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第24話 夏疾風

「ねえハーディ」


クラリスが声を掛けてくる。

今日は休日。学校は休みであった。

あれからすでに4年の歳月がたった。

現在ハーディやクラリスは最終学年となっていた。

来年春には学校を卒業。

王都にある王立高等学校に通うことが予定されている。


ハーディ、クラリスの正式な誕生日は不明だが、ハーディの最初に見つかった初夏の日を誕生日としている。そうするとクラリスの方が2か月ほど早めに生まれているはずなのだが、物心ついた頃のクラリスが「お祝いはハーディと一緒がいい!」と言って聞かないのでクラリスのお祝いを遅らせてハーディの誕生日を待ってから一緒にお祝いをするのが恒例になっていた。


「どうしたんだい? クラリス」


「もうすぐ誕生祭だね!」


花咲くような笑顔でそう告げてくるクラリス。

今は初夏。ハーディが生まれた年は雨も多く、気温も低めな冷夏だったと聞いていた。だが今年は心地よい春を過ぎ、夏らしい気候が感じられるようになっていた。まさしく初夏の季節である。


「そうだね」


ハーディは笑顔で応じる。

毎年誕生祭と言っても教会でいつもの食事よりずっとご馳走を用意してもらってみんなで食べるくらいだ。だが、クラリスとハーディはそれぞれ大人たちに内緒でプレゼントを交換し合っていた。もちろん田舎の村でたいした物が買えるわけでもなく、お小遣いもたくさんあるわけでもない。今までプレゼントとして渡したものは、木彫りのホーンラビットだったり、石彫りのホーンラビットだったり・・・。


(あれ? 我はなぜホーンラビットばかり製作したのだろうか?)


特に理由はないのだが、村の近くで見る魔物の中ではホーンラビットが一番多いのと、比較的フォルムがかわいい感じがするという理由の他に、最初にプレゼントした粘土細工のホーンラビットをことの他クラリスが褒めて喜んでくれた事が起因しているのかもしれない。


「ハーディ、実はね・・・」


後ろ手に組んで、ちょっとくねくねするクラリス。

・・・可愛い。ハーディはこれだけで何かおねだりされたら何でも叶えてやろうと思ってしまう。


「今年のプレゼントに、連れて行って欲しいところがあるの」


ニコニコしてハーディを覗き込むクラリス。


「どこへ行きたいのだ?」


ハーディの問いに恥ずかしそうに言い淀むクラリス。


「実はね・・・ハーディが一人でトレーニングしている山に連れて行って欲しいの」


「!!」


ハーディは子供のころから山籠もりの様にトレーニングする日があった。

クラリスが物心ついてからは二人一緒に居る時間がかなり長いため、クラリスに見つからずハーディ一人でトレーニングに行けるタイミングはなかなか無かったのだが、それでもクラリスの目を盗むようにトレーニングに出かけた。寝る前の魔力循環トレーニングは毎日行っているし、教会裏での体術トレーニングは欠かさないが、実魔術の発現トレーニングや実戦形式の戦術などは見られる見られない以前に人の居ない広い場所がないと実施できない。

そのために身体強化での高速移動で山奥の頂上近くへ出かけていた。


「・・・知っていたのか、クラリス」


苦笑しながらクラリスに問う。


「うん、夕暮れ時とか、私が教会での作業中だったりとか、後夜中にこっそり出て行った時もあったよね・・・?」


小首を傾げながら逆に問い詰めてくるクラリス。

ハーディはたじたじだ。


「よ、夜中に抜け出したことも知ってたのか・・・」


ポリポリと頭を掻きながら苦笑するハーディ。

まさかこっそり夜中に抜け出していた事も知られていたとは・・・。


「だから、ね? 連れて行って欲しいな。この目で見て見たいの」


ニコニコするクラリス。

ハーディはふっと溜息を吐くと、クラリスをお姫様抱っこした。


「キャッ!」


いきなりの事で驚くクラリス。だが、反射的にハーディの首に手を回していた。


「さあ、出発だ!」


身体強化を張り巡らし、クラリスをお姫様抱っこしたまま森の中を疾走して行った。




・・・・・・




「ここがいつもハーディが自分を鍛錬していた場所・・・」


先ほどまでクラリスをお姫様抱っこしたまま木々の間を高速で駆け抜けたり、枝から枝へ空を飛ぶように移動していたハーディ。

クラリスはキャアキャア悲鳴を上げていたのだが、到着して見ればすっかり落ち着いて興味深そうに周りを見ている。

山奥の頂上近く、さらに奥へ向かうと崖があり、山裾の村々を一望にできる素晴らしい絶景スポットがある。


だが、そのスポットの手前、ハーディが実際にトレーニングを行った場所はとんでもないことになっていた。特に<超重力場(グラビティダウン)>を放った場所はまるでミステリーサークルと言っても過言ではない状態になっている。


