第34話 それぞれの旅立ち
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あれから三年の月日が流れた。
イザベラ・ヒップバーンは卒業生代表として挨拶するための原稿に目を通していた。
通常、卒業生代表の挨拶はその年の最も優秀な生徒が対応する事が慣例となっている。
今年の学園トップは、座学、魔法実習、ダンジョン実習、あらゆる分野でぶっちぎりのトップを修めたイザベラであった。
イザベラは今、卒業生代表挨拶で話す内容を原稿に起こしたものを眺めていた。
「今日の良き日に、この学園を卒業し、自らの翼で羽ばたいて行く・・・」
ボソボソと呟きながら、頭の中に内容を入れていく。
「学園文化祭では・・・ダンジョン実習ではパーティごとに力を合わせ・・・」
イザベラは原稿を読みながら苦笑した。
この三年、自分では地獄の研鑽を積んできたと自負している。
三年前、恐るべき「異形の騎士」の襲撃を受け、無二の親友であり、永遠のライバルと思っていたクラリスが殺されてしまった。そして、自分が愛していたハーディも重傷を負ってしまった。そして、その夜、忽然とハーディは姿を消した。
その事実をイザベラはすべてが片付いてから知ったのだ。
何もできなかった自分。
殺されてしまったクラリスにも、重傷を負ったハーディにも力になれなかった。
そして、自分を置いて姿を消したハーディ。
分かっている。当時の自分にハーディの横で一緒に戦う資格などなかった。
だからこそ力を求めた。再びハーディの横に立てる様に。
ふさわしいように。
その実力を求められるように。
その結果、元々魔術の天才とも称されたイザベラの力は別格となる。
周りの者達がまったくその次元に追いつかないほどに。
魔術以外に体術、杖術も極める勢いで鍛え上げた。時には血反吐を吐いてでも這いつくばってでも努力を続けた。
今では格闘術においても、学内の学生レベルでは太刀打ちできないレベルに鍛え上げた。
それは冒険者科の実践重視の学生たちを含めてもナンバーワンであった。
ダンジョン実習でも、一人で対応できてしまったため、教師陣から強制的にパーティを組ませて対応させた。だが、イザベラの鬼気迫る対応になかなかパーティがなじめなかった。普段からイザベラは笑顔を見せる事さえなかった。
付いた二つ名が「鋼鉄の魔女」。
だが、イザベラは気に留める事すらなかった。
周りが何を思おうと、何を言おうと、イザベラには何の関係も無かった。
今、イザベラに必要な物はハーディの横に立てるだけの実力だった。
「パーティで力を合わせ・・・か、ふふふ・・・」
イザベラは自分で言っていて滑稽だった。
「・・・・・・」
イザベラの目から涙が落ちる。
自分が本当に欲しかったものはこの学園で何一つ手に入らなかったのだ。
だが、このタイミングで卒業していく他の生徒たちにはイザベラの想いなど関係ない。
イザベラは求められた役割を果たすため、涙を拭うと、会場へ足を向けた。
卒業式。
麗らかな春の日。卒業生及び在校生、その関係者が一堂に講堂に集まっていた。
全学科の卒業生、在校生は合わせるとは300人を超えている。
その関係者を含めて1000人以上の人が会場に集まっていた。
国王はさすがに来ていないが、王国の宰相が来ている。来賓代表として先ほど挨拶が終わっていた。
この国の宰相が来るほどの式典。
それこそがこの王立高等学校に掛けられている期待の高さをうかがわせていた。
「卒業生代表、イザベラ・ヒップバーン」
「はい」
特に気負う事も無く、淡々と返事をしたイザベラは席を立つと、壇上へと歩みを進める。
会場からは大きな拍手が沸き起こる。
壇上に上がると、演台の前に立つ。
演台には声を遠くまで届ける魔道具が設置してあった。
「今日、この学校を卒業する私たちのために、このような盛大な卒業式典を開い頂きました事、誠に感謝の念に堪えません」
そしてイザベラは滔々と語り上げた。
「たくさんの想いを胸に抱き、今日という良き日に学び舎を巣立って行けることを、自らの翼を広げて羽ばたいて行けることを、今まで支えて頂きました皆様方への感謝とさせて頂きます。ありがとうございました」
そしてイザベラが大きく頭を下げる。
そして大拍手の渦に包まれる。
頭を上げたイザベラ。その目に飛び込んできたのは・・・
「ハッ・・・!」
イザベラが見たものは、壇上から見て一番奥の壁にある大扉。
現在は大きく開いており、そのまま外の広場へとつながっている。
その扉の陰に、一人の男が立っていた。
赤い髪が風に揺らめいている。
距離があるので瞳の目が青かどうかはっきりわからなかった。
白銀の鎧に身を包み、赤いマントが翻っていた。
背中には剣を背負っているようだった。
イザベラは速足で壇上を降りると、自分の席を通過して壁を走って大扉へ向かった。
「イザベラさん?」
教師の一人が自分の席を素通りして奥へ走って行くイザベラに声を掛けたが、イザベラは止まらなかった。しかしイザベラが大扉に到着した時には、赤毛の剣士の姿はすでになかった。
