第13話 今後についての考察
その日は、珍しくトーリ、タニアがそろって出かけるため村を離れることになった。
近隣の村にて教会の催しがあり、その助っ人ということらしい。何でも戻りは夜遅くなるらしい。
ハーディはこの日初めて1日1人でいることになった。
・・・最も、ニーナとクラリスがいるので、ずっと1人でいるというわけではない。
朝早くトーリとタニアは出かけたため、教会は若手の神官戦士が仕切っている。
だが、朝の祈りに来た大半の人間はトーリ、タニア、そして何よりニーナが大聖堂にいないことが分かると簡単に祈りを済ませて去ってしまう。まじめな神官戦士はその状況に多少心を痛めながらも、まずは何より教会に足を運んでもらえたことに感謝の祈りをささげる。
ほとんどの男どもはニーナがいないことに肩を落として去っていくのだが。
ニーナはタニアから今日は1日部屋でゆっくり休むように言われていた。
普段から村の男たちのニーナへのアプローチは良いも悪いもすさまじいものがあった。
タニアの執り成しもあって平穏無事にいるが、タニアがいない今、常識のタガを外してしまった輩が出ないとも限らないとの心配からだった。ニーナが村に来た頃には美貌(と爆乳)に常識を吹き飛ばしてしまう輩が続出してしまったことによるものなのだが、タニアに成敗されてからはおとなしく常識的なアプローチに収まっていた。それだけにタニア不在が悪影響を及ぼさないよう、ニーナには部屋にいるよう伝えていたのだった。
「・・・はあ」
ニーナは溜息をついていた。
今日一日部屋にいなくてはならないことに対しての溜息ではない。
今の境遇に対して、これからの不安に対してのものであった。
実はハーディはそれとなくニーナの独り言を聞いている。授乳後すぐにタニアに引き渡される時もあれば、ニーナの部屋でクラリスと一緒に寝かされているときもあったからだ。
ニーナにしてみれば当時はクラリスと同じ年頃の赤ん坊であり、今でも3歳の子供なのだ。自分の独り言など聞いて理解しているはずもないと思っている。
(・・・ニーナは聖王国プレシャスからの脱走者・・・)
ハーディはニーナが苦悩しながら独り言を呟いているのを何度か聞いていた。
総合すると、何らかの理由でクラリスを連れて聖王国プレシャスという国から逃げてきた、ということだった。
どこかに幽閉されそうになったところを脱出してきたようだ。
ちなみに『竜の叡智』で確認しても「国」としての情報が出てこない。
少なくとも500年以上前に「聖王国プレシャス」などという国はなかったということになる。500年以上前この大陸にあった国はわずか4つ。
それ以外は小さな村や町単位で国家を形成していたわけではなかった。
そういった意味でも、今現在の社会情勢といったものも早めに確認せねばなるまい、とハーディは思うのであった。
それにしてもニーナの夜のうなされ方は酷いものであった。
追手を想像して夜脂汗を流している事もあった。クラリスを何としても守らなければならない、そういった強い気持ちが常に表れていた。あらあらまあまあといったふわふわとした普段のニーナからは想像もできないことであった。
不思議なのは、ニーナがクラリスの父親、つまりはニーナの夫であろう人物の事を一言も話したことがないことだった。理由があって離れ離れになったにしろ、離婚して夫を恨んでいるにしろ、何かしらのリアクションがあって然るべきだと思われる。だか、ハーディの知る限りそれは一度もない。
(・・・何か理由があるのであろうが・・・)
あまりにもしっくりしない。ニーナがクラリスの事だけしか見ていないことに。
「・・・ハーディちゃん、楽しくない?」
ハッとすると、目の前では下から上目づかいで目にちょっと涙を浮かべながらクラリスがハーディを覗き込んでいた。
「あ、ああ、クラリス。もちろん楽しいよ」
「よかった~!」
満面の笑みを浮かべてクラリスがハーディを見つめる。
ハーディは今、クラリスと「おままごと」なるものに興じさせられている。
なんでもクラリスが新妻で、ハーディが仕事から帰ってきたばかりの夫を演じねばならないらしい。なぜ3歳の男女で新婚ゴッコをせねばならんのかハーディには理解できないが、クラリスの頼みである。ハーディに断るといった選択肢はなかった。
