第47話 キース、旅立ちの時
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「お母さん!キリングの花取って来たよ!」
トンヌラと村の薬師ザイラ婆さんを連れてアンナは自宅に戻って来た。
帰り道もトンヌラと走って戻って来たのだが、魔物に出会うことは無く些か拍子抜けしていた。
早速採取してきたキリングの花をザイラ婆さんに調合して煎じてもらう。
出来た薬を白湯で溶かして母親に飲ませていく。
苦しそうだった母親の呼吸が少しずつ落ち着いていく。
特効薬であるキリングの花は劇的な効果をもたらした。
「よかった・・・」
「本当によかったね」
涙ぐむアンナの肩に手を乗せてトンヌラも笑顔を見せた。
「ん・・・」
母親が目を覚ます。
「お母さん!」
アンナがベッドに横たわる母親に縋りつくように声を掛けた。
ゆっくり目を開けた母親は自分の娘であるアンナとその後ろにいるトンヌラを見た。
そして、再度娘に目を合わせる。そして娘の判断に気が付いた。
「・・・いいの?」
その一言でアンナは母親が何を言いたいのか察知した。
「・・・うん」
一瞬の躊躇の後、頷くアンナ。
「お母さんを治すために薬草を取りに行くのにトンヌラが力を貸してくれたの。魔物が出るからって森は立ち入り禁止だったんだけど、トンヌラと二人で言って来たのよ」
「大丈夫だったの!?」
慌てて上半身を起こそうとする母親。
「大丈夫だったよ、魔物なんて出なかったし」
そう言って母親の上半身を抑えて、まだ寝る様に伝える。
「・・・私ね、力を貸してくれたトンヌラと結婚することにしたわ」
「・・・そう。お前が決めたことなら、反対しないよ。幸せになりなさい」
「お母さん・・・」
「お母さん、ありがとうございます。トンヌラと言います。狩りで生計を立てています。あまり贅沢な生活はお約束できませんが、精いっぱいお二人を守っていきたいと思います」
「至らない娘ではありますが、よろしくお願いします」
丁寧に頭を下げるトンヌラに言葉を掛ける母親。
「幸せな挨拶をしているところ、悪いんだけどね」
空気を読まない様に薬師であるザイラ婆さんが口を挟む。
「お袋さんの症状が重かったからね、今回のキリングの花だと全快しないね。同じくらいのキリングの花でもう一度煎じた薬を飲んだ方がいいね」
「ええっ!?」
「ま、またあの森にキリングの花を取りにいかないといけないのか・・・」
「でも、魔物いなかったし、すぐもう一度行って来るわ!」
「そうだね」
すぐにでも行こうとする二人を遮る様にノックが響き渡る。
「誰だろう?」
アンナが自宅の扉を開けると、そこには村長が立っていた。
「村長?」
「ちょっとお邪魔するよ」
アンナが開けた玄関から室内に入って来る村長。
「カリナ、具合はどうだ?」
アンナは母親に村長が親密に話かけるのを不思議に見ていた。
「ええ、だいぶ楽になったわ。残念だけど、完治までにはもう少しキリングの花を煎じたくするが必要みたいだけど」
「あ、そうだ!早くもう一度取りに行かなくちゃ!」
「そうだね、早速行こうか」
立ち上がって家を出て行こうとする二人。
「その必要はないよ」
そう言って村長は懐からキリングの花を取り出しでザイラ婆さんに渡す。
「煎じてやってくれ」
「あいよ」
村長からキリングの花を受け取ると、手際よく煎じていくザイラ婆さん。
「そ、村長、何でキリングの花を持っているんですか! もし持っていたなら、私たちが森まで取りに行くことも無かったのに!」
声を荒げるアンナ。元々村にキリングの花の在庫が無かったから取りに行ったのだ。だが、キリングの花が採取して時間をあまり置かずに煎じなければ特効薬としての効果がないことをアンナは知らなかった。在庫としてあるわけがないのである。
「それから、これはお前たちの結婚祝いだ」
そう言って村長は懐からお金が詰まった革袋を取り出した。
テーブルにドシャリと置く。
「え、ええっ!?」
「すごい音がしたけど・・・」
慌ててアンナが袋の中を見ると、銀貨が山の様に詰まっていた。
「ど、銅貨じゃなくて、コレ全部銀貨なのか!?」
トンヌラも目を剥いて驚いた。この銀貨の山は自分の数年分の稼ぎに匹敵するだろう。
「こ、これは一体・・・?」
アンナはすぐには理解できなかった。
「お前達、森は魔物が出没して危険だから、立ち入り禁止だと言っただろう? 本当に魔物がいないとでも思ったのか」
やれやれといった感じで村長が首を振る。
その瞬間、アンナは全てを理解する。
自分たちが森に入っても一度も魔物に襲われなかった事。
村長がキリングの花の追加を持ってきた事。
なぜか自分に結婚祝いだとお金をたくさん持ってきた事。
そして、そのお金を村長が持ってきた事。
アンナは勢いよく立ち上がり家を飛び出して通りに出る。
「キース! キ―――――ス!!」
キョロキョロとあたりを見回しながら幼馴染の名を大声で呼ぶ。
