第15話 山籠もり
ある日ハーディは一人でこっそり山の中に来ていた。
ヴァンパイアを撃退してから約2年。あれからハーディは5歳に成長していた。
ずっと魔力強化トレーニングを続けてきたが、そろそろ実践で戦える戦闘スキルと呪文のトレーニングも行っていかなくてはならない。
そして最も厄介な「聖女の呪い」への対策が急務だ。
「さて、やっかいな攻撃に対する呪いについて研究するとするか」
ハーディは一人つぶやく。
「基本的に相手に対して攻撃の意思を持って直接的に行動する時に呪いが発動するように思う。問題は・・・」
『竜の叡智』を起動し、あらゆる武術のデータの中から人型にあった体系の武術を選択して試して見ることにする。まずハーディは武道の型を行ってみる。激しく突き、蹴りを繰り出すが、特に問題は無し。
魔力を体内に巡らし、肉体強化を行って突き、蹴りを放ってみるが、やはり問題はない。
「ふむ、基本的な攻撃の型を行っても問題ないようだ。」
ハーディは近くにある大木に正対する。
「はぁぁぁぁぁ!闘技、命奪死王拳!」
ズドォォォォォン!
闘気を乗せた正拳突きの一撃が大木を粉砕する。
「ふむ、植物には問題なく攻撃できる。広義で言えば植物も生命体であるはずだが・・・」
ハーディは一人ごちる。だが、少なくとも植物には攻撃出来た。
「後は魔物への攻撃と人への攻撃で差が出るかどうかだが・・・」
すでに村の子供たちとの勇者ゴッコで、人への攻撃は呪いが発動するとわかっている。
せめて魔物への攻撃は見逃してもらいたいところだが・・・。
ちなみにハーディは『竜の叡智』により、蓄えられた知識から魔法や闘技を使用することができる。もちろんそれに見合う闘気や魔力が伴えば、の話であるが。
先ほどの武術の型や闘技も知識から引き出したものだ。
前世の皇帝竜であった時はある程度魔法は使用しても、闘技、戦技などはあまり使用していなかった。闘技や戦技などはやはり人型をベースとした技が多いため使いにくかったというのが実際の所である。ただ、ハーデスは2足歩行が可能だったため、使用しようと思えば使用できた。
前世でも闘技、命奪死王拳をぶっ放して山を1つ吹き飛ばした事があったが。
その時だった。ガサガサッと音がして茂みから1匹の魔物が飛び出してきた。
「ホーンラビットか・・・」
一角兎とも呼ばれる魔物だ。生まれ変わる前のハーデスは元より、今のハーディでも魔力による肉体強化があれば大した相手ではない。戦闘力の無い通常の村人であれば、油断すれば脅威の相手であるが。だが、今は例の呪いがある。
「闘技、飛燕斬!」
右ひじを曲げ、顔の前に手刀を引き上げ、闘気を纏わせる。
後は目標に向かって手刀を突き出せば、闘気の刃が相手を両断するのだが・・・。
「ぐうっ!」
問題なく闘気を手刀に纏わせることは出来た。だが、目標を見据え、解き放つ瞬間、全身に激痛が走る。
痛みで闘気のコントロールが乱れ、手刀に纏わせた闘気が霧散してしまう。
そこへホーンラビットが突進してきた。
「ちっ!」
ホーンラビットは角をまっすぐこちらに向けて飛び掛かってくる。
反射的に身を屈め、後ろに反らし気味にかわす。そのまま角を右手で掴み、巻き込むように引き付ける。背負い投げの要領で地面に叩きつける際に右ひじをホーンラビットの喉に落とす。
「ギュペッ!」
ホーンラビットはその一撃で絶命した。
「ふうっ・・・」
ハーディは一息つく。
「・・・ん? 今、無意識ならば攻撃できたのか?」
思いがけず実践で確認することが出来た。
一つ、魔物でも呪いが発動し、攻撃が阻害される。
一つ、無意識に身を守るために放った攻撃(技)は呪いが発動しない。
「おそらくだが・・・、はっきりと相手に攻撃の意思を向けて行動すると呪いが発動するようだな・・・」