イザベラは会場を出て外廊下を見回した。
だが、やはり赤毛の剣士を見つけることは出来なかった。
「ハーディ・・・」
イザベラの呟きは春の風に乗って消えた。
城塞都市カルバリッサからほどなく離れた森に近い村、トラン。
村に住むカレンは春の薬草を摘むために少し森の奥へ入っていた。
今年は薬草が豊富に生えており、たくさん採取している間に、いつもより森の奥へと入ってしまっていたのだ。
「ふうっ・・・たくさん採れたわ。これなら十分に賄えるわね・・・」
カレンは籠一杯になった薬草の葉を見てにっこりする。
だが、カレンの背後にはすでに魔物の影が近づいていた。
「グゲゲゲゲッ!」
「えっ、なに!?」
振り返ったカレンの視線に映ったもの、それはゴブリンであった。
「グギャギャギャ!」
ゴブリンが総勢5匹。それぞれに棒きれなど、武器を持っていた。
ゴブリン達はカレンを見つけると武器を振り上げ襲い掛かって来た。
「キャアア!」
薬草を一杯に詰めた籠を放り出し、村の方へ駆け出すカレン。
だが、ゴブリン達の方がわずかばかり速く、このままではカレンは追い付かれてしまいそうだった。
なんとか森を抜けて街道の方へ逃げようとしたカレンだが、一匹のゴブリンが投げた木の棒が足に当たって転倒してしまった。
「ううっ・・・!」
打撲の上、くじいてしまったのか、足首に痛みが走り、立つことが出来ない。
振り返れば、もうカレンが走って逃げられないと思っているのか、五匹のゴブリンがゆっくりと歩いて近づいて来た。
「ゲギャギャギャギャ!」
下卑た笑い声をあげて近づいてくるゴブリンにカレンは恐怖した。
「ゲギャ!?」
ゴブリン達が戸惑い、止まる。
「えっ・・・?」
振り向いたカレンが見た者、それは赤い髪を靡かせた青い目の剣士だった。
白銀の胸当てを装備して、赤いマントを翻し、大きな剣を背中に背負った男だった。
その青い目を見た瞬間、カレンの脳にある人物像が浮かび上がる。
「ふっ・・・こんな街道近くまでゴブリンが出るようになったか」
棒立ちのまま、赤毛の剣士は背負った大剣を抜くことなく、カレンの前に立ち、ゴブリンに相対した。
「グギャギャー!!」
五匹のゴブリンが武器を振り上げ迫ってくる。
だが、赤毛の剣士は剣を抜かずに立ったままだ。
「あ、あの・・・!」
カレンは声を掛けようとするが、すでにゴブリンは赤毛の剣士の目の前に迫っていた。
「ヒッ・・・!」
思わず目を瞑ってしまうカレン。
だが、
ドンッッッッッ!!
カレンが次の瞬間目を開けると、そこには剣を振り下ろした格好で微動だにしない赤毛の剣士が、そしてゴブリンは目を瞑ったその一瞬でばらばらに切り分けられて散らばっていた。
「ふん・・・だいぶ馴染んではきたか・・・」
振り下ろした剣の血糊を一閃して吹き飛ばすと、その剣は美しく輝いているように見えた。僅か一振りで一点の曇りも無い様だ。
そして剣を鞘へと戻した。
赤毛の剣士は振り返るとカレンの方へ歩み寄ってきた。
そしてカレンの前でしゃがむと、怪我した右足首をそっと掴む。
「痛むか?」
「あ、は、はいっ・・・」
赤毛の剣士は懐から薬草と布を取り出した。
薬草を少し揉み込み、足首に押し付けると、布を割いて包帯の様に細くする。そして足首に割いて細くした布をぐるぐる巻いていき、最後に端と端を足首の前側で結んだ。
カレンはその間、赤毛の剣士の青い目を見つめていた。カレンはその紺碧の瞳に吸い込まれるような感じを覚えていた。
ふと、屈んでいる赤毛の剣士の胸元から赤い石のようなペンダントが見えた。
それとは別に少し長めのチェーンからタグが胸に垂れた。黒い鉄の板のようなタグだった。
その男は徐に立ち上がると、森の中へ歩いて行った。
そして少しして戻ってくと、杖の様に使えそうな木の棒と、薬草が入った籠を持ってくる。
「これは君のかい?」
「あ、そうです!ありがとうございます!」
慌てて立ち上がろうとして、痛めた右足が踏ん張れず、転びかける。
だが、その腕をとり、赤毛の剣士が支えてくれた。
「あっ・・・ありがとうございます・・・」
少し頬を赤く染めて、お礼を伝えるカレン。
「さ、薬草の籠を持って、村へ戻りなさい。村ではゴブリンの始末を頼んでおいてね」
そう言って、そのまま立ち去ろうとする。
「あ、あの、お名前は?」
「俺? ハーディ。ハーディ・デュランダルだ」
カレンの問いに笑顔で答えるハーディ。
「あの! ・・・貴方様は・・・勇者さまですよね?」
そう、カレンが問いかけた。
ハーディは一瞬歩みを止めて、ひと呼吸おいて振り返った。
「いや、俺は・・・勇者なんかじゃない。俺は・・・“<復讐者>”だ」
これで「序章」が終わりになり、ハーディの冒険譚が始まります。
そのうち章立てするかもしれませんが、今はこのまま進めさせていただきます。
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