第36話 村の救援
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ハーディは街道を外れて森の中を走っていた。
身体強化を行って高速で移動する事しばらく。
「ここが北西にあった村か・・・」
村の近くまで到着したハーディ。
今回のギガント・ボアは体長3mを超える大型の猪の魔獣だ。
圧倒的な突進力とその巨体で、討伐者グループを跳ね飛ばす。
魔法を使って倒してもいいが、その毛は温かく重宝されるため、出来る限り火や雷系の魔法は避けられるならば避けたいとされている。
また、肉は獲物の少ない地域では非常に重宝され、比較的高値で取引されている。
そんなわけで、村の近くでギガント・ボアを倒したとしても、そのまま放置するわけにもいかず、かといって殺して埋めてしまうにはもったいない獲物でもあった。
「もっとも、<異空間収納>があるから、どうとでもなる事はなるが・・・」
<異空間収納>。別名無限収納とも呼ばれるスキルで、アイテムや倒した獲物を異空間に収納できる便利なスキルである。異空間内に収納したアイテムは時間の経過が無く、永遠にその状態を保つことが出来ると言われている。
魔力抵抗値を持つ生き物は収納することが出来ない。逆を言えば死んだ生き物は収納する事が可能となる。
ハーディは考える。
仕留めたギガント・ボアを持って村に行き、途中で狩った獲物だからと引き渡して去る、もしくは、近くに村人が居れば通りすがりで助けに入って仕留めたギガント・ボアをそのまま村人に任せて去る、直接村に行ってギガント・ボアの情報を貰って倒してから引き渡す。
だが、ギルドの依頼を受けずに来ているハーディは村人への説明が若干難しい。
なので、出来れば単なる通りすがりで厄介事に巻き込まれたので仕方なく倒した、これが最も警戒されずにシンプルに話が進むパターンだと考えていた。
ところが、
「キャアア―――――!」
「にっ逃げろ!」
「助けてくれー!」
いきなり村の入口近くで悲鳴が上がる。
見れば村の外へ出て森へ入っていたと思われる村人たちが走って逃げて来た。
「ブモ―――――!!」
その奥からは優に3mを超える巨体のギガント・ボアが突進して来ていた。
「これは僥倖」
ハーディは一人ほくそ笑むと、森の木の上から飛び降りる。
「きゃうっ!」
薬草か山菜でも取りに行っていたのか、少女が転んで持っていた籠から緑の葉が散らばる。振り返った少女は巨大な猪の魔物がこちらへ突進してくるのを見て恐怖した。
だが、
フワリ
自分の目の前に赤いマントを翻して一人の剣士が舞い降りた。
(躱したり後ろへ逸らしたり出来ないな・・・)
ハーディは背中に背負った剣を抜き放つ。
左手の平を敵に向け肩より水平に突き出す。
「王者の剣よ・・・」
突き出した左手の指を大きく広げ、その親指と人差し指の間に王者の剣の切っ先が来るように右肩より水平に構える。
明らかに刺突攻撃に特化した構え。
ヴンッ
王者の剣がほのかに淡く輝く。
ギガント・ボアはすさまじい勢いで突進して来ていた。
「【竜剣技:一閃牙】」
ズドンッ!!
超高速の踏み込みから右腕を正しく一本の竜の牙が如く突き出すハーディ。
その一撃は突進してきたギガント・ボアの眉間を寸分たがわず貫く。
質量差を考えれば、どう考えても吹き飛ぶのはハーディのはずであるのに、突き出された王者の剣はギガント・ボアの眉間から頭蓋を立ち割り、その肉体の一部までも切り裂く。
その突進した勢いは突き出された王者の剣に殺され、上方へとその体を舞い上がらせた。
ズズズ―――――ン!
くるくると2~3回転したギガント・ボアの体は地面に叩きつけられた。
ピッ!
