第38話 小さな村の横暴な権力者
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北東の村に来たハーディ。
サーベルウルフの規模が書いていなかった事と、報酬の低さに多分一般冒険者が討伐依頼を受けないだろうと判断してのことだったが、村を見て「やはり・・・」と嘆息を吐いた。
村はかなりさびれた感じが出ており、生活そのものにも苦労を忍ばせるものがあった。
村の入口である木の柵とも呼べるか怪しい作り物の切れ目を入り、村の中へと足を進める。
「誰だ、貴様」
見ると腰に剣を差した皮鎧の男がこちらに歩いて来た。
歳は40前後と言ったところか。
村長というには若すぎるような男であった。
「旅の剣士だ。この村の周りでサーベルウルフが出ると聞いたのだが」
男は胡散臭そうにハーディを見た。
「冒険者で依頼を受理してきたのか?」
「いいや、受理してきたわけではないんだ」
「ならば低ランクが実績欲しさに無理をしているのか?死にたくなければとっとと失せろ」
けんもほろろと言った対応の男。
「そのサーベルウルフだが、通常は群れる性質がある。どれくらいの規模なのかわかっているのか? 冒険者ギルドの討伐依頼には規模が情報として載っていなかったが」
「そのような事、依頼を受けた冒険者が調べる事だろう」
ハーディの疑問に、それこそ当然だろうと言った雰囲気で答える男。
ハーディは頭が痛くなってきた。
この男、冒険者ギルドに依頼を掛けると言う作業がどのようなものかまるでわかっていない。
まるで冒険者ギルドに依頼を出せば何でも解決してくれると思い込んでいる節さえある。
「調査なら調査依頼を、調査も含む討伐ならその旨きちんと依頼しないと受け手側も理解してくれませんよ。それに達成基準もあいまいでした。村を襲うサーベルウルフの駆逐だけでは、倒した後にまた出て来た時に、依頼が終わっていないと文句を言われるかもしれない、そうなったら誰も討伐依頼を受けてくれませんよ?」
「そんな事はお前の知った事ではない!」
ついに剣を抜き放ち切っ先をハーディに向けてくる男。
剣は錆が浮き、お世辞にも状態の良いとは言えないものであった。
「なにしてるだ、村長代理!旅の人は村の客ではないだか!」
村の百姓らしい体格の良い男が近寄ってくる。
その他にもぞろぞろと村人らしき人たちが集まっていた。
「誰が代理か!親父は伏せって寝ているんだ。代わりに俺が村長をやっているんだ、村長と呼べ!」
(そういうのを代理と呼ぶのではないのか・・・?)
ハーディは何が問題なのかさっぱりわからなかった。
その時だ、
「キャ―――――!」
女性の叫び声か上がる。
見れば村の柵の外側で荒れ気味の畑から芋を掘り起こしていた母親と娘を取り囲むように森からサーベルウルフが6匹ほど出て来ていた。
「カレナ!チコ!」
百姓の男が叫ぶ。自分の妻や娘なのか、知り合いか、ともかく他人では無い様だ。
「多勢に無勢だ、村に入らない様に柵の近くを固めろ!」
皮鎧の男がとんでもない指示を出す。
「カレナとチコを見捨てるだか!!」
「サーベルウルフは群れる習性がある。群れの一部を中途半端に傷つけると仲間を呼んで報復に来る。
百姓は怒りを向けるが、皮鎧の男は歯牙にもかけない。
だが、ハーディはすでに走り出していた。
「ガウォッ!」
母娘に飛び掛かるサーベルウルフ。
「【剣技:飛翔閃】」
鋭く振りぬく剣先から真空波が発生し、飛び掛かったサーベルウルフを切り裂く。
遠巻きに見ていた残り5匹が少し怯む。
「マナよ!敵を穿て!<魔法の矢>!」
ハーディの構えた手の中に無属性の白い光が渦巻くと、広げた手から白い軌跡を描いて魔法の矢がサーベルウルフ5匹に直撃する。
その一撃でサーベルウルフは悉く息絶えた。
「すげぇ腕前だ!」
「これで村も救われるだか?」
「ありゃ勇者様ではないだか?」
村人たちが騒ぎ始める中、百姓らしき大柄な男が「カレナ!チコ!」と襲われそうになった母娘に駆け寄る。
「ゴンザさん、ありがとう」
「ゴンザおじちゃん、ありがとう!」
