第18話 対策と心の持ちよう
昨日は初投稿から丁度一ヶ月ということで、執筆一ヶ月達成記念でこの「ドラリバ」の他に
「まさスラ」「まおテン」も同日更新!と意気込んだものの、出張で遅くなってまさかの午前様ということで一話も更新できず(;_;)
そんなわけで本日は執筆二か月目突入祝い!ということで、「ドラゴンリバース 竜・王・転・生」「転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?」「魔王様にテンセイ!」の三つの物語を全て更新したいと思います。第一弾はこの「ドラリバ」です。よろしければ他も物語もお楽しみいただければ幸いです。宜しくお願い致します。
ハーディは教会に帰ってくると、碌に食事もとらずにトーリとタニアに寝ることを伝え自室に籠った。
布団を頭から被って丸くなる。
「人に裏切られることがこれほど辛いとは・・・」
ハーディは前世から続く数千年にも及ぶ時の流れの中で、裏切れられる、といった状況に陥ることは一度も無かった。
紛れもなくハーディは強者であったから。
それだけに辛く苦しいと感じでいる今の気持ちを持て余していた。
『竜の叡智』に頼ることなく苦悩していたハーディは、ふと気づいた。気づいてしまった。
「我はなぜこんなに辛く苦しい思いをせねばならんのか・・・」
そうごちるハーディは、「なぜ」に気づいた。そう、いじめて来た連中と自分との存在意義の中で、彼らは自分が悩まねばならぬほどに大切な存在だったであろうか?
「否」
ハーディは勢いよく布団を跳ね除けて上半身を起こす。
彼らは同じ学校に通う生徒だ。だが、ハーディにとって彼らの存在意義はそれだけの事でしかない。ハーディが彼らとの関係改善を悩む必要など、よくよく考えればなかった。ハーディはトーリやタニア、ニーナ、何よりクラリスを守り通すだけの力があればとりあえずいいと考えている。学校を卒業し、高等学校で冒険者コースを受講、世界を旅する準備が整えば「聖女の呪い」を解除する方法を探して世界を旅するつもりでいた。その時、今学校でハーディを敵視していじめを行っている連中はどこにいるのか?
そう考えた時、ハーディが目的を持って人生を進んでいる中で、矮小な彼らなど路傍の石でしかないことに気づいた。
「そうだ・・・、そうなのだ」
ハーディは腑に落ちる。彼らのような存在に気を取られることが時間の無駄でしかないことに。
靴を盗まれるなら、盗まれないように自分で保管すればいい。
学校の連絡で嘘を吐かれるなら、教師に必ず確認すればいい。
彼らとコミュニケーションを取る必要性などどこにもない。
これからの長い自分の人生において、彼らが自分のそばにいる時間など、僅かでしかない。心を砕く時間すら惜しいではないか。
座学や学外授業でグループを作れないことを「寂しい」と嘆く必要などない。彼らと同じ時間を過ごす事すら、自分の人生において不要な事なのだから。
そこまで思い巡ったハーディはさらに気がつく。
実は彼らこそが本当の意味で弱者であった事に。弱いからこそハーディをいじめて来た事に。
前世のハーディは間違いなく強者であった。
強者には強者だからこその矜持がある。自分に自信があるからこその矜持がある。自分を常に高めて来た自負があるからこその矜持がある。
強者であれば、座学でハーディに後れを取れば同じ座学で巻き返そうとするだろう。暴力に訴えたりはしない。それは自分で座学ではハーディにかなわないと負けを認めたことに他ならないのだから。
力比べを望むなら一対一で対応するだろう。複数で囲んで暴力を振るったりしない。己の力でハーディを上回らないと意味がないからだ。
一人で勝てないから大勢で攻撃する、力で勝てないから搦手で仲間外れにして精神的負荷をかける。そして、ハーディに罵声を浴びせる。弱虫!と。それらの行為についてやっとハーディは理解できた。それらは彼らが矮小な弱者だからこそ必要な行為だったのだ。この世界からすれば、本当に小さな小さな「学校」という隔絶された一つの世界で、僅かな人数の生徒たちの集団において、ハーディという存在を「自分たちよりも下の弱者」として貶めることにより、自分たちの優位性を確保しようとしていたのだ。
だが、これも落ち着いて考えてみれば、実に単純だ。裏を返せば、自分たちが大勢で集まってハーディ一人に精神的負荷をかけ、弱虫だ泣き虫だと罵倒し、自分たちの力が上だとアピールしなければならないほど弱者であるということだ。それはつまり、ハーディを意識してか、無意識なのかは別にしても強者として見ていることに他ならない。でなければ大勢で集まって一人を攻撃している理由もないのだから。
真の強者であれば、そのような行為が如何に無意味な事であるか即座に理解できるだろう。自分の力で相手を上回らなければ強者と呼ばれないのだから。小さな世界に固執して強制的な優劣をつけたところで、その世界から一歩踏み出せばそれらは何の価値も持ち合わせない事が分かっているから。本当にピンチの時には自分自身の力でしか生き残れないのだから。
