第35話 冒険者ギルドでの対応は
「カレン! 大丈夫か!」
カレンの兄であるトラインはカレンが無事に帰って来たことに安堵する。
村に住む狩人から森でゴブリンを見たと言う話が出ていたのだ。
カレンが一人で薬草採取に出かけたと聞いて肝を冷やしていた。
「兄さん! ゴブリンが出たの!」
「何だって! やっぱり! お前は大丈夫だったのか?」
「ええ、旅の剣士様が助けてくれたの。一瞬で五匹のゴブリンがばらばらになって・・・」
「そ、そんな凄腕の剣士が?」
ゴブリンはそれほど強い魔物ではない。
とはいえ、戦闘経験が無い一般人からすれば一匹でも脅威であり、それが五匹もまとまっていたら間違いなく死を覚悟しなければならないレベルだろう。
「赤髪の青い目をした剣士様だったの」
「それって、まさか勇者様!?」
トラインは驚いてカレンに聞くが、カレンはゆっくりと首を振る。
「私も勇者様ですかって聞いたんだけど・・・、違うって」
「違う・・・? なんて言ったんだ?」
「確か・・・<復讐者>って・・・」
「<復讐者>」
トラインは少し不吉な気がして胸騒ぎがした。
「あ、それから、胸から黒い鉄のプレートを下げていたわ」
何気なくカレンは思い出したことを兄に伝えたのだが、
「く、黒いプレートだと!?」
「ど、どうしたの?」
「黒いプレートは、冒険者ギルドのFランク冒険者が持つ冒険者タグだ。それは登録したばかりの初心者という意味だ。一つ上がったEからは鉄を磨いたシルバーに近い色になる。黒は初心者だと一目でわかるためのタグなんだ。そんな奴がゴブリン五匹を一瞬で・・・?」
「ええ、嘘じゃないわ。あ、ゴブリンの死体を片付ける様に言われたの。村で処理してもらうようにって」
「耳と魔石はもう持ち去っているよな?」
「ううん、何も持って行かなかったけど」
「? 倒したゴブリンの胸から魔石を回収していないのか?討伐証明部位の耳も?」
「そう、ハーディさんは何も持って行かなかったよ?」
冒険者であれば、ゴブリンの討伐部位である耳と魔石は必ず持っていくはずだ。魔石は僅かながらも金になるし、なにより耳が無いと討伐証明が出来ない。
「よくわからんが・・・とにかくゴブリンの死体は処理しに行こう」
カレンの案内でトラインと村の若者数名が向かうのであった。
ここは王都からだいぶ離れた町。
それほど大きくなく、村がやっと町になったといった規模であった。
だが、町になれば冒険者ギルドが設置され、近隣の村からも依頼が集まって来るようになる。
カランコロン
冒険者ギルドの扉を押し開ける一人の剣士。
赤い髪を揺らし、その青い瞳は真っ直ぐに前を見つめていた。
白銀の胸当てを装備し、赤いマントを翻し、大剣を背中に背負う。
「まさか・・・勇者様!?」
受付嬢の一人が緊張して声を上ずらせながら呟く。
その呟きが聞こえた者は入って来た剣士を注視した。
剣士は依頼書の張り出されているボードの前でいくつかの依頼書を確認していた。熱心に見ていたのはAランク、Bランク依頼の討伐系依頼であった。
だが、最終的に剣士が手に取ったのはEランクのゴブリン退治の依頼書であった。
「すまないが、この依頼書の受理を頼む」
そう言って剣士が冒険者タグを首から外して差し出してくる。
差し出された冒険者タグは黒色をしていた。
「ええっ・・・Fランクなのですか!?」
どう見ても勇者のいで立ちだったのに、まさかのFランク初心者冒険者だったことに一同笑いに包まれる。
「ギャハハハ! カッコだけ真似ても意味ねーっての!」
「笑わせてくれるぜ!」
「背中に背負った大剣、抜けるのかぁ」
周りの冒険者たちが笑い出すが、剣士は気にも留め無い様だった。
受付嬢もFランクの冒険者タグに勇者様かもと言ったドキドキをすでに捨てて、冷静に対応していた。
「ハーディ・デュランダルさんですね。登録してから、一度しか依頼を受理されていませんね。しかも、もう一ヶ月近くになります。もっと頻繁に依頼を受理して達成頂かないと、ランクが上がりませんし、最悪資格停止になりかねませんよ?」
「すまない、気を付けることにするよ。確かFランクは月に一度は最低限依頼を受理して達成する事と規則にあったよね?」
「一月に最低一度は依頼を達成する、というのは、本当に必要最低限の話です! 私は一月に一度しか働かないような怠惰な冒険者の方は例えイケメンでも嫌いです」
確認するハーディに受付嬢は厳しい言葉を投げかける。
「そうだね、なるべく頑張ってみるよ。これ受理お願いするね」
「・・・はい、受理完了です。達成完了報告期日は三日後までです。速やかに報告をお願いします」
「わかった」
そう言ってハーディは冒険者ギルドを後にする。
「なんなの・・・? 勇者様にそっくりな格好で、全然働かないって。サイテー」
「ちょっと、いくら何でもいいすぎよ?」
隣の受付嬢が苦言を呈するが、先の受付嬢はよほどハーディを怠け者と思ったのか、怒りが収まらない様子だった。
「それにしてもおもしれーガキだったなぁ」
「完全に見た目だけ気張りましたって感じだったもんなー」
「でも鎧も剣もすげー立派な感じじゃなかったか?」
「どっかの貴族のボンボンかぁ?」
ハーディが冒険者ギルドを出て行った後も他の冒険者たちはハーディを馬鹿にして会話を弾ませていた。
「さて・・・」
ハーディは先の依頼書が張り出されたボードの内、AランクからCランクまでの依頼書の内容をすべてチェックしてきた。
その中で、一般冒険者の対応が厳しい依頼と、対応できても報酬が極端に少なく、受理する冒険者が少ない可能性のある依頼を頭の中でピックアップしていた。
(北西の村のギガント・ボア・・・Bランクの魔獣で、討伐には複数の熟練者が対応しなければならないとされている。北の山麓にある村では、レッサードラゴンの討伐依頼があった。どうも山奥に巣を作って住み始めたらしい。北東の村では森の奥でサーベルウルフの群れが確認されて、家畜が襲われる被害が出ている・・・。サーベルウルフの群れの規模が書いておらず、依頼達成時の報酬も安い。これは受理する冒険者がなかなか出ない案件だろう)
そう。ハーディはFランクのまま、受理、達成が困難な依頼を率先してギルドで受理しないまま対応に向かっていた。冒険者ギルドのランクを上げないのは冒険者ギルドに拘束されるのを嫌ったためと、ランクが上がって自分の受理する依頼に対しての報酬が上がるのも嫌ったためである。
「ゴブリンの討伐報告までは三日・・・急げば全て回り切れるか? 早めに次の町まで移動したいしな」
ハーディは首をコキコキと鳴らすと身体強化を張り巡らし、ダッシュで移動を始めた。
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