ハーディはそう結論付けていた。人でも魔物でも呪いが発動し激痛に襲われる以上、動物も多分同じことであろう。生きて活動するものに発動するという考え方もあるが、ハーディは大木を折った時に技の発動に集中し、「はっきりと大木を攻撃する」と意識したわけではない。
つまり、はっきりと「攻撃する」意思を持つとその動きを阻害しようと呪いが発動する、ということだ。
だが、だからと言って対策がすぐ打てるわけではない。
何といっても攻撃するためには相手に意識を向ける。技を放つ時には相手に対する攻撃の意思が必ずそこにあるだろう。
どこぞの仙人よろしく、無意識で相手を無双出来れば言うことはないが、現実問題そんな訳にもいかない。
(それでは広域殲滅魔法の一つである<超重力場>でも使ってみるか)
ハーディは実に軽く言っているが、<超重力場>は術者の指定するある一点を中心に超重力場を発生させる魔法で、その力場に捕らわれたもの全ては圧倒的な重力により押しつぶされる。現在この世界で一般的に使われる魔法体系の中には存在しなくなっている言わば<失われた古代魔法>と呼ばれる禁忌呪文であった。
「ディバイス・エンド・トレールリング! いにしえの精霊よ、神名により古き契約を行使しその力を持て示せ!<超重力場>!」
ハーディの体が雷を纏い突き出した右手の平から膨大な魔力が放たれる。
半径10mのサークルを描くように力場が発生し、その力が行使される。
スドドドドドドドドォォォォォォォォン!
サークル内の小動物や木々、果ては岩でさえも重力に押しつぶされ更地に変わる。
ガクンッ!
目の前が一気に暗くなり倒れそうになる。赤ちゃんの頃から魔力増幅のためのトレーニングを続け、5歳児としては信じられないほどの魔力量に達したハーディをもってしても、<超重力場>の使用は厳しかったのか、一気に魔力枯渇状態に陥ってしまった。
(くっ!少し休んで僅かでも魔力を回復させねば・・・)
ハーディは近場の木の根元に寄りかかると、座禅を組むように座る。
「<瞑想>」
目を瞑り、ハーディはスキルを発動させる。
通常、枯渇した魔力を回復させるためには睡眠が必要になる。
だが、一人で山の中、いつ魔物や動物に襲われるかわからない中で眠るわけにもいかない。そこで外部に意識を持たせたまま急速に魔力回復を行える<瞑想>を使用した。
わずかながらハーディの魔力が回復してくる。
「ふうっ・・・」
こっそり山にトレーニングに来ているため、あまり長時間教会から離れているとトーリやタニアに心配をかけてしまう。ハーディは呼吸を整えて帰宅する準備をする。
「瞬発力を高め、攻撃の意思をギリギリまで押しとどめ、瞬間の攻撃で仕留める。
攻撃の意識を持つ時間を極限まで短くしていく。意識の前に技を発動できれば尚いいかもしれんな・・・。後は広域殲滅魔法をうまく使えばなんとかなるか。」
ハーディは自分の右拳を見つめると一人ごちるのであった。
この時、ハーディはこの呪いを随分と簡単に考えていた。
闘技や魔法といったスキル自体は問題なく実行に移せたせいである意味安心してしまっていた。
本当にピンチの時に相手に攻撃の意思なく危機を脱出することができるのか?
強大な敵に向き合った時、本当に相手を意識することなく広域殲滅魔法を使用することができるのか?
もしこの時、あらゆる悲劇回避のためにさらなる疑問や対策を考えることができていれば・・・。
この後、取り返しのつかない後悔に長く苦しむことになる事をハーディはまだ知らない。
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(自分で愛称呼んでます(苦笑))
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