ニーナにクラリスの後でおっぱいをもらっていたハーディにとって、ニーナとともにクラリスは守るべき存在として認識されていた。前世が竜種であったハーディにとって、番を持たなければならないという認識はほとんどない。人間でいうところの恋愛や結婚といったものの認識が知識としてはあっても心では理解できていない。だが、ニーナはクラリスを自分の命のように大事にしており、そのニーナに自分はクラリスと同じように授乳を受け、育ててもらってきたのだ。すでにハーディにとってはトーリ、タニアとともに、クラリス、ニーナも竜種で言うところの「群れ」であり、家族としての認識があった。
「あなた、おかえりなさい。お風呂にします?お夕食にします?それとも、あ・た・し?」
しなを作りながらクラリスがハーディに妖艶?な笑みを向ける。
「え~っと・・・」
クラリスの問いかけにハーディは戸惑う。
ハーディは人間に転生して約3年。人族の生活から多くの事を学び、また「竜の叡智」を起動させ蓄えられた知識を引き出していった。
その結果人族としては3歳児とは思えないほどの知識量を持っているのだが、それをべらべらとしゃべってはいけないことも最近は理解している。
先ほどのクラリスの問いかけも「それとも、あ・た・し?」で本当にクラリスを食べてはいけないことは理解できている。人族は共食いをしない種族である。
「夕食で」
ハーディの回答に、ほんの少し残念そうな顔をしたクラリスだが、すぐに
「はいっ!お夕食準備しますね!」
と嬉しそうに空の食器を並べ始める。
ハーディはこの何が楽しいのか全く理解できない「おままごと」なるものに付き合わされているわけだが、クラリスの笑顔を見るとハーディもなんだかうれしくなるのでやめたいとは言い出せない。それにしてもこの新婚演技なるものをクラリスはどこで学んだのであろうか? ふと見ればニーナはなんだか困ったような顔をしながらこちらを見ている。
ニーナでないとすると、同年代の女の子たちと遊んでいる時であろうか?
「ふう・・・ずいぶんとおマセなセリフと表情だこと・・・。きっと年上のリンダちゃんかセシリアちゃんと遊んだ時に教えてもらったのね・・・困ったものだわ」
ニーナが溜息をつきながら独り言を呟く。クラリスには聞こえないだろうが、ハーディは情報収集のため魔力操作による「聴力強化」を展開しているので、僅かな囁き声さえも聞き逃さない。
(この3年・・・いろいろ試してきたが、竜の力は封印されたか、失われたかまったく使えない。例外は『竜の叡智』のみだ。だが魔力操作は身体系のものは比較的問題なく使えることが分かった。ただし、この体には以前のような圧倒的な魔力量は現在存在していない。気をつけねば、この前のように枯渇して倒れることになる・・・)
身体系の魔力操作が可能なことが分かったハーディは、さまざまなテストを行ったため、すぐに魔力を枯渇して倒れるということを繰り返した。おかげでトーリには「虚弱体質」と揶揄され3歳になったことからトレーニングと称して剣術を教えられ始めてしまった。
タニアも心配していたが倒れても睡眠をとることにより魔力が回復して翌日はケロッとしているためすっかり慣れてしまった。
ハーディは前世の皇帝竜ハーデスであった時、あらゆる生物の頂点に世界最強として君臨していた。
他生物よりも圧倒的に強力な竜種に生まれ、まさしく最強の肉体による身体的な攻撃力、防御力を誇ったハーデスは肉弾戦以外に、あらゆる魔法を使用しての魔法戦でも圧倒的な実力を誇った。莫大な魔力のほかに、竜の叡智に蓄えた秘呪文、禁呪などの知識、竜種特有の竜力を用いた竜魔法および竜種戦闘術はまさしく世界最強として長年君臨してきた竜王ハーデスの根幹でもある。
まさしく、そのほとんどが失われてしまったと言っても過言ではない。
(あらゆる呪文が知識として残っていることが唯一の救いか・・・。魔力の増大に伴い、呪文も使えるようになっていくはずだ。後は攻撃できない呪いを何とかすれば・・・)
ハーディは今後自分が勇者なるものとして生きていくとは考えていなかった。だがしかし、攻撃できない呪いは必ず自分に不利益をもたらすはずだ。致命的なことが起こる前になんとかせねばならない。
花咲くようなクラリスの笑顔を見つめながら、ハーディは今後のトレーニングについて考えるのであった。
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