7 今日がその明日
「あなたが翔び立つ明日は、いつ来るの?」
お風呂で、鈴ちゃんの言葉をゆっくり考えてみた。
確かに私は逃げてた。
恥ずかしいとか、ふられたらどうしようとか、考えてた。
「さっさと告白しないと、告白もできずに終わることになる」──そうだよね。私のほかにも、七男君のこと好きな人がいてもおかしくないよね。
七男君が誰かと付き合うようになった時、「あの時、告白してたら…」なんて思わないですむように。
告白できないで後悔するよりは、当たって砕けて泣いた方がいいよね。
頑張れ、小鳥遊明日翔。明日こそ翔び立つのよ。
翌朝、鞄の中のタオルを確認する。
大丈夫。今日こそ絶対に渡すからね。
「おはよ、明日翔。気合い入ってんね」
「遥ちゃん、私、頑張るから」
教室に入ると、遥ちゃんが声を掛けてきてくれた。
鈴ちゃんは、自分の席に座ってこっちを見てる。
私と目が合うと、黙って右手を挙げて親指を立てた。
なんだか緊張して、よくわからないうちに放課後になって。
タオルの入った鞄を持って、グランドに向かう。
いつものように練習を見ていると、なんだか七男君の様子がおかしい。
どこがどう、というわけじゃないけど、なんというか、そう、元気がない気がする。
もしかして、昨日何かあったのかな?
元々レギュラーじゃないから、レギュラー降ろされて落ち込んでるってことはないだろうし。
あ、もしかして、昨日レギュラー決めがあって、入れなかったとか? う~ん、でも練習内容はいつもと変わってない気がするけど…。
そうこうするうちに、休憩に入って。
七男君は、なんとなく…本当になんとなくなんだけど、トボトボって感じで歩いてる。
どうしよう…元気がないから、今日はやめておいた方がいいかな…。ううん、それじゃ昨日までと同じだもの。
鈴ちゃんが言ってたとおり、マネージャーさんがチラチラと七男君の方を見てる。
私は、すくむ足を無理矢理動かして、頭から水をかぶってハンドタオルを出した七男君に近付いた。
「あの、七男君、タオル、使って!」
タオルを差し出すと、七男君は一瞬「え?」って顔をした後、
「さんきゅ!」
と嬉しそうに受け取ってくれた。
今よ、明日翔、勇気を出して!
「あの、あの、七男君、私、七男君が好きです!」
言えた! 言えたよ、鈴ちゃん!
「え…小鳥遊さん、今、なんて? あ、いや、聞こえなかったってんじゃなくて、えっと、あ~、ホントに!?」
「うん…」
頬が熱い。きっと私、今、耳まで真っ赤になってると思う。
だって、そう聞いてくるってことは…。
「俺も! 俺も小鳥遊さんのこと気になってたんだ!
練習見てるのは知ってて、俺のこと見てくれてたらいいなって思ってた。
でも、一昨日、あいつがシュート決めた時に『やった!』って声が聞こえたからさ、見てくれてたの、俺じゃなかったのかなって。
昨日は来てなかったし、ちょっとがっくりしてた」
それで、今日、元気なかったの? 私のこと、待ってくれてた?
「あの、あれは、七男君がパスしたボールがゴールされたから…」
「そうなんだ! やった!」
七男君が私をぎゅっと抱き締めてくれた。
嬉しい。七男君も私のこと…。
「あ~、盛り上がってるとこ悪いんだけどな、奏太。
練習再開っつったんだけど、聞こえなかったか?」
「どわっ!?」
部長さんから声を掛けられて、七男君はパッと私から離れた。
気が付くと、グランドの方では口笛で囃し立ててる人もいる。
こうして、私の一世一代の告白は、恥ずかしいおまけを付けて成功した。