「アンタ、強いんだな。助かったよ。どんだけお礼を言っても言い足りないだよ」
「別に気にしなくていい。本当にたまたまここにいただけなんだから」
そう笑うハーディを無視して、皮鎧の男が横まで来る。
「カレナ、村に迷惑をかけたな。今日の夜は俺の家に一人で来い」
「そ、そんなっ! 食べるものも苦しくて、荒れた畑の残り芋を掘り起こしていただけです!」
「関係ない、村長の言う事が聞けないならこの村から出ていけ」
冷たく言い放つ皮鎧の男はハーディに向かっても、
「あのサーベルウルフは村が管理する。置いていけ」
と勝手な事を言って来た。
「無茶苦茶だ!大体村長は病で臥せっているだけで、お前を村長と任命したわけじゃないだ!」
「貴様!誰に向かって口を利くかっ!」
そう言って錆びた鉄の剣を振り上げた皮鎧の男。
ハーディは目にも止まらぬ早業で剣を切り落とす。
男は柄だけになった柄を呆然と見つめた。
「ところで、お前は先ほどそこの母娘を見捨てる指示を出したな? 何故だ?」
ギロリと睨みながら詰問するハーディ。
「む、村のためだ!村を守るためには仕方がないんだ!あの時二人だけが襲われれば他のサーベルウルフたちも村へは入って来なかった!」
「・・・村のため、ね。見捨てた女に自分の家に来るように命令するとは、男としてどうなのかと思うがね」
「なんだと!」
ハーディの挑発じみたセリフに剣を振り上げようとしたが、先刻ハーディに剣を切り落とされていた事に気づく。
「村を守るために、仕方なく見捨てた、そういう事か?」
「そうだ!」
すでにハーディは<気配感知>でサーベルウルフたちの動向を掴んでいた。
「今後も村を守るためには、襲われる人が出ても仕方がない、と」
「そうだ!」
その言葉を聞いたハーディは皮鎧の男の左肩を掴み、右手でボディーブローを喰らわせる。
「グフォ!」
九の字に体を折り曲げてその場で悶絶する皮鎧の男。
そして、森からは10匹以上のサーベルウルフがゆっくりと姿を現した。
皮鎧の男が言っている事もあながち間違いではなく、サーベルウルフが群れる習性であり、仲間を傷つけられると報復に出る事があるのもまた事実であった。
「では、村を守るためには仕方がない。俺はボロい柵の内側で様子を見る事にしようか」
つまりはこの赤い髪の剣士が、自分のボディを打ち抜いて動けなくしたところへ、サーベルウルフが群れでやって来た。だから、お前が食われても仕方ないよな。そう言っているのだった。
「ふ、ふざけるなぁ! た、助けろ!この人殺しが!」
「無茶を言う。さっきお前がやった事じゃないか。お前はやってよくて、俺がなぜやってはいかんのだ?そんな理由はあるまい?それに俺は人殺しじゃないぞ?殺すのはというか、食べるのはサーベルウルフだろう」
冷静に説明をしてやってゆっくり村の柵の方へ歩いて行くハーディ。
「貴様っ!俺にこんなことをしてただで済むと思うなよ!覚えていろ!必ずお前を殺してやる!」
「お前など覚えていないよ。だってほら、もうすぐお前はサーベルウルフに生きたまま喰われてしまうんだから。先ほどの母娘をお前が見捨てたようにな。だから覚えていても無駄だ。そして死者は殺しをすることは出来ん・・・あ、お前ゾンビにでもなる気か?だが、まあゾンビになっても構わんか。その時は心置きなくアンデッドとしてその首叩き落してやるよ」
ハーディは冷めた目で男を見つめた。
「ひいいっ!助けろ!お前ら!見てないで助けろ!村長がこんな目に合っているんだぞ!」
まだ足腰に力が入らないのか、もぞもぞとしか動けない皮鎧の男が喚き散らすが、村人たちは誰一人声を上げない。それどころか皮鎧の男を睨みつけている人たちが多数。
「お前随分恨まれてるな。誰もお前を助けてあげてとは言わないんだな。こういう時に実際の人間性がわかるというものだよ」
諭すように言うハーディだが、男にはゆっくり近寄ってくるサーベルウルフの気配で気が気ではなく、それどころではなかった。
ついに一斉に十数匹のサーベルウルフたちが飛び掛かってくる。
「ひいいっ!」
情けない声を上げる皮鎧の男。
次の瞬間、
「【剣技:地平斬】!」
横なぎの一閃!
