6 永遠に来ない明日
「さて、それじゃ事情とやらを聞こうか」
いつものファミレスに連れてこられて、飲み物を用意したところで、遥ちゃんが鈴ちゃんに言った。
ちょっと待って。私に聞かないのは嬉しいけど、なんで鈴ちゃんに聞くの? たしかに鈴ちゃん、事情は大体わかるみたいなことを言ってたけど。
「端的に言うと」
ハーブティーを一口飲んだ鈴ちゃんは
「明日翔は、明日、サッカー部の彼に告白するべき」
本当に、一言で説明してしまった。
「ちょっと鈴、告白と明日翔の泣き腫らした目と、どういう関係なんだ? ふられたとかじゃないんだろ?」
「それ以前の問題。でも、このままなら時間の問題」
ちょっと、あの、鈴ちゃん?
「遥は知らないだろうけど、明日翔は、このところサッカー部の練習をじっと見てる。
七男奏太に渡すためにタオルを持ち歩いてるくせに、渡せないでいる。
このままだと、マネージャーが先にタオルを渡してしまいそう。
そうなったら、完全にタイミングを失う。
だから、明日しかない」
「え、そうなの?」
遥ちゃんは、呆れたように私を見てる。
だって、渡せないんだもの。
「なんで鈴がそこまで詳しいのかはおいといて、明日翔、そうなのか?」
「あの…まぁ、その」
「そっか。で? マネージャーって?」
「サッカー部のマネージャーは、今2人。
1人は2年で、もう1人が1年。
1年のマネージャーの方は、最近、七男奏太とよく話してる。あの様子なら、近いうちに告白すると思う」
告白? マネージャーの子が?
「なんでわかるの!?」
「むしろ、なんで毎日見てる明日翔が気付けないのかと聞きたい。
明日翔は、もう少し周りに気を配った方がいい」
鈴ちゃんは呆れ顔だ。そんなの、わかるわけないと思うんだけど。
「昨日、水飲み場に近付くタイミングを伺ってた。
明日翔と一緒で、踏ん切りが付いてないようだけど、2~3日中には動くはず」
「えええ!? あの、鈴ちゃん、昨日、見てたの!?」
「だから、気が付かないのがおかしい。
私だけじゃない、マネージャーの方も明日翔のことには気が付いてる。
だから、向こうもタオルを用意した。でも、逆に言えばそれほど焦ってないから、今なら間に合う」
間に合うってなに!?
「だったら、今日、こんなことしててよかったのか?」
「今日は、多分大丈夫」
遥ちゃんには意味が通じてるみたい。
私のことなのに、どうして私だけわかんないの?
「あの…間に合うって?」
こっちを向いた鈴ちゃんの目は、なんだか怒ってるみたい。
「明日翔、ここが分岐点。
今勝負をかけないと、不戦敗決定」
不戦敗?
「私、勝負なんてしてないよ?」
「恋は戦い。
七男奏太と付き合えるのは、1人だけ。
今、明日翔にはライバルが現れた。
さっさと告白しないと、告白もできずに終わることになる。
今まで明日翔は、明日こそ明日こそと言いながら、何もしなかった。
そういうのを“永遠に来ない明日”と言う。
あなたが翔び立つ明日は、いつ来るの?」
「いつか翔び立つ」、それは鈴ちゃんと出会った時に言われた言葉。
鈴ちゃん、覚えててくれたんだ。
涙が溢れてきた。目の前がぼやける。
「あ、おい、鈴。言い過ぎだ。謝れ。
明日翔、泣いてるじゃないか」
「これくらい言わないと、明日翔にはわからない。謝る理由はない」
私の涙を見て、遥ちゃんが慌ててる。
2人とも優しい。
こんな私を、まっすぐ相手してくれてる。
「遥ちゃん、大丈夫。
あのね、私、嬉しいんだよ。
遥ちゃんと鈴ちゃんと友達になれて、本当によかった。
明日、七男君に告白するから」
明日こそ、必ず。