そう、そのような行為に固執し、必死になる事こそ、彼らが「弱者」であることの証明だったのだ。
「くくっ・・・、なんだ、そんな事だったのか」
気づいてしまえば、取り立ててどうということはない。
こちらから交流をする必要もないのだから、無視してくれるなら実に喜ばしい事ではないか。何やら嫌がらせや悪口があっても、それこそこちらが無視すればよい。
暴力は跳ね返してしまってもよいが、後々面倒でもある。逃げるように避けてしまえば面倒も無いし、必要なら教師に訴えてもいいだろう。どうせ教師に告げ口したなどと後で騒ぐ奴もいるだろうが、それこそどうでもいい。彼らの評価など自分には何の関係もない、価値をもたらさないものなのだから。
随分と気が楽になった。
学校でも孤高でいればよいのだ。泰然自若と構えておればよい。
コンコン。
ドアがノックされる。
「んっ?」
だが、返事をするより早くドアが開かれる。
「ハーディ、まだ起きてる?」
それはワンピース姿のクラリスだった。朝寝ぼけ眼で朝食を取りに食堂へ出てくる姿を見たことがあるから、そのワンピースは寝間着替わりなのだろう。
「どうした? クラリス」
ハーディは夜という時間に自室を訪ねて来たクラリスに声を掛けた。
「うん、学校で約束したでしょ? ハーディにマッサージするって。だから、マッサージしに来たの」
にっこりととってもいい笑顔で告げるクラリス。後手にドアをぱたんと閉め、ハーディの布団の横まで来てちょこんと膝をつく。
「マッサージ・・・?」
ハーディはマッサージなるもののイメージが付かず首を傾げる。
前世のハーデス時代には到底なかった「マッサージ」?である。
人間として転生て数年のハーディにとっても謎単語であった。
「そう、マッサージ。はい、ひっくり返って俯せになってね」
と言ってコロンとひっくり返されるハーディ。クラリスの手際に思わず驚く。
「わわっ」
布団もはぎ取られ、枕に横顔を押し付けるようにして俯せになったハーディの腰にクラリスがひょいっと乗った。
「お、おいおい・・・」
クラリスの軽さと柔らかさに驚くハーディ。
「じゃあ行くよ、ハーディ!」
何かしら気合が入ったクラリスがハーディの腰に親指を突き立てる。
「いたたたたっ!」
グリグリと親指を押し当ててくるクラリスの攻撃?に溜まらずハーディが悲鳴を上げる。
「痛いのは効いてる証拠だよっ!」
クラリスはにこにこしながらハーディの腰を親指でぐりぐりし続ける。
本当に効果があるかは定かではない。
そのうち腰から肩に上がって行くと、肩当たりの親指ぐりぐりは一層パワーを増した。
「おいたたたたっ!」
ハーディはもがくが、クラリスに腰の上に股がられているので無理に体を捻ってしまうとクラリスを振り落としてしまうかもしれない。クラリスがひっくり返ってけがをしてもいけないので、結局大きく抵抗できない。
「ふっふっふ、ここのツボが健康にいいんだよ~」
またしてもにっこりといい笑顔で解説するクラリス。
この時ハーディは俯せになっているのでクラリスの顔を拝むことは出来なかったのだが、見ていたらこう言うだろう、「悪魔的美しき笑顔」と。
そしてハーディはさらに気づく。
自分一人、孤高の強者として振る舞って行く事に今、何の疑問も持たないと気持ちを強く持ったばかりなのに、自分にはトーリやタニアと言った「家族」がいてくれたことに。
そしてニーナや教会の神官戦士やシスターたちの様にハーディを大事な仲間だと思ってくれている人たちがいることに。
そして何より、赤ちゃんの頃から一緒にずっとそばに寄り添ってくれたクラリスがいることに。
いじめという対応でもってハーディに向かってきた彼らを、「不要の存在」と意識づけても、自分は決してこの世界に一人だけではなかったのだ。
小さな小さな「学校」という世界でさえ、男子の友達が一人も出来なかったとしてもクラリスがいてくれる。たとえ学校で一人だったとしても、教会に帰ってくればトーリやタニアやニーナたちがいてくれる。ハーディは自分が強者として孤高の存在となったとしても、こうしてやはり「自分の世界」を共有してくれる存在がいることにとても心が温かくなった。
(ああ・・・、人間の世界というものも存外悪くはないものだ・・・)
ハーディは今、初めて人間に転生してよかったと心の底から思った。
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他にも投稿しています。
転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?
https://ncode.syosetu.com/n2026ew/
魔王様にテンセイ!
https://ncode.syosetu.com/n2011ew/
よろしければぜひご一読頂けましたら幸いです。




