スマンの、ワシの教育が行き届かんばかりに」
「何をおっしゃいます。貴方のような腕利きの鑑定士殿がいらっしゃるから、討伐部位や魔物の買い取りで村の生活が潤うのですから。感謝しかありませんよ」
そう言って笑いながらハーディとキースは黒い冒険者タグを首に戻し、「それでは」とギルドを後にした。
二人が姿を消した後、受付嬢は恐る恐るゴーン師に声を掛けた。
「あのー、あの二人って・・・」
「ん? 本物の勇者じゃろうなぁ。常に貧しい村からの依頼を冒険者ギルドの依頼を受けずに処理して、ギルドへ依頼撤回を進めておる。そうすれば手数料だけ払って報奨金が戻って来るから、貧しい村は生活が助かるようになるんじゃ」
「で、でででもそれじゃギルドが儲からないのでは・・・?」
「ワシらギルドはそれなりに力がある。そんな貧しい村から儲けなくとも、迷宮であったり、金持ちの貴族だったりいくらでも稼ぎ口があるわ。勇者殿は、そう言った通常の流れから外れた、貧しくて苦しく、討伐依頼の報酬も高く用意できないような村を救って回っているのじゃ。どうせ、そういう村の依頼書は普通の冒険者では報酬の割があわんと受理せんわい」
「そ、そうですよね・・・」
「い、今勇者様が来たって!?」
けたたましく現れたのは副ギルドマスターのソウジェルであった。この男、どこかカマっぽかった。
「そーいういい男が来たなら、早く言ってちょうだいよぉ!見逃しちゃったじゃないの~」
現在このギルドのギルドマスター、ドーリアが所用で数日隣り町まで出かけているため、留守にしていたのである。そのため副ギルドマスターのいい男反応が普段よりもひどくなっており、受付嬢は辟易していた。
「ああーあ、早くギルドマスター帰って来ないかなぁ」
そう呟きながら、ギルドの玄関を見て、
「あの勇者様モドキも早く帰って来ないかしら・・・ゴーン様は勇者っていうけど、アタシが見極めてやるわ!」
と、不遜な雰囲気を醸し出すのであった。
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