キリングの花の予備は森の奥まで入った証拠。
たくさんの銀貨は森の魔物を倒して換金した証拠。
そのお金を村長が持ってきたという事は・・・もう、自分の前に姿を現す気がないという事。
彼は・・・キースは・・・勇者として旅立ってしまったんだ。
アンナの目から止めどもなく涙が流れる。
「キ・・・キース・・・、キース・・・」
村の入口の方を見つめるアンリ。
「アンナちゃん、君はキース君の事・・・」
いつの間にか家からトンヌラが出て来ていた。
流れる涙をそのままに、アンナはトンヌラの方を振り返る。
「・・・ううん。わかってたの。キースは勇者だから、私なんかふさわしくないって。いつか世界のために旅立っていくんだから、この村にずっといてくれるはずが無いって。私が我儘言って、こんな小さな村に縛り付けちゃいけないって」
アンナはずっとずっと幼い事から思い続けていたキースへの想いを心の底へ沈めたまま、一度も口にすることはなかった。言えば勇者キースの足を引っ張りかねないと思ったから。言えば、勇者キースの重荷になるかもしれないと思ったから。いつか、彼がこの村を旅出つ時に、とびっきりの笑顔で送り出すために。その思いは心の一番深いところに沈めて、絶対口にしない様にしよう。そう心に決めて生きてきた。
(でも彼は、私にここまでの事をしてくれた上に、ありがとうさえ言わせてくれることなく旅立ってしまった・・・)
トンヌラはそっとアンナの肩に手を添える。
「彼が世界のために旅立ってしまったとしても、彼の故郷はこの村だよ。みんなで少しずつこの村を良くしていこう。彼が帰って来た時に、胸を張って彼を迎えてあげられるように。彼が自慢の故郷だと仲間に自信をもって紹介できるように」
「・・・うん。たくさん、頑張らないとね!」
やっと涙を拭いて笑顔を見せるアンナ。
アンナとトンヌラは手をつないだ。
これから、この村で生きて行く。彼が帰って来た時に、胸を張って迎えられるように。
心の底から、ありがとうと伝えられるように。
その頃―――――
ハーディとキースは村を出て山道を歩いていた。
街道へ戻り、東へ行くのではなく、山道を選択していた。
森で魔物を狩り尽くし、ハーディの<異空間収納>で回収。その全てを冒険者ギルドの出張解体屋に持ち込んだ。
解体屋で引き取ってもらったゴブリン達の金額はなかなかのものだった。
特にゴブリンソルジャーたちとホブゴブリンはいい金になった。
その金とキリングの花の予備をすべて村長に渡してきたのだ。
「キース、もう行くのか?」
キリングの花と革袋にいっぱい詰まった銀貨を受け取り村長がキースに声を掛ける。
「ええ・・・、このまま村を出ます」
「皆には挨拶して行かんのか?」
「・・・はい」
少し目を伏せて答えるキース。
「お前には思うところもあるかもしれないが・・・、村のみんなはこんな日がいつか来ると思っておったよ。村の皆が素っ気ない感じだったかもしれないが、いつか旅立つキースがこんな小さな村に心を捕らわれたりしない様に、苦心した結果でもある・・・」
村長の言葉に思わず顔を上げるキース。
信じられなかった。自分が勇者として力を発揮出来なかったから村のみんなから呆れられて見捨てられているものだとばかり思っていた。
それが、自分が村を出る時に心残りが少しでも少なくなるように苦心してくれていたとは・・・。
キースは涙が止まらなくなった。
ハーディは思う。あんな勇者だなどと言う神託がなければ、きっとキースはこの村で明るく笑って生活できていたのではないかと。
この神託で誰も幸せになっていないのではないかとハーディは感じていた。
キースは涙を拭いて、村長に頭を下げる。
「ありがとうございました。ハーディと一緒に旅に出て、自分を鍛えてきます。自分に何が出来るのか、ハーディと共に世界を見てきます」
「キース。この村は君にとっては故郷だ。君がどれだけ立派になっても、ここは変わらず帰って来た君を暖かく迎えられるよう頑張っていくよ。だから、気兼ねなく世界に飛び出して行くといい」
「・・・本当に、ありがとうございました」
険しい山道を登って行くと、視界が急に広がる。崖寄りの道だったのか、木々の間から眼下に森が広がっている。そしてその中には出発してきたキースの故郷の村も見えた。
ふと、キースが足を止めて自分の故郷の村を見下ろす。
「何か言いたいことがあるなら、ここから村に向けて絶叫すればいいじゃないか。
もしかしたら届くかもしれないぞ?」
届くはずもない距離なのだが、あえて明るくキースに話しかけた。
チラリとハーディを横目で見てから、キースは眼下に広がる森の奥に見える故郷にむかって大声を張り上げた。
「アンナ―――――!! 大好きだったよ―――――!!」
キースの心の底からの絶叫は大空に染み入る様に掻き消えて行った。
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