第21話 イザベラとの決闘
クラリスに離れた場所まで移動してもらい、イザベラに対峙するハーディ。
「我に勝っても最強とは限らないと思うのだがね・・・。世の中は広いんだ」
頭をボリボリと掻きながらボヤくハーディ。
だが、イザベラは目に怒りの炎を滾らせ怒声を放つ。
「この学校でアンタがトップなんだから、仕方ないでしょお! 座学もトップ!魔法実習もトップ!体術もトップ!誰がどう見てもアンタがこの学校で最強なのよ!」
「・・・・・・」
「なるほどっ!」
ハーディは二の句が継げなかったが、クラリスは手をポンッと叩くと、納得した。
ハーディは順位に全く興味がないので張り出された結果などを確認に行ったことは一度も無かった。授業内で発表があったり、クラリスに褒められたりしたこともあったかとは思うのだが、それでも順位に無頓着であったため、記憶には残っていない。
「・・・我はいつの間にか学内で最強であったのか・・・」
溜息と共に呟くハーディ。
ハーディは視野を広く世界に開いている。この学内という小さな世界での順位など全くもって興味も無く無意味であると考えていた。
だが、当のイザベラはそうは考えていないようだ。
この学内で「最強」の称号が最も大事だと考えている節がある。
人間には多種多様な考え方があり、それと同じだけの価値観もあるという事を学ぶハーディであった。
「まあいい、それでは我が相手してやろう。かかって来い」
「ちょっと勇者だからってアンタ上から過ぎるのよ!」
文句を言いながら魔導士の杖を振り上げるイザベラ。ハーディにとっては普段の口調であったのだが、イザベラには気に入らなかったようだ。
「行くわよ! 炎よ集い荒れ狂え!わが手より離れその真火を具現せよ!<火炎輪舞>!」
イザベラの大きく振り上げた魔導士の杖の先から火炎放射のように炎が吹き出る。
放たれた火炎は大蛇のようにうねりながらハーディに向かってきた。
(以前、ヴァンパイアの野郎が使っていた魔法だな・・・、その時よりも威力が圧倒的に低いな)
「<火炎耐性>」
再び<火炎耐性>を唱え、<火炎輪舞>の呪文に耐えるハーディ。
(くっ・・・、<耐性>の呪文効果が非常に高いわ・・・。あの<耐性>を突き破るのは並大抵の呪文では無理だわ。でもね、ハーディ?そうとわかればやりようはあるのよ?ふふっ)
<火炎輪舞>を<耐性>されたというのに、不敵な笑みを浮かべるイザベラ。
「・・・? 何か楽しい事でもあったか?」
「そうね、あなたがとても強いということが改めてわかったから・・・。あなたを倒して最強を名乗ることが出来ると思うと、ワクワクして嬉しくなるの」
挑発的な笑みを浮かべてそう告げるイザベラ。
「ふむ、希望を持つのは良いことだとは思うが・・・、ほら、こういう時はなんて言ったかな? 取らぬホーンラビットの角算用・・・だったか?」
「わ~~~~、ハーディ、さっすが博識だねっ!」
クラリスがパチパチパチと拍手しながら褒めてくる。
ハーディはちょっと照れてしまうが、イザベラは瞬間湯沸かし器の如くブチ切れる。
「誰が取らぬホーンラビットの角算用よっ! これでも余裕を見せていられるかしらね!」
そう言うと魔導士の杖を複雑な文様で動かし始めた。
「炎よ!大気に満ちたる塵に宿り降り注げ!<星屑の火炎>!」
ハーディの周りにきらきらと光る小さな炎の粒が舞い降りる様に降り注ぐ。
一つ一つの炎は小さくても、降り注ぐようにハーディの周りを取り囲む。
(ふむ、炎の威力は別段大したことはない・・・が、広範囲だ。躱すことは難しい。まあ、威力が大したことないわけだから、<耐性>してしまえばいいわけだが。それにしても、授業でもそうだが、呪文の詠唱に「呪音」を用いないのは何故なのだろうか?呪音のような言霊を用いればより強力な呪文も操れるようになると思うが・・・)
呪音というのは、呪文の詠唱において唱えられる言霊の内、現在の言語に寄らず、古の時代に用いられた言語である。特に古の時代、直接精霊に働きかけたり、マナと呼ばれる魔力の源を活性化させる言霊を用いた呪文は非常に強力であった。
(我らが操る呪文としては、危険も多いのでまだ早いという事か・・・)
学校での指導や、イザベラ自身が操る呪文のレベルを鑑みると、そういう事なのだろうと一人納得するハーディ。
「<火炎耐性>」
ハーディは三度<火炎耐性>でイザベラの炎の魔法に対処する。
だが、これこそがイザベラが仕掛けた罠でもあった。
(今よっ!)
