第32話 惨劇<トラジティ>
いつも『ドラゴンリバース 竜・王・転・生』をお読みいただき誠にありがとうございます。作者の西園寺でございます。多少のネタバレにはなってしまいますが、この第32話は、この先最終回予定までの本編全域の中でも、多分最も残酷な物語となります。この物語のR15指定はこの話のために設定したと言っても過言ではありません。拙作の表現がどの程度のモノなのか何とも言えませんが、残虐な表記や表現が苦手の方は作中「クラリスは選択した」の文章までで留めて頂き、次話へお進み頂きます様お願い致します。次話では、結果の説明からスタートしますので、話の脈絡が分からなくなるようなことは無いように致します。それでは今後とも『ドラゴンリバース 竜・王・転・生』を応援のほどよろしくお願い致します。
クラリスは胸騒ぎがしていた。
神官や教師たちの説明を聞いていたのだが、何か心が落ち着かない。
「・・・・・・」
クラリスは言いようのない不安に襲われていた。
ドンッッッッ!
外で爆発音が聞こえる。
「なんだ!?」
「どうした!?」
教師たちがあわただしく情報収集に走る。
「ハーディ!?」
クラリスの胸は不安で一杯になり、この場でじっとしていることすら苦痛になった。
ハーディがそばにいないことが不安なのではない。
ハーディの身に何かありそうな、そんな不安に襲われていた。
「ハーディの元へ急がなきゃ・・・」
クラリスは打ち合わせしていた来客室を飛び出した。
「ものすごく禍々しい魔力が暴れてる・・・」
恐ろしいほど暗く淀んだ魔力を感知してクラリスは焦燥感に捕らわれる。
そのような正しく「異形の者」がこの学園に入り込んだと思われるのだ。
一体何が目的なのか。
クラリスは校舎を飛び出る。そこには正しく異形の者とも言うべき存在があった。
恐ろしく禍々しい大きな戦斧を片手に持ち、汚れた濃いピンク色のような全身鎧はこびり付いた血で赤黒く汚れていた。
「この者は、一体・・・」
そして、反対を見れは、校舎の壁が崩れていた。そこにハーディが埋まる様に倒れているのが見えた。
「ハーディ!!」
あの異形の者に叩きつけられるような攻撃を受けたのか、ハーディが校舎にぶつけられてダメージを負っていると推測できた。ハーディが動かない所を見ると、意識が無いのか重傷なのか、危険な状態である事には違いが無いと分かった。
「聖女ォォォォ! オマエノ、血ヲヨコセェェェェェ!!」
咆哮の様に怒鳴る異形の者。
瞬時にクラリスは異形の者が自分を目的にしているのだと知る。
今、自分の位置はちょうど異形の者とハーディとの中間くらいの位置に出てしまったようだ。
クラリスはハーディにすぐにでも駆け寄りたかった。
ハーディの身を守るために、命を救うために研鑽を積んで来た神聖魔法でハーディを回復したかった。
ハーディに近ければ、そうしたであろう。
回復させて、防御呪文を展開して、身を守る。
後は異形の者を排除する騎士や衛兵を待てばよい。
だが、この距離ではハーディに近寄る前にあの異形の者から攻撃を受ける可能性が高かった。万一間に合ってもハーディに近寄れば必ずあの異形の者も近くへ来るだろう。どうやらあの異形の者は自分を狙っているようだからだ。
その時、防御呪文が間に合わなければ、ハーディも巻き沿いになって攻撃されてしまうだろう。
クラリスは選択した。
異形の者を倒すことを。
大した攻撃呪文の無い神聖魔法だが、魔の眷族に対する退魔呪文はいくつかある。上級呪文には莫大な魔力神力を消費する代わりに、魔の眷族を強力に浄化、消滅させる呪文も存在する。
まだ多少異形の者との距離がある今であれば、強力な退魔呪文を詠唱するチャンスがある。
もちろん失敗すれば、異形の者の接敵を許してしまうことになる。体術に劣るクラリスにとって、それは死に等しい。
だが、今強力な防御フィールドの呪文を展開しても、ハーディまで範囲に入れることは出来ない。強力な呪文程魔力を消費し、その範囲も狭くなる傾向にあるからだ。自分だけ展開できても、自分を迂回してハーディに向かわれれば、もうクラリスに異形の者を止めるすべはなくなる。それだけは絶対に避けなければならないとクラリスは考えていた。
だからこそ、異形の者を倒す。
今この場で、敵を倒すことにより、ハーディも自分も生き残る。
その可能性が最も高い選択をする。
そう、クラリスは決めた。
・・・万が一・・・
一瞬、よぎったその思いを振り払うように、クラリスは詠唱を開始する。
「レクシオ・ミハエラ・ゴディアゾルナール! 神霊の御名により奇跡の光を打ち照らせ!救済の魂をその手に抱き浄化せよ!! <破邪天昇陣>!!」
ゴバァァァァ!
