第10話 はじめてのたっち
最近のクラリスには、高速ハイハイでも逃げ切れないことが分かった。
(ならば、ハイハイ以外の方法で移動すればいいだけの事!)
ハーディは次の手立てを考えていた。
(大体、ハイハイだとどうも四足歩行に近い気がして気分があまり良くないわ! 我はそれほど下等なドラゴンではないゆえにな!)
というか、もうドラゴンではないことを忘れているハーディである。
(それにしても、人間の赤子と言うのは、一体いつまでこれほど惰弱なのだ!)
まずもって下半身が言うことを聞かない。とにかく立てない。
立とうとするが、足腰がチョープルプルする。耐えられない。
身体強化でなんとかなるような気もするが、万一移動中に魔力が切れて身体強化が解除された場合、かなりのダメージを負う可能性がある。
それを回避するためにも基本ボディの強化は必須なのだ。筋力や骨だな。
『竜の叡智』でも筋力トレーニングなどのメニューは検索できるのだが、どうも赤ん坊に適さないらしい。
だが、わずかながらも検索に引っかかったワードがある。
それは「つかまり立ち」である。
(なるほど、先人たちも考えたものよ。己の力で立ち上がれぬならば、何かにつかまればいいのはまさしく道理!)
ものすごく当たり前のことを至極真面目に感心するハーディ。
この辺りは前世にて強者が故の気づかなさというべきなのだろうか。
(さて、何か掴まるものは・・・)
と言って周りを見渡せば、ここは先ほどまで寝かされていたベビーベッド。
つまり、木枠で囲まれており、そういう意味では掴まり放題である。
(よしっ! まずはここにつかまって立ち上がるトレーニングをだな・・・)
と言って早速木枠に手を伸ばすハーディ。
(ぬうっ!)
小さな手を木枠にかけ、ぷるぷると力を入れる。
(ええいっ! 腕までも軟弱者めが!)
自分の腕を軟弱者とはどうかと思うが、ハーディは自分の腕を叱咤激励するかの如く気合を入れて行く。
(ぬおおおおおっ!)
腕の力全力で自分の上半身を引き寄せて行く、そして足腰にも力を入れて行くと、ハーディの腰が浮き始める。
(よっしゃあ! 我、もう一歩なり!)
だが、完全にすっくと立ち上がろうとしたその時、ハーディの膝は高速で笑い出しカクカクが止まらなくなる。
(おおおっ!?)
そして下半身はぷるぷるが止まらなくなり、ぺたんとしりもちをついた。
(くっ、無念!)
思ったよりも遥かに負担がかかることが分かった。
これはこまめにトレーニングせねばいつまでたっても立ち上がることなど不可能だ。
ある日、ニーナの爆乳エネルギーチャージタイムを満喫した後、ベッドに連れ戻される前にハイハイして脱出したハーディ。
ハイハイして向かった先は大聖堂。
ベッドの中ではあまり動き回れないが、大聖堂にある長椅子に手をついて横移動すれば、立ち上がって歩く練習が出来そうではないか!
ハーディは長椅子トレーニングをイメージしていた。
(よしっ! 早速トレーニング開始だ)
大聖堂の長椅子に到着したハーディは早速掴まり立ちのトレーニングを開始する。
計算外だったのはベッドのような棒状ではなく、板状の壁になっていたため、掴まるというよりは寄りかかるような形になってしまったことだ。
実に力を入れにくい。
(むむっ・・・、これは難しい)
必死で立ち上がるトレーニングをしているハーディだったが、こっそり逃げ出してきた身である。気づけばハーディをシスターたちが探していた。
「ハーディちゃ~ん」
「ハーディちゃ~ん」
「ハーディちゃ~ん、どこ~」
ニーナまで探しに来ているようだ。
見つかれば当然ベッドに連れ戻される。
掴まり立ちで横移動するトレーニングをするには些かベッドは狭すぎる。
ここは見つからずやり過ごしてもう少しここでトレーニングをしたかった。
こそこそと見つからないように移動しながら、長椅子に寄りかかってトレーニングを続けるハーディ。
そして、ハーディ捜索隊にトーリとタニアも加わってきたようだ。
「ハーディが居なくなったんだって?」
「どうせその辺で寝っ転がってるんじゃないのかい?」
タニアよ、それはあんまりではないか?
ハーディは若干自分に対する扱いが雑なことに不満を覚えるが、それよりトレーニングと気持ちを切り替える。
「ハーディちゃん見つかりません」
「ごめんなさい、私がハーディちゃんからちょっと目を逸らしちゃったから~」
シスターやニーナの心配する声が聞こえる。
すまんな、我は孤高にトレーニングを行うのだ。
さらにハーディは立ち上がるトレーニングに没頭していく。
だがしかし!ついにここでハーディ追跡の切り札が投入されようとしていた。
「クラリスちゃん、ハーディちゃんを見つけてね~」
「バブゥ♡」
ニーナの声が聞こえたかと思うと、クラリスの嬉しそうな雄たけび?が聞こえて来た。
(ク、クラリス・・・、ヤバイ!)
クラリスはハーディがどこにいてもなぜか位置を把握して見つけてしまう。
そして一度掴まると一向に離してくれなくなるのだ。
(イカン! ここから離脱せねば!)
急いで大聖堂ホールから出ようとするハーディだが、時すでに遅し、高速ハイハイによりクラリスは大聖堂ホールに到着していた。
「バブバブゥ♡」
「あ、こんなところにいたのかい、ハーディ」
「ハーディちゃん、居た~」
すっかりみんなに見つかり、囲まれてしまうハーディ。
このままあっさり捕まってしまえば、ベビーベッドに回収されておしまいである。
本日のトレーニングの成果を確認することもままならない。
(ならばっ!)
闘気を纏うが如く気合を入れるハーディ。
いつもならハーディに突撃してひしっと抱きつくはずのクラリスがピタッとハーディの前で止まる。
「バブバブゥ♡」
まるでハーディを応援しているかの如く少し離れたところで笑顔を見せるクラリス。
そのクラリスを優しく抱きあげるニーナ。
(今日のトレーニングの集大成、見せてくれるわ!)
ハーディは両足に全力で力を入れて行く。
(ぬううっ! 我が生涯に一片の悔いな~~~~~し!)
どぉぉぉん!
見事に両足立ちして、右手を天を割るかの如く突きあげるハーディ。
「「「うおお~」」」
「ハーディが・・・ハーディが立った!」
「見事な立ちっぷりだねぇ」
「ハーディちゃんすごいね~、もうたっち出来るのね~」
「バブバブゥ♡」
全力で立ち上がった事を若い神官たちやトーリ、タニア、ニーナ、果てはクラリスまで全員がハーディの1人たっちに歓声が上がった。
右手を突き上げたまま、周りの歓声に包まれるハーディ。
(ちょっと・・・気恥ずかしいものがあるな・・・)
ハーディはちょっぴり大人の階段を上がった。
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