「マナよ!収縮し弾けよ!<熱線波>!」
ギュオッ!
イザベラが両手を組むように突き出し、呪文を唱える。大きく足を踏み出し、構えたその状態はマントを翻し、ミニスカートのローブから見えてしまう下着をも意識せず熱線が放たれる!
(あわわっ!パンツが!パンツが!)
クラリスはハーディに向かう熱線よりイザベラの翻ったミニスカートから見えてしまったパンツの方が重要であるようだった。
(広範囲呪文の<星屑の火炎>を防ぐために<火炎耐性>を展開しているハーディに、この無属性呪文のエネルギー波を防ぐ手立てはない!)
<耐性>の呪文は通常、耐性を強化したい対象専門の呪文になる。炎に耐性を得るために、吹雪に耐性を得るために、雷に耐性を得るために・・・。
そして、全属性の耐性呪文もあるのだが、それは高度であったり、威力が低かったりするのである。
そして、ハーディが広範囲呪文の<星屑の火炎>を防ぐために<火炎耐性>を展開したこの瞬間を狙って、無属性攻撃呪文である<熱線波>を放ったイザベラ。このタイミングでは別の<耐性>の呪文を展開することは出来ず、イザベラの目論見通りハーディに防御呪文無しで直撃することになる。
「勝った・・・!」
ドォォォォン!
<熱線波>の呪文が放つエネルギー波がハーディを直撃した。
濛々と土煙が立ち込める。
「ちょっと・・・死んでないわよね?」
自分で呪文を放っておいて、それはないんじゃないのと顔を顰めるクラリス。
クラリスが離れた場所から顔を顰める程度で済んでいる・・・そのこと自体がハーディの状態を物語っているとも言える。
「ふむ・・・、無属性エネルギー魔法としては秀逸だな。エネルギーの収束が比較的早めで呪文を放つまでのタイムラグが少ない。実践向きだな」
イザベラの放った自分の知識にない呪文を分析するハーディ。「竜の叡智」で検索するも該当がない。最も近似値的な技で検索できたのが「かめ〇め波」であったのだが、ハーディにはピンとこなかった。
土煙が晴れ、ハーディが無傷の状態で姿を現す。
「ちょっと・・・どうして無傷なのよ? 無属性の<耐性>を展開する時間はなかったはず・・・」
イザベラは信じられないといった表情で呟く。
「<耐性>は防御を強化する呪文である以上、元々の防御力が高ければ<耐性>を展開しなくても耐えられる。最も、魔力そのものをコントロールすれば、呪文とは別に魔力シールドをそのまま展開することも出来るのだがな」
「なんですって・・・!」
イザベラは驚愕した。魔法の基礎は魔力の強化と呪文の習得に尽きる。魔力そのものを操ってどうにかするなど、イザベラは聞いたこともなかった。
「桁違いのバケモノね・・・あなた」
「バケモノとは失礼な。これでも多少なりとも愛くるしいという自負がある」
「うんうん」
離れたところでクラリスが頷いている。
「許さない・・・」
「うん?」
「許さないわ!あなた!」
「え~~~、どして?」
ハーディはイザベラの怒りを理不尽だと思ったのだが、イザベラは止まらない。
「私の最強の呪文で!あなたを倒すわ!覚悟なさい!」
ハーディはなぜ覚悟をせねばならぬのか、全く理解できない。イザベラの事を理不尽の権化と認識することにした。
「リール、ストロフェス、アーネストリー。数多に煌めく星々に問う。我が魔力に応じ天高く遥かなる彼方よりその存在を示し降り注げ!」