異形の者の足元に展開された光の魔法陣から、強力な聖なる光が溢れ出る。
圧倒的な光の本流が荒れ狂う。
どんな魔の者でもその存在を消し去るほどの強力な破邪の光。
だが、
「ど・・・どうしてっ!?」
クラリスが信じられないと声を漏らす。
<破邪天昇陣>の魔法陣から、ゆっくりと異形の者が歩み出て来たのだ。
そしてクラリスは見た。
全身鎧だった異形の者の首に何かが掛かっているのを。
「タ・・・<神霊の加護>!!」
クラリスも勉強中の文献で読んだ知識であったが、<神霊の加護>はプレシャス聖王国でのみ製作される超強力な神霊の加護を得られるお守りである。その数は世界に7つしかなく、プレシャス聖王国で認められた人物でしかその所有を認められていないほどの品であった。
その神霊の加護は強力で魔の眷族の攻撃を防ぐだけでなく、同系統の魔力を受け付けないと言う特性も持っていた。強力過ぎる加護のため、外部からの神聖魔法、例えば回復魔法なども<神霊の加護>によって同化され、効果を及ぼさなくなる。そのため、クラリスの放った <破邪天昇陣>の光のエネルギーはすべてこの<神霊の加護>によって同化され効果が及ぼせなかったのだ。
「ま、まさか・・・あなたは・・・」
すでにクラリスの目の前には異形の者がいた。
「血ヲ、聖女ノ血ヲヨコセェェェェェ!」
左手一本でクラリスの首を掴み、その体を持ち上げる。
「かはっ!」
息が出来ないクラリス。
クラリスはわずかに首を捻ってハーディの方を見た。
「・・・」
文字にして三文字。クラリスは口に紡ぐ。
グシャリ
言いようのない、聞いたことの無い音が聞こえた気がした。
異形の者は左手だけでクラリスの首を握り潰した。
千切れたクラリスの頭部がスローモーションのように地面に落ちて行く。
わずかに目から涙を、首から血を散らして。
そして、異形の者は右手でクラリスの胴体をわしづかみにすると、逆さにして首から吹き出す血をまるで全身で浴びるように飲んだ。
尊厳も無く、まるで革袋に入った水でも飲むかのように。
ハーディはその意識が途切れかかっていた。体中が痛み、力が入らず、立ち上がれない。
だが、今自分がやらなければいけないことだけはわかっていた。
クラリスを守る。
だが、実際は異形の騎士に手も足もでず、殺されかかっている。
(なんと、自分の弱い事か・・・)
だが、泣き言を言うのは後だ。
今は立ち上がらなければならない。
だが、そんなハーディの目に飛び込んできたのは、異形の騎士と自分の間に飛び出してきたクラリスであった。
「逃げろっ! クラリス逃げるんだ! その異形の騎士の狙いはお前だ!!」
掠れるような声で怒鳴るハーディ。クラリスに聞こえていないかもしれない。
だが、確実にクラリスはこちらを見た。
そして、その場で呪文を生成し始めるクラリス。
異形の騎士と戦おうと言うのだ。
「だめだっ! クラリス逃げるんだ! そいつは普通の敵じゃない!!」
だが、その声が届かないのか、クラリスは異形の騎士に呪文を放つ。
強力な聖なる光が溢れ出し、異形の騎士を包み込んだ。
これで決着かと思いきや、異形の騎士はその光を浴びても何の影響も受けないのか、クラリスに近寄って来た。
「馬鹿な・・・はっ! 逃げろっ! クラリス逃げるんだ!」
何とか声を出すハーディだが、今だ体に力が入らず立ち上がるどころか、満足に動くことも出来ない。
そして、異形の騎士は左手でクラリスの首を掴み持ち上げた。
「や、やめろ――――――!!」
クラリスが一瞬こちらを見た。
その口が動く。僅か、三文字。
そして、
「―――――!!」
ハーディの目に、クラリスの頭部と胴体が千切られ、頭が地面に落ちて行くのがスローモーションのように見えた。
そして、クラリスの体を逆さにして、その首から吹き出す血を浴びる様に飲む異形の騎士。
ハーディの中の、何かが、切れた。
「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
バチバチとまるで雷を纏うかの如くスパークするハーディの体。
魔力だけではない、何かが溢れ出し、荒れ狂う。
「グゴゴゴゴガアアアアア!!」
もはや人とは思えないような叫び声をあげるハーディ。
「その薄汚い手を放しやがれぇぇぇぇぇぇ!!!」
バチバチとスパークし続けるハーディの体の一部、両手、両足の先がまるでドラゴンのようになっていく。
強烈に集まる魔力。その魔力はより昇華されより強力な力になる。
それは<竜気力>と呼ばれるエネルギーであった。
両掌を敵に向け、ハーディは<竜気力>を集中していく。
確実に殺気を持って狙いをつけているハーディだが、その体を蝕む激痛『聖女の呪い』すらハーディの怒りには届かない。
「<竜撃砲>!!」
キィィィィィィィィンと甲高いエネルギーの圧縮音が止まる。
そして打ち出されるエネルギー!
キュバッ!
空を切り裂き、光の砲撃は異形の騎士の右腕を消滅させた。
異形の騎士が掴んでいたクラリスの胴体が宙を舞い、地面に落ちる。
「グガガガガッ!」
右腕を失い、赤い血を吹き出し、異形の騎士が叫び声をあげる。
そして、ハーディは意識を失った。
本編は「プロットA」を選びました。ギリギリまで迷ったのですが・・・。
今後とも「ドラリバ」応援よろしくお願いします!
(自分で愛称呼んでます(苦笑))
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