第39話 勇者の在り方
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「やっべー、ゴブリン見つからねぇ!」
ハーディは身体強化で森の中を疾走していた。
<気配感知><魔力感知>で探ってはいるが、肝心のゴブリンがいない。
今日の夕方までには冒険者ギルドにゴブリン5匹分の討伐証明を出し、受理依頼を完了させなければならない。
「いたっ!」
なかなか見つからず少し焦っていたハーディは冒険者ギルドのある町から北に位置する比較的近い森でゴブリンを見つける事が出来たのだが・・・
「多いな!」
5匹の討伐で完了できるのに、見つかってしまったゴブリンの群れは集落を大きく作る200匹以上の大所帯であった。
「ギ、ギイ!」
「ギギーッ!」
10匹くらいの斥候だろうか、近づいたハーディに向かって襲い掛かって来た。
シュバババッ!
目にも止まらぬ速さで剣を振るうハーディ。
一瞬にしてばらばらになるゴブリン。
「とりあえず討伐部位の右耳を・・・」
なんでも、右耳でないと討伐証明にならないらしい。
どちらの耳でもOKを出すと、1匹で左右両耳だから2匹分の証明になってしまうかららしい。右耳のないゴブリンを仕留めたら、運が悪かったという事みたいだ。
とりあえず袋に回収して、<異空間収納>に収納する。
見れば、木を切り倒して広く場所を取り、粗末な小屋のようなものを建てて多くのゴブリンが集まっていた。
「5匹の討伐部位は確保できたし、もうゴブリンはいらないんだが・・・」
ハーディは少し考えるが、
「まあ、放ってはおけないか」
ハーディは大所帯のゴブリン達を見回す。
大柄なホブゴブリン、弓を装備したゴブリンアーチャー、杖を持ったゴブリンメイジらしき個体もうろついている。
「あまり時間も無いしな・・・一撃で決めるか」
ハーディは濃密な魔力を練り上げて行く。
「だが、使う魔法は上級だから、威力を抑えるために起動魔力だけにしておかないと・・・」
起動魔力というのはその呪文が発動する最低限の魔力である。
起動魔力があれば、呪文は発動するが、発動後のコントロールや呪文の威力を上げるためにはさらなる魔力を練り上げなければならない。
ハーディは起動魔力だけで膨大な魔力量が必要になる上級呪文を使用することにした。
上級呪文の方が広範囲な呪文が多く、殲滅しやすいと考えたからである。
「バロール・クレミエント・ゾルナ・フレベール! 大いなる淵界に沈む火炎の王よ。我が召喚に応じその豪炎を顕現せよ!」
ハーディの呪文生成に伴い、五つの火柱が立ち上がる。
「ギギーッ!」
「ギッ!ギッ!」
ゴブリン達が目の前に立ち上がった火柱にゴブリン達が慌てている。
そして5本の火柱は中央に収束するように空で繋がりさながら火炎のドーム状態となる。
「<業火爆炎陣>」
ドゴォォォォォン!!」
5本の火柱が空で結び合い、半円状のドーム結界となった中で荒れ狂う炎が大爆発を起こす。
呪文を解除して結界を解くと、辺り一面黒くくすんだ煙が立ち込め、焦げた匂いが鼻についた。
「よし、殲滅できたし、早くギルドに討伐報告をするか」
ハーディはすぐさまその場を去った。
・・・・・・
「な、なんじゃこりゃあ・・・」
巨大なゴブリンの巣が出来つつあるという情報を元に、調査依頼を受けだDランクパーティの冒険者たちは、その惨状を見ても理解が出来なかった。
原型をとどめず焼け焦げた建物らしき残骸、炭化するほど燃え切ったゴブリンの死体。
一応死体を解体してみたが、魔石すら燃え尽きていたり、黒く炭化してしまっていた。
討伐証明すらとれぬほどの熱量で焼かれたゴブリン達の死体。それが200以上は転がっていた。正式にわかりにくいのは、原形をとどめず、部位しか残っていないようなゴブリン達もいたからだった。
「よくはわからんが・・・大至急報告せにゃあ・・・」
パーティのリーダーは冷汗が止まらなかった。
・・・・・・
「すみません、ゴブリン討伐完了の受理をお願いします」
冒険者ギルドのカウンターに5匹分の耳が入った袋を取り出して渡すハーディ。