「お、おいおい!そいつぁまずいぞ!」
ハーディの口調が焦ったものに変わる。彼女が唱えている呪文は「呪音」が含まれていた。それは明らかに上位の呪文であることを示していた。しかも、イザベラが唱えている呪文はハーディの知識にもある。かなりの上位呪文<流星雨>だ。この呪文は実際に流れ星を呼ぶわけではなく、空気中の塵を魔力で固めて「星」としたものを降り注がせる呪文である。魔力の制御が難しく、高い魔力技術がないと星の数や降り注ぐ場所をうまくコントロールできない。また、発動自体も膨大な魔力が必要になるのだ。
果たして、イザベラにその実力があるのか・・・。
有れば有ったでハーディにその呪文が襲い掛かるのだ。どちらにしても碌な事にはならない。
だが、イザベラの呪文は完成する。
「<流星雨>!!」
ズオンッ!
強力な魔力波動と共に、イザベラの体が崩れ落ちる。
(くあっ・・・ち、力が抜ける・・・魔力が枯渇してコントロール出来ない・・・)
そして、コントロールを失った<流星雨>はイザベラ本人を中心に降り注いだ。
(あ・・・私、死んじゃうんだ・・・変にハーディに意地を張っちゃったからかな・・・)
だが、崩れ落ちるイザベラの体をガシッと支える手が。
見ればいつの間にかハーディが駆け寄って、崩れ落ちそうなイザベラの肩を右腕で支えてくれていた。
(ウソ・・・王子様来た・・・)
一瞬、今の状態が現実のものか、それとも自分が今際の際に見た幻想なのか。それすらも判断できないまま、それでもイザベラはその一瞬の時を神に感謝した。
「レイ・オブ・ザ・ラネストリー!神霊の祭壇を背に破邪の力よ方陣に満ちよ!<絶対なる聖域>!」
ハーディを中心に荘厳なる光がドーム状に広がる。
イザベラを中心に<流星雨>の無秩序に降り注ぐ星を完璧に防御し切るハーディの<絶対なる聖域>。
「ふうっ! 少々驚いたな。コントロールし切れなかったとはいえ、あれほどの呪文を発動させるとは・・・。イザベラは魔法を操る天才だな」
イザベラの実力は本物だったが、褒めちぎる事により敵対的な印象を少しでも解消してもらおうというハーディの姑息な戦略が見え隠れする。
(ああ・・・ハーディ、あなたは私の命を救ってくれたのね・・・)
イザベラはハーディを見つめた。今までとは違った炎を瞳に宿して。
(ああ、きっとイザベラの瞳に私は映っていないんでしょうね・・・)
ハーディの左腕。そこにはしっかりクラリスが抱きしめられていた。
イザベラの放った呪文、<流星雨>はイザベラを中心に無秩序に降り注いだため、離れた位置にいたクラリスにも被害が及ぶ可能性があった。そんな可能性をハーディが見逃すわけもなく、イザベラに駆け寄る前に身体強化したハーディはクラリスを確保、抱きかかえたまま高速移動し、イザベラを助けたのだった。
現在右腕にイザベラ、左腕にクラリスを抱きしめたまま、仁王立ちするハーディ。
クラリスはイザベラの瞳に宿る炎にライバル的なものを感じるのだった。
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(自分で愛称呼んでます(苦笑))
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