鋭く王者の剣を一振りし、ギガント・ボアの血糊を飛ばすと、あたかも新品の剣の様に一点の曇りもない輝きを放った。
鞘に戻したハーディは振り向く。
「怪我はないか?」
少女は、この世界におとぎ話ではない、本当の勇者が存在する事を知った。
「ささっ、この村でごゆっくりとお休みくだされ。このまま恩人を恩返しもせず再び旅の空に送り出そうものなら、このサーデの村の名折れですじゃ」
怪我人がいないことを確認したハーディは村の責任者にギガント・ボアをそのまま引き渡すので村で有意義に使って欲しいと伝えてそのまま旅に出ようとした。
だが、結構律儀な村長らしく、恩返しもせぬまま見送るなどとてもできない、せめてこの肉で夕食を振る舞うので一晩泊まって行ってくれと懇願されてしまったのだった。
「で、勇者殿はどちらへ向かわれておるのですかな?」
「いや、勇者というわけではないんだ。だが、比較的急ぎの旅でな・・・」
村長がガンガン酒を注いでくるので、あまりハイペースにならぬようにちょっとずつ飲んでいくハーディ。
村では狩人たちがギガント・ボアの解体を進めており、新鮮な内臓と比較的柔らかい腿の肉を優先的に解体し、夕食で村人全員に振る舞うちょっとした祭りのようなものが準備されていた。
「しかし、牙や毛と言った有用な部位も全てこちらに譲って頂けると・・・。あまりにもハーディ殿に何もないようで心苦しいばかりですぞ」
村長が真面目に困ったと言った表情になる。
質の悪い村では、これ幸いにとハーディを追い出して獲物を一部の村人で独占するような村も少なくない。それだけにこのサーデの村の村長には好感が持てた。
「そう言えば冒険者ギルドにギガント・ボアの討伐依頼などは出しているか?」
「おお、そう言えば冒険者ギルドについ先日依頼を行ったばかりです。ハーディ殿が依頼を受けておられるのであれば、喜んで討伐完了の受領を行いますぞ」
村長はニコニコと話してくれるが、ハーディは首を振る。
「いや、冒険者ギルドには討伐依頼の取り下げを行ってくれ。たまたま旅の剣士が倒したので、もうギガント・ボアの討伐は不要と連絡すれば大丈夫だろう。証拠を問われることもあるので、念のためギガント・ボアの牙をギルドに持ち込むといいだろう」
「なんと・・・それではハーディ殿に報奨金が支払われませんぞ!」
「もとよりギルドで依頼を受けていないので問題はない。それより、依頼処理がなされて冒険者が来ると厄介だ。倒してもいないのに、始末が終わっているなら受領を寄越せ・・・なんて言われたらつまらんしな。ギルドに払う金額も不要になれば手数料を少し除いて大半が帰って来ると思う。そのお金はまた村の皆さんのために役立ててくれ」
「なんと・・・ハーディ殿はそれでよろしいのですかな?」
「気にしないでくれ。旅の剣士としてふらついているだけの事。一人旅だし、あんな大きな獲物など困るだけだ。有効活用してもらえるならそれに越したことは無い」
「あれだけの肉ですじゃ、冬を凌いでやっと春を迎えたばかりのこの村では大変にありがたい御馳走ですじゃ。感謝してもしたりませぬ」
「本当にたまたま通りかかっただけだ。運がよかった。気にしないでくれ」
もちろん嘘ではあるが、ハーディにとっては『たまたま通りがかった』は常套句であった。
「ささ、最初に準備した肉が焼けた様ですぞ! まずは柔らかい腿肉と新鮮な内臓から召し上がってくだされ!」
その夜は久しぶりに暖かい肉料理と酒を楽しむのだった。
深夜―――――
「えへへっ、ハーディさんに命を救われたんだから、ちゃんとお礼をしないとねっ!」
コソコソと暗闇の中、枕を持って歩いてくる一人の少女―――――
昼間ハーディがギガント・ボアから命を救った薬草取りの少女・ラナであった。
容姿に優れ、器量良しなラナではあったが、比較的夢見がちな性格で村の同年代の若い男たちから言い寄られても首を縦に振らなかった。たまに行商人が来た時に売っている古本の物語を読むのが好きで、自分にもいつか勇者や王子様と言った人物が現れるのではないかと思っていた。近所のおばちゃんにそんな話をすれば、そんな妄想やめときなと笑われてしまうのだが・・・なんと今日、本当に目の前に勇者が現れて自分の命を救ってくれたのだった。
(旅の剣士、という話だったハーディさん。きっと明日にはこの村を出て行ってしまう・・・)
そう考えたラナはお礼と称してハーディの寝床を急襲し、関係を持ってこの村に留まってもらうか、自分も連れて行ってもらおうと画策したのだった。
「ハーディさん、もうお休みですか・・・?」
ハーディがあてがわれた宿。それは村の空き家の一軒であった。
そっと玄関の引き戸を開けると、そこには綺麗に畳まれた布団があるだけだった。
「ハーディさん・・・?」
ラナは人のいない空き家を見回すのだった。
同時刻―――――
「もう、行ってしまわれるのですかな?」
村の入口。門番もいないこの村では、夜だからと言って夜警に出る人もおらず、入口にも誰もいなかった。
「世話になった、村長」
旅支度、といってもわずかに腰に小さな袋を下げただけのハーディに、あまり旅の剣士のイメージを見いだせない村長。だが、それもきっと何かわけがあるのだろうと余計な散策はしなかった。
「こちらをお持ちください。きっとハーディ殿の旅の道中は長い物になるのでしょうな」
そっと袋と水筒を差し出す。
断るのも村長の気持ちを無にするようで悪いと思い、ハーディは袋と水筒を受け取った。
「袋の方は去年仕込んだ干し肉ですじゃ」
「これはかたじけない。ありがたく頂戴する」
スッと頭を下げるハーディ。
「ラナなどは明日の朝にはだいぶ寂しがるでしょうな。もし、また近くに来ることがあればぜひこのサーデの村にお寄りくだされ。わしらは助けて頂いた恩、一日たりとも忘れはしませんぞ」
そう言ってニカッと笑う村長。
こんな気持ちのいい爺さんが村長をやっている村は、いつ来てもきっと気持ちがいい村だろう。
「そうだな、近くに来ることがあればぜひ寄らせてもらうとしようか」
ハーディは社交辞令ではなく、本気でそう思うと、漆黒の森へと足を進めた。
「勇者ハーディ殿・・・、貴殿の進む道が常に神の光に照らされますよう・・・」
村長はハーディの消えた森の闇を見つめながら、そう祈った。
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