<異空間収納>とは見破られない様、マントの内側から取り出しているように見せていた。
「・・・ゴブリン5匹程度に随分時間がかかりましたね?」
対応したのは3日前にゴブリン討伐依頼を受理してもらったあのキツイ受付嬢であった。
「結局ゴブリンに遭遇して対応したのが今日になったのでね」
「じゃあ昨日一昨日と何をしていたんです? 依頼を受けておいて・・・」
「そう言ってやるなよ、勇者のカッコだけじゃ強くなれないんだからさ」
詰め寄る受付嬢に声を掛ける周りの冒険者たち。ハーディを擁護というよりは、からかい目的で声を掛けているようだ。
「ちょっと、いい加減にして! はいこれ、ゴブリン5匹分の褒賞ね」
対応した受付嬢の横にいた先輩受付嬢がゴブリン5匹分の報奨金をすぐに出してくれた。どうも奥からすでに準備して持って来ていたようだ。
周りの冒険者たちが嘲る様に笑っていると、奥からギルドマスターが姿を現した。
「お前、ゴブリンを狩って来たのか?」
「ええ、まあ」
「場所は?」
「北の森の奥ですが」
「!!」
ハーディのその説明ににわかに冒険者ギルド内がざわつく。
これは今まさに大きなゴブリンの群れが集まって来ていると報告のあった場所だからだった。
「他にゴブリンを見たか?」
「いいえ、私が帰る時にはゴブリンは1匹も見なかったですね」
「そうか・・・」
「おい、よかったな!あの森にはゴブリンの大群が住み着き始めてるって話だ。お前が見つかってたらすでに奴らのエサになっていただろうよ」
「ちがいねぇ」
また笑い出した男たちを尻目に、ハーディはさっさと冒険者ギルドを後にした。
そしてしばらくして・・・
「すみませんの、討伐依頼の取り下げをお願いしたいのじゃが」
見ればおじいさんと可愛い娘、護衛と思われる若い男性が3名の5人組がカウンターにやって来た。
「討伐依頼の取り下げ・・・ですか?」
「サーデの村で出しておりましたギガント・ボアの討伐依頼なんですがの、先日勇者様に退治頂きましてな、これが討伐証明部位ですじゃ」
そう言って老人が出したのはギガント・ボアの牙であった。
「他にも牙は全て揃っておるので、買い取りをお願いしたいのですじゃ」
そうして取り出した牙は一つも折れたり欠けたりしていない見事な物ばかりであった。
「は、はい・・・討伐依頼の取り下げですね。手数料を除いて依頼料を返金致します。また、ギガント・ボアの牙の買い取りですね・・・計算しますから少々お待ちくださいね」
先輩受付嬢が取り下げの手続きを行う。
冒険者ギルドに置いて、取り下げはあまり多くない。
特に討伐依頼は対象の魔獣が居なくならない限り被害が納まらないため、ほとんど取り下げというものは無かった。
「ゆ、勇者様が現れたんですか!?」
先輩受付嬢が処理受付をしているのに、横から口を挟んで来る受付嬢。ハーディにきつく当たっていた勇者好きの受付嬢であった。
「ちょっと!」
「ゆ、勇者様どんな感じでしたか?」
注意されても前のめりに勇者の事を聞こうとする受付嬢。
「どうと言われましても、赤い髪に青い目をしたとても素晴らしい青年でした。白銀の胸当てに真っ赤なマント、大きな剣を背中に背負っていましたな」
「見事にギガント・ボアを倒して頂きましたし、その肉も毛皮も全て村に譲って頂けましたし、何より、冒険者ギルドの討伐依頼を受けてきたわけではないからと、討伐報酬も受け取らないと申されまして」
「勇者様、何て素敵なんでしょうか・・・」
一人で愉悦に入っている受付嬢を無視してギルドマスターが声を掛けた。
「ギルドの討伐依頼を受けてきたわけではない、そう言ったのですか?」
「そうなのです、ギルドの依頼を受ければ、ギルドから達成報酬がでるのではと言ったのですが」
「それでは、ギルドから報酬を受け取れることが分かっていながら、それでも依頼受理を断ったという事ですか」
「そうなんですじゃ。ギルドにはあまりいい話ではないかもしれませんが、依頼取り下げを行えば手数料だけで費用が返却されるから、その費用は村の運営に当てるべきだと・・・」