ハーディの一撃から放射状に放たれた剣撃の真空波が飛び掛かって来たサーベルウルフたちを両断する。皮鎧の男の近くに血を吹き出して両断されたサーベルウルフたちがドサドサと倒れた。
「うわあああ!」
サーベルウルフたちの血飛沫を浴びてしまい、汚れた皮鎧の男は取り乱しながらもハーディに悪態を吐いた。
「貴様!この俺にここまでの事をしてただで済むと思うなよ!俺を殴って命の危険にわざと晒させたことは明白なんだ!この事を大きな町に行って訴え出てやるからな!」
ついには殺すだのなんだの騒いでいたものが、訴えるに変化してしまった。
死ぬほどの修行を重ねてきたハーディからすれば、人とはこれほどにも弱くなるものなのかと呆れを通り越して哀れすら感じられた。
「いい加減にせんか!」
その時、怒鳴り声が聞こえ、そちらを見れば杖をついて具合の悪そうな年寄りが肩を借りながらこちらに歩いて来ていた。
「村長、歩いて大丈夫だか?」
ゴンザが村長と呼んだ爺様に駆け寄る。
「大丈夫ではないが、放ってもおけんわい。ガザン!貴様ワシが寝込んでいる事を良い事に村人たちに非道な振る舞いばかりしたそうだな!お前をワシは許さんぞ!次期村長はゴンザ、お前に任せる。やってくれるな?」
「ええっ!? おらだか?」
「こんな百姓しか出来ねぇウドの大木に何が出来るってんだ!親父、いい加減にしろ!」
「いい加減にするのはお前じゃ! 無理矢理手籠めにされたと泣く娘! なけなしの食糧を奪われたと悲観する者! 意味も無くただ暴力を受けたと訴える者! お前は村人を何だと思っているのか! 村人はお前の奴隷じゃない!」
奴隷だってもっとちゃんと管理されているだろう・・・そう思ったハーディだか、口には出さなかった。
「くっ・・・、親父もぼけちまったようだ。まあいい、大きな町に行ってそれも訴えてやる。病気の村長の意識がはっきりしなくなったからって村人が勝手な事をしているってなぁ!」
勝手な事をしまくっているのはお前だろう・・・そう思ったハーディだが、ここも口を閉ざす。
「貴様・・・そこまで落ちたか!」
「お前もだ!剣士!お前ももう終わりだ!」
「うーん、終わりなのはどう考えてもお前だと思うんだよなぁ」
そう言ってハーディは森の方を指さす。
そこから出てきたのは、サーベルウルフよりも二回りは大きい魔獣であった。
「ブレードタイガーだな。サーベルウルフの上位種で、その戦闘力は非ではない。サーベルウルフはCランクの魔獣に設定されているが、ブレードタイガーはBランクの魔獣だ」
「なっ・・・!」
「ブレードタイガー1匹でこの村は間違いなく壊滅する。それだけの脅威だな。だから、お前が町へ行ってどうこう言っていたが、無理だと思うね。あれからお前が逃げおおせられるとは思えないし」
「グルアアアアアア!!!!」
「ひいいっ!」
ブレードタイガーの咆哮に皮鎧の男だけでなく、村人たちも震えあがった。
ハーディは村長の前まで歩いて行くと、村長に魔法を使った。
「<身体回復>」
パアアッっと村長の体が淡い光に包まれる。
「・・・胸が、胸が苦しくない!ワシは治ったのか!?」
「もう大丈夫ですよ。体の方はね」
そう笑うと、ハーディはガザンと呼ばれた皮鎧の男の方を向く。
「そこで提案があるんだが?」
「あうあうあう・・・な、なんだ・・・」
腰を抜かし、小便などいろいろと漏らしまくっている皮鎧の男はなんとか返事をした。
恐ろしい魔獣に睨まれ、一方では村長の病気をあっさり魔法で治す男。
ガザンの脳は理解の範疇をとっくに超えていた。
「町へ出て訴えるだのなんだの言っていたが、それらをきれいさっぱり水に流して、村の人たちにちゃんと頭を下げて謝って、これから村長のゴンザ君を支えて真面目に働くと言うのならば、あのブレードタイガーを無料で討伐してあげようではないか。君も生き延びる事が出来るし、村も救われる。だが、断るのならば、残念だが討伐は了承できないな。実際、ブレードタイガーを討伐しろ何て冒険者ギルドに依頼を掛けたらいくらかかるかわからんぞ?それ、払えるのか?」
「わ、わかった・・・だから助けてくれ・・・」
力無く呟くガザン。
「よし、契約成立だ。村長さんも、次期村長のゴンザ君も村人さんたちも、ちゃんと聞いたよね?」
「いや、聞きましたが・・・それではあまりにも貴方様になんの得も・・・」
「まあ、俺の方は特に困ってないので」
そう言って剣を抜き放ったまま、ガザンの横を通り過ぎブレードタイガーと対峙する。
「グルル・・・グァァァァ!!」
「【剣技:飛龍閃】!」
一瞬飛び上がり、空中から斬撃のクロスを飛ばす。
あたかも飛龍が口を開けて獲物を捕らえるが如く。
ゾバンッ!!
クロスした斬撃がブレードタイガーの体を4つに切り裂いた。
その剣はすべて斬撃や真空波で倒したこともあり血糊どころか、埃一つついていない。
背中に剣を戻すと、振り返り、
「ちゃーんと約束を守って真面目に働けよな!」
そう言ってハーディはにかっと笑うのであった。
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