第43話 思いを貫くための準備
なよっちい金髪少年キースの激白。
アンナを助けたい・・・その言葉が紛れもない真実であろうとハーディは察した。
「アンナを助けたい・・・ね。どういう事なんだ?」
「あう・・・」
どもるキースに代わって宿の親父さんが口を開いた。
「アンナはキースと幼馴染なんだ。昔からよく一緒にいたな。アンナの親父さんは腕のいい狩人だったんだが、数年前に亡くなっている。その後はお袋さんが苦労をしながら一人で育ててきたんだが、先日風土病に犯されてな、かなり具合が悪いらしい。この風土病は村の奥の森に咲く「キリングの花」を煎じて飲めば、劇的に回復が望めるんだが、その森に、ゴブリンとそれを率いる上位種の存在が確認されたんだ。すでに3名の犠牲者と2名の行方不明者が出ている。なので、森への立ち入りを禁止しているんだ。だから、アンリは少しでも腕のある人間と森に入りたいのさ、自分のお袋さんの命を救うためにな」
キースは俯き加減のまま両拳を握りプルプルと振るえさせていた。
ハーディは狩人の父親が死んで苦労するという話が結構多いのだなと独り言ちた。
冒険者もさることながら、狩人も危険な職業なのだ。
改めてこの世界で獣や魔獣と戦うという事に対して気を引き締めなければならないと自戒する。
「で? キースよ。君はアンナを守り切れるくらいの腕前があるのか? ゴブリンがどのくらいの集団でいるのか情報は? ゴブリンだけで、その他の種類はいないのか? ゴブリンアーチャー、ゴブリンメイジのようなゴブリンの上位種の確認は? 上位種の存在もあるとのことだが、それがホブゴブリンなのか、オークなのか、オーガなのか、どんな魔物か情報は?」
「あ、あう・・・」
「自分の武器は? 防具は? 森に入るための装備はどうだ?」
「あ・・・」
「自分で何をしたいのか、気持ちを強く持つことは良い。だが、自分で何もしなければ何も変わらないし変えられない。アンナを守りたいなら、武器や防具を用意して、腕を常に磨いて置き、この森に巣くう魔物どもの情報を収集しなければ。努力しなければ、君の希望はただの絵に描いた餅で終わるだろう。例えアンナと一緒に行ってもゴブリン達に返り討ちにあってしまっては大切なアンナを守るどころか、自分の命も無くしてしまうぞ」
「う・・・」
「あるのか? 武器が」
「敵の情報は?」
「・・・・・・」
「この村には冒険者ギルドの支店は元より、出張所も無いんだが、冒険者ギルドの出張解体屋だけはあるんだ。ギルドの依頼は受けられないが、素材の解体と買取だけはやってくれる。だからモンスターの情報だけなら入っているかもしれん」
黙りこくったキースに代わり、宿屋の親父さんが答えた。
「なるほど、じゃあ早速行ってみますかね」
そう言ったハーディだが、とりあえず奢ると言って宿の親父さんに出してもらったパンとサラダを口に頬り込む。
「さあ、キース君。幼馴染のアンナ君を守るためには情報は必須だよ」
「あ、うん」
むぐむぐとパンとサラダを口に押し込むと、キースも席を立った。
冒険者ギルドの出張解体所へ向かう途中、件のアンリ嬢を見かけた。
しかも・・・背の高い男と喋っている。
「一緒にキリングの花を取りに行ってくれるの?」
「ああ!一緒に行くよ。君一人に危険な真似はさせられない」
「これで母を助けられるのね!」
「だから、無事にキリングの花を取って来れたら、結婚しよう!」
「ああ・・・うれしいわ、トンヌラ!」
そう言って手を取り合うアンリと男。
「うーむ、トンヌラってなかなかの名前だな」
「あ、あう・・・」
ハーディがふと横を見ればキースが泣きそうな顔をしている。
それもそうか、自分が命を懸けても守りたいと思った女性が他の男にプロポーズされて、頬を染めているのだ。一言で言えば絶望か。
だが、今の会話でハーディは気になった。
これで母を助けられる、と。
トンヌラと呼ばれた青年はそれほどの実力を持っているのだろうか?
トンヌラとアンリは手をつないでこちらへ歩いて来た。
ハーディはまさかそのまま村の出口へ向かうのだろうか、などと心配になってしまった。
「キース、すまないけどどいてくれるかしら」
「僕たちはアンリのお母さんを助けて結婚することにしたよ」
嬉しそうに報告してくるトンヌラという青年。
「森の奥、キリングの花が咲く場所はモンスターが出て危険なため、立ち入りが禁止されていると聞いた。その危険を排除するだけの実力が君にあるのか?」
ハーディは鋭い視線を向けてトンヌラという青年に問いかける。
少し怯んだトンヌラという青年に代わり、アンリが噛みつく。
「なら、母を見捨てろって言うんですか! 勝手な事を言わないで!」
残念ながら、冷静さを失っている様子のアンリ。自分が立ち入り禁止の森へ碌な準備も無く入って行くという勝手な事をしている事にも気づいていない様だった。
「だが、貴女が森で魔物に殺されでもしたら、悲しむのは君の母親や幼馴染なのでは?」
正論を真正面からぶつけるハーディ。
「彼女の事は俺が守る。放っておいてもらおうか」
トンヌラという青年が一歩前に出る。
だから、守れるだけの戦闘力と情報が君にあるのかと問うている事を気づいていないようなトンヌラ青年。ハーディは彼に期待できないと判断した。
「もう行きましょう。苦しんでいる母に出来るだけ早く薬を煎じて飲ませてあげないと」
「そうか、早く出発しよう」
トンヌラ青年とアンリ嬢はハーディとキースを無視して村の出口へと向かって行った。
「あう・・・」
キースには止められなかった。彼女が自分の母親を愛している事を、苦しんでいる母親を救ってあげたいと思っている事に嘘偽りがないと知っているから。
だが、ハーディもまた知っている。力無き思いが無残に踏みにじられることを。思い込む希望が現実に打ち砕かれることが往々にしてあることを。
一歩、アンリを追いかけようと踵を返しかけたキースの肩を掴む。
「冒険者ギルドの出張解体所で魔物の情報を貰うのが先だ」
「う・・・」
泣きそうになっているキースに無理を言うのはきついものがあるが、無策で突入するのも危険だ。特にキースが戦えるかどうか不明なのだ。
ハーディはキースを連れて速足で冒険者ギルドの出張解体所へ向かった。
早く情報を集めて動かなければ、まず間違いなく手遅れになるであろう事を確信しながら。
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