「なんと・・・」
ギルドマスターは勇者と呼ばれた男のやり口に少しばかり難しい顔をする。
「どうしたのですか?ギルドマスター」
先輩受付嬢は表情の曇ったギルドマスターに声を掛けた。
「うちも勇者様にギルド登録をしていただけらた最高ですね!」
ノー天気な勇者好き受付嬢を無視してギルドマスターは先輩冒険者に話した。
「勇者がギルドの依頼を受理せずに討伐した後、村に討伐依頼を取り下げるように言ったら、ギルドの取り分は手数料しか無くなってしまう」
「あっ!」
先輩受付嬢はギルドマスターが何を心配しているのか気づいたのだ。
「手数料だけではギルドは運営して行けない。討伐成功に伴う、依頼者からの依頼料の3割が冒険者ギルドに入るんだ。提示している依頼はギルドの取り分を除いた形で表記している」
つまり、依頼が達成されず取り下げになれば、ギルドに成功報酬の取り分が入って来ず、売り上げ減になってしまうのだ。
「それにしても、勇者様はお金に困っていないのでしょうか・・・」
先輩受付嬢は切実な疑問を思い浮かべた。
「うむ、普通なら命を懸けて魔物を討伐するんだ、対価に金銭を要求する事は当然のことなのだが・・・」
勇者が金持ちなのか、国からの援助でもあるのか・・・、せめて冒険者ギルドを恨んで潰そうと思っていないことを願いたい。
ギルドマスターはそう思った。
そこへ新たに来客がある。
「討伐依頼の取り下げをお願いしたいのだが・・・」
「またか、今度はどこの村だ?」
ギルドマスターは溜息を吐く。
「北の山麓の村からです。ドラゴン討伐の依頼を出しておりましたが、勇者様に討伐いただきまして・・・」
「なにっ!? また勇者が現れたのか! どんな奴だ!」
「ええっ!? 確か・・・赤い髪に青い目をしたとても素晴らしい青年じゃったの。白銀の胸当てに真っ赤なマント、大きな剣を背中に背負っていて、ご自身の事は剣士だとおっしゃられておられましたなあ」
「やっぱり・・・さっきのFランクのハーディさんという剣士は、もしかして勇者なのかしら・・・」
先輩受付嬢が呟いた内容に食いつく少女がいた。
「は、ハーディさんここにいらしたんですか!」
ラナと呼ばれていた少女のあまりの剣幕に驚く先輩受付嬢。
「ええ・・・、ハーディさんはゴブリン討伐の完了報告を済ませて先ほどギルドを後にしてしまいまして・・・」
「ハーディさんはどちらにお住い何ですか?」
「あ、いえ、この町に住んでいるわけじゃないみたいです。ずっと東の方へ向かうって言っていたかと」
「あ・・・そうなんですね・・・」
すぐにシュンとなってしまうラナ。
「ハーディさんのお知合いですか?」
「ハーディさんは命の恩人なんです。目の前に迫って来たギガント・ボアを一撃で吹き飛ばして退治してくださったんです」
「ギ、ギガント・ボアを一撃でだとっ!?」
急にギルドマスターが声を荒げたのでナラは驚いて震えた。
「あ、すまない・・・、それで、その赤毛の剣士はギガント・ボアを剣の一撃で倒したってのか?」
「ええ、そうです」
「信じられん・・・」
「俺も見たぞ。剣の一突きだったと思う。構えてから速すぎて良く見えなかったけど、次の瞬間にはギガント・ボアが吹き飛ばされていたから」
護衛でついてきた男も説明を追加した。この男は戦闘経験がありそうだ。それだけにその説明は信用できるだろう、ギルドマスターはそう判断した。
それにしても、たった一人でギガント・ボアを一撃で討伐する・・・。そんなことが出来る戦闘力のある冒険者がどれだけいる事か。例え倒せたとしてもBランク程度の冒険者では一撃で、とはいかないだろう。すると勇者と呼ばれた剣士は最低でもAランククラスの実力があることになる。
「それで、こちらのファイアードレイクの牙を買い取り頂きたいのですが」
「ファ、ファイアードレイクですか!?」
先輩受付嬢は驚きの声を上げる。
「勇者様曰く、レッサードラゴンと見間違えたのでは、という話でした。すまない事です」
「あ、いえいえ、それは全然問題ないのですが・・・」
