4 片想い
私が七男君を好きになったことは、すぐに遥ちゃんと鈴ちゃんにばれた。
「ねえねえ明日翔、昨日、サッカー部の練習、えらい真剣な顔で見てたじゃん。誰がお目当て?」
3人でお弁当食べてる時にそんなことを言われて、危うく卵焼きをまき散らすところだった。
大声を出しそうになって、慌てて声を抑える。
せっかく遥ちゃんが周りに聞こえないくらいの声で話してくれたのに、台無しにするところだった。
「なんでそのこと知ってるの!?」
「そりゃあ、なんかコソコソ覗いてる感じだったから。
あ~、こりゃサッカー部に好きな奴がいるんだなって」
こういう時の遥ちゃんは、かなり厳しく突っ込んでくるんで困ってたら、鈴ちゃんが助け船を出してくれた。
「こんなとこで話すようなことじゃない。
学校終わったら、どこかで腰を落ち着けて話した方がいい」
助け船じゃなかった。逃げ道を塞がれた。
「で? 誰がお目当てだって? 言ったんさい」
放課後、本当にファミレスに引っ張ってかれた。
4人席のテーブルで、私は片方の真ん中、向かって左に遥ちゃん、右に鈴ちゃん。
とりあえずそれぞれドリンクバーから飲み物を持ってきたところで、遥ちゃんが話し始めた。
「サッカーに興味があるわけでもない明日翔が練習を眺めてるなんて、男目当てに決まってるよね!」
確かにそのとおりだけど、その決めつけはひどくない?
「…選択書道の彼、だよね?」
「彼!?」
遥ちゃんが驚いてる。でも、鈴ちゃんが言った「彼」は「he」であって「boy friend」って意味じゃないと思うよ。
ていうか、鈴ちゃん、なんで知ってるの!?
「明日翔は、顔に出るから」
「いやまあ、明日翔のこの顔見れば、当たりだってわかるけどさ、書道の彼って誰? いつから付き合ってたの、明日翔」
だから、heだってば、遥ちゃん。
「あの、付き合ってないから。
七男君とは、選択で一緒なだけで、その…」
だけ、じゃない。ないけど、今はまだ「だけ」なの。
「まだ付き合ってるわけじゃない、と。いつ、どこで知り合った?」
「えっと、その、4月に特別教室の行き方がわかんなくて迷ってた時に連れてってくれたの。
あと、墨汁貸してあげたら、同じのの新品を買って返してくれたんだよ」
「それだけ!?」
それだけってことないよ、遥ちゃん。大事なことだよ。
あの墨汁、あんまり売ってない種類なのに、わざわざ探して買ってきてくれたんだよ!
「あ、あとね、困ってるおばあさんの自転車を直してあげてた」
「自転車ぁ?」
「あの、チェーンが外れて困ってたの。私じゃ直せなくて。それで、七男君、通りがかって、直してくれて。親切だなぁって」
遥ちゃんは「ふ~ん」って言って腕組みして、何か考えてるみたい。口にストローでもくわえてたら似合いそうなポーズ。
あ…この顔は、多分、よくないパターンだ…。
「それじゃさ、明日翔は、そのナントカ君と付き合いたいわけだね」
「ナントカじゃなくて七男君! って、あの、付き合うとか、そんなのじゃなくて、私は、ただ、いいなぁって」
うう…顔が熱いよぉ。きっと私の顔、今真っ赤だよね。
「だから、それが好きってことなんじゃないの?
ちゃんと気持ちを伝えないと」
「遥。こういうことは急かしちゃ駄目。
明日翔がきちんと自分の心に向き合って、告白しようって思える時が来たら動くべき」
遥ちゃんがたたみかけようとしたところで、鈴ちゃんが止めに入ってくれた。
よかった。いつも冷静な鈴ちゃんは、私の気持ちをわかってくれるんだ。
…と思ったのに。
「こういうことは焦っちゃ駄目。
じっくりと熟成させてからの方がおいしくなる」
鈴ちゃんも面白がってるだけだった。遥ちゃんよりタチが悪いよぉ。