「ふええ~」


クラリスは真っ平らになってしまった場所に立ち、感心していた。


「あまり自然破壊がひどくならない様に気を付けてトレーニングしたのだがな・・・」


半径10mでサークル上に真っ平らにしてしまったハーディが言う事ではないのだが、

命奪死王拳(めいだつしおうけん)などで大木をへし折った本数もそれほど多くはない。


「ハーディはここでトレーニングしてたんだね!」


ニコニコしながらハーディに確認してくるクラリス。


「そうだな、ここで魔法や体術、攻撃スキルなどのトレーニングを行っていたな」


懐かしい言い方をしているが、先日もここへトレーニングに来ていたハーディである。


「・・・いつもハーディは頑張ってるね」


「そうか?」


「うん、ずっとハーディが頑張っているのを見ていたよ」


とびっきりの笑顔を見せながら今までの思いを伝えてくるクラリス。


「ずっと・・・。ハーディが色々あっても前を向いてずっと進む歩みを止めなかったことを知ってるよ。そして、ハーディが苦しい時に力になってあげられなくてごめんね」


少し目に涙を溜めてハーディを見つめてくるクラリス。


「何を言う。我はクラリスがいたからこそここまで頑張って来れたのだぞ? クラリスが居なければこんなに頑張っていない」


苦笑しながらハーディスが言う。

トーリやタニア、ニーナたち家族ももちろん大事だが、やはりクラリスを守りたいという意識が強くあるから聖女の呪いがあっても戦えるようにトレーニングを続けて来たのだ。


「私の・・・ため・・・? 勇者だから鍛えていたんじゃなくて・・・?」


クラリスの頬がみるみる朱色に染まっていく。

涙の溜まった目をハーディから反らしてぷいっと背を向ける。


「どうして私のために・・・?」


首だけハーディの方に向けて問いかけるクラリス。


「もちろん、クラリスを守れるようにだよ。我は自分が勇者などと思ったことは一度もない。何かの間違いだろうと思うよ。でもそれでもお世話になった周りの人や、近くにいる大事な人を守れるくらいの力はあった方がいいじゃないか」


ドレ―ニングが自分のためにあった。そのことはクラリスにとって衝撃だった。

ハーディの凄絶なトレーニングは、勇者としての自覚がもたらすものなのかと思っていた。

だから、自分に出来ることは何なのか、クラリスはずっと悩んでいた。

聖女と呼ばれるほど回復系の呪文に適性が出た時は、少しはハーディの力になれるかもと思った時もあった。でもハーディの根幹が自分を守るための鍛錬だったとは・・・。


クラリスは自然と自分の瞳から涙が流れている事に気が付いた。

しかし、クラリスはそれを拭う事すら忘れていた。


「ハーディ・・・」


クラリスは言葉を失う。

ハーディはクラリスが涙を流しているのを直視できないほど照れてしまった。


「クラリス、おいで」


強引にクラリスの手を握り、走り出す。


「ハ、ハーディ!?」


急に手を取り走り出したハーディに驚くクラリス。

ミステリーサークルを出て森の木々を走り抜けると、視界が一気に広がる。

森が切れて崖が現れた。


「わあっ・・・!」


崖の先端近くまで歩いて行き、手を離したハーディは離した手をクラリスの肩に優しくかけた。


「いつか、クラリスに見せたいと思っていた景色だよ」


目の前に見えるは雲海。そして雲の切れ間から眼下に広がるはどこまでも広がる森の木々と点在する村々。視線を上げればこちらもどこまでも碧く透き通った青空が。


再び声も無く涙が流れるクラリス。


その時、一陣の疾風(しっぷう)が裾野から吹き上げ、ハーディとクラリスの間を吹き抜けて行った。強い風に巻き上がるクラリスの髪。


「夏の疾風(はやて)か・・・」


過ぎ去る風を振り返り、思わず呟くハーディ。


「夏疾風・・・」


クラリスは過ぎ去った疾風(はやて)を思い、ハーディと生きていられる今この一瞬に感謝した。人の人生は一瞬に吹き抜ける夏疾風のよう。ならば、その刹那を後悔なく生き抜きたい。


吹き抜けた疾風(はやて)と共にクラリスの涙も吹き飛んだ。

今思うはこれからの一瞬一瞬をハーディと共に歩もうと決めた未来。


「ハーディ!」


元気よく名を呼ぶクラリス。


「ん?」


景色を見ていたハーディがクラリスの方に顔を向ける。


「!」


クラリスが飛びつくように距離を縮めてハーディの肩を掴み、キスをした。

二人にとって初めてのキス。


「クラリス・・・」


これにはハーディも驚いた。


「今年のプレゼント・・・」


顔を真っ赤にしてそう告げるクラリス。


「ハーディ、これからずっと・・・一緒、ね!」


そう言って右手の小指を差し出す。

小指を絡めて約束すると、永遠に叶うと言う、おまじない。

ハーディも右手の小指を差し出して、お互いの小指を絡める。


「ああ、ずっと一緒だ」


右手の小指を絡めたまま、お互いの瞳を見つめ合い、そして今度はゆっくりとキスをした。

瞬間、二人を祝福するような夏疾風が再び吹き抜けた。


今後とも「ドラリバ」応援よろしくお願いします!

(自分で愛称呼んでます(苦笑))

よろしければブックマークや評価よろしくお願い致します。

大変励みになります(^0^)

他にも投稿しています。


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よろしければぜひご一読頂けましたら幸いです。


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