確かに竜種のドラゴンとドレイクは別形態の魔獣である。だが、最下種のレッサードラゴンと比べた時に、長年生き抜いたファイアードレイクはドラゴンを凌駕する事もあるくらいの生物であった。
「こりゃ見事な牙だの」
見ればギルドの上級鑑定員であるドワーフ族のゴーンがカウンターまでやって来た。
「そっちのギガント・ボアの主牙は金貨5枚は払えるの。そのファイアードレイクの主牙は金貨20枚は価値があるな」
「「ええっ!」」
どちらの村の代表も驚きの声を上げる。何といってもハーディが倒した物をただ貰っただけなのだ。
「たぶん勇者殿は貴方がたの村の生活状況を見て判断されたのではないですかな? これらの牙の買い取り額があれば、村では一財産でしょうからな。この春先から畑の整備などにもお金を使うことが出来るというものですな」
ニカッと笑いながら話すドワーフのゴーン師。
「・・・さすが、勇者殿・・・というところでしょうかな?」
「そうですな。少なくとも冒険者ギルドとしてあのFランクの剣士と揉め事を起こすのは得策ではないと忠告しておきましょうかの」
「やっぱり彼ですかね?」
「間違いなかろう。少なくとも装備している胸当ても剣も超一流・・・というレベルではないな。伝説級とか、国宝級とか、そう言ったレベルの物じゃろうな」
「それほどですか・・・」
ギルドマスターとドワーフのゴーン師の会話を聞いていた勇者好きの受付嬢や、周りにいた冒険者たちがボーゼンとした表情で立ち竦んでいる。
「あ・・・あの・・・先ほどの勇者っぽいFランク冒険者さんは・・・」
「ああ、彼はきっと勇者なんだろうねぇ」
ギルドマスターはため息交じりに答えた。
「ひええっ!」
勇者好き受付嬢はあまりの事に腰を抜かした。
大好きな勇者様にさんざんな文句と罵詈雑言を浴びせてしまったのだ
「しかし、珍しいほど弱き人に寄り添う勇者であるのう・・・」
「どういうことです?」
ギルドマスターの問いにゴーン師は答えた。
「18年位前かの、随分と態度の悪い勇者どもが<皇帝竜>ハーデスと討伐したという話があった。討伐証明も無く今でも眉唾という話もあるがの。その時の勇者たちは態度が横柄で粗忽物という評判だったのでな。今のような金に頓着せず、弱き村人に寄り添えるような勇者が現れたのは心の底から喜ぶべきことよの」
「ギルドとしては、あまり受理無しで討伐依頼を片付けられると干上がってしまいますがね」
「はっはっは、彼はそれほど冷たい人ではないと思うぞい。見よ、この2つの依頼はどう見ても一般レベルの冒険者たちが対応できるものではないぞ? それだけを処理しておるんじゃ。誰も受けなかったり、受けて失敗して迷惑が掛かる事を考えれば、この冒険者ギルドも勇者殿に救って頂いたと言えるかもしれんの?」
茶目っ気たっぷりにウインクするゴーン師。
ギルドマスターはやれやれと苦笑いした。
「出来ないふりをしていたのでしょうか・・・」
ぽろぽろと涙を流す勇者好きの受付嬢。
先輩受付嬢は肩をポンポンと叩きながら言った。
「彼はそんなことをする必要もないでしょ? 討伐ランクで受けられない依頼の中で、通常の冒険者では厳しい依頼や報奨金が少ない依頼を優先的に処理してくれたんだと思うよ? それって、華々しい活躍とは違うけど、すごく勇者してる感じがすると思うんだよね。実力振り回してランク上げてくよりも、ランクを上げて冒険者ギルドに拘束されないで、自由に助けに行ける身分で十分だと思っているのかもね。それってすっごくカッコイイ勇者様だと思うな」
先輩受付嬢の説明に涙を流しながらコクコクと頷く勇者好きの受付嬢。
ハーディの勇者評価が滅茶苦茶上がっていたのだが、翌日サーベルウルフ討伐の依頼取り下げに来た事によりさらに衝撃が増した。そしてサーベルウルフだけでなく、ブレードタイガーが無料で討伐されたことを聞き、勇者は改めてとんでもないお人好しらしいと噂が